抗体検査キットで「救世主」を探せ!

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 先日、2017年1月14日放送「NHKスペシャル MEGA CRISIS 巨大危機~第3集「ウイルス“大感染時代”~忍び寄るパンデミック~」をたまたまインターネットで見て、戦慄を覚えた。
 3年前の時点で、世界がコロナ危機に陥っている現在の様子を、そのまま予言していたからだ。
 冒頭から医療崩壊する情景が描かれ、「最悪数十万人の死者が出る可能性がある」「平穏な日常が、突如、危機へと変貌する。それが私たちの生きる時代です」というセリフから始まる。
 そして、「20世紀以降、人類の命を最も多く奪って来たもの。それは戦争でも自然災害でもありません。ウイルスの感染爆発、パンデミック。新たな危機の可能性が年々高まっています。その一つが、強い毒性と感染力を兼ね備えた新型インフルエンザウイルス。最先端の研究は、その最悪のウイルスがヒトからヒトへと感染を広げる能力を持ちつつあることを突き止めました」との語りから始まる。
 3年前、専門家にはすでに分かっていた。番組は「人類がこれまで経験したことがない大感染時代。ウイルスとの果てしなき攻防に迫ります」と始まる。
 司会の有働由美子アナウンサーは、「普通の感冒とは全く違う、死に至る可能性の高いウイルス感染症の爆発的流行がまじかに迫っているのです」と警鐘を鳴らす。
 一例として鳥インフルエンザを説明し、本来、ヒトにはうつらないこのウイルスが、ヒトに感染する例が増えていることが報告された。これがヒトにうつると、重篤な肺炎が起こされ、肝臓や脳まで犯されて多臓器不全に陥って亡くなる。これがウイルスの変異により、ヒトからヒトへ感染するようになる可能性が高まっていることが、専門家から指摘されている。
 鳥(42度)とヒト(36度)は体温が違うので、鳥のウイルスは一旦ヒトにうつっても増殖できず、ヒトからヒトへは広がりにくかった。
 ところが鳥とヒトの中間の体温(39度)を持つ豚は、両方のウイルスにかかりやすい特性があり、豚の体内で両方のウイルスが混ざって、ヒトの体でも増殖しやすい形に変異するのは時間の問題ではないかと問題提起されている。
 もう1点、ヒトからヒトに感染するには、ウイルス細胞の「表面の突起形状」が、ヒトの細胞と結合するには適合していなかった。そのために、ヒトからヒトへは感染しにくかった。その結合形状に関する遺伝子はわずか4つだけであり、ウイルスの素早い変異によって、その壁もいずれ破られるのではと、同番組では予測されていた。
 それらの壁が突破されると、ヒトからヒトへの感染爆発が起きる可能性があるという。
 東北大学のウイルス学専門家、押谷仁教授がスタジオにゲストとして呼ばれ、「最悪のウイルスがヒトからヒトに感染するのは、まじかなんですか?」との質問に対し、「もしかしたら今年起こるかも知れないし、10年後であるかもしれない。20年後であるかもしれない。いつ起こるかは正確に予測することはできませんが、おそらく確実に起きてくるだろうということは、間違いないと見ています」と、3年前の時点で断言している。
 《国の想定では感染爆発が起きた場合、国内で最悪64万人が死亡する》という衝撃的な数字も紹介している。
 この押谷教授は実際に今回、日本政府の「専門家会議」のメンバーを務め、コロナウイルス対策の最前線に立っている。
 一般庶民にとってコロナウイルスの感染爆発は突然起きたように見えるが、専門家にしてみれば前々から発生が予測され、警告されていたものだったのだ。

「注視すべきは死者数。本当の感染者は10倍から15倍いる」

医療関係の緊急物資輸送を手伝うブラジル空軍機(S.A Soares/FAB)

 今回のコロナ対策では、どの国でも「普通の風邪ていどの症状だったら病院にいかないで。病院に行くのは呼吸が苦しくなるなど重症化してから」という呼びかけがされている。
 風邪の症状が出たからと言って、みなが病院に押しかけたら、あっという間に医療崩壊することは目に見えている。だからこのような呼びかけをしていることは、一目瞭然だ。
 だが、これが意味することは、もう一つある。「コロナ感染しても軽症なら自宅で静養して直してください」というメッセージだ。
 感染者の8割は軽症で治り、感染したことに気付かない人すらいるという。感染者でも重篤化しない人はほっておく、感染者数にすら数える必要はないという考え方だ。
 だから現在、感染者として数えられている人は、症状が悪化して病院に運び込まれ、検査が必要と医者が判断した人だけだ。それが感染者数として公表される。だから、感染者の実数とはかけ離れている可能性が高いと思っていた。
 だから2日晩、ジョルナル・ダ・クルツーラに出演したクリニカス病院医局長、アルナルド・リッシェンステイン氏による次のコメントを聞いて、腑に落ちた。「検査が普及すれば、感染者の数はどんどん増える。感染者の数自体はどんなに多くても別に気にすることはない。問題は重篤患者や死者の数、その点だけを注視すべきだ。だいたい、実際の感染者数はあの数字の10倍から15倍はいると考えたほうが良い」と明言した。

集団免疫でコロナを退治できるか

 毎日、保健省が発表している感染者数の10倍、15倍はいるという専門家の意見は衝撃的だ。その一方、そんなにたくさん感染者がいるなら、その割に重篤化して病院に罹っている人は少ないともいえる。
 そこで、気になるキーワードは「集団免疫説」という考え方だ。国民の6割から7割が感染して免疫ができれば、その集団内ではそれ以上ウイルスは感染しなくなるというものだ。
 英国のボリス・ジョンソン首相が最初の頃に唱えた考え方だ。子どもや若者を中心に感染を先に広めて、国民の広い層が免疫を持って集団免疫の状態になれば、最終的に高齢者も救われると説き、当時話題になった。
 だが、実際には集団免疫ができる前に感染爆発が起きて、数千、数万人が犠牲になることが批判され、ジョンソン首相は引っ込めた。
 この話を最初に聞いた時、感染者が治ると、全員がコロナウイルスに対する「抗体」(anticorpos)を持つのかと思っていたら、そうではないらしい。
 ヤフーニュースにある、免疫学の第一人者・大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授へのインタビュー(https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200329-00170179/)によれば、人間の体に備わっている免疫機構には、「自然免疫」と「獲得免疫」という2種類があるのだという。
 「自然免疫」は生まれつき持っている免疫機構なので、外から入って来たウイルスなどの病原体と戦っても抗体ができないという。「獲得免疫」が働きだす前に、まず「自然免疫」が動き出してやっつける。それがダメな時だけ、「獲得免疫」が出動するということだ。
 そのように「獲得免疫」は、生まれたときにはなく、病原体などと戦った後に獲得する能力なので、体には抗体という免疫記憶ができる。
 だから一度感染した病気には二度かからなくなる。これが多くの人が居る集団でできると、集団免疫ができるというものだ。
 ただし、宮坂教授の話によれば、《最近、自然免疫といえども、少しは記憶があって、二度、三度、感染を繰り返していると、ある程度は強くなりそうだということがわかってきました。その例として、結核ワクチンであるBCGを投与すると、結核とは関係のない感染症が子どもで減ることがわかってきました》という。
 5日午後5時時点で発表されている感染者数は1万11130人、死者486人。実際にその20倍いるとしても20万人だから、ブラジル人口2億人の0・1%に過ぎない。ブラジルの人口の半分が感染して集団免疫状態になるまでに、現在の1千倍(48万人!)もの犠牲者が出る可能性がある。
 やはり、集団免疫という対処法は現実的ではなさそうだ。

BCGはコロナ災禍の救世主か

世界のBCG接種国地図。A=肌色の地域は接種義務国。B=紫色の地域は過去に接種義務国だったが、止めてしまったところ。C=昔から接種義務がなかった国。明らかにB、C地域で死者が多い。「何らかの相関関係がある」との声が出ている(出所:The BCG World Atlas: A Database of Global BCG Vaccination Policies and Practices)

 「BCG」とは結核を予防するワクチンの通称。ポ語名は「Vacina BCG」だ。日本では生後1年の間(通常生後5カ月から8カ月の間)に接種する。上腕部に点々の痕が残ることが多い。
 今回のコロナウイルスでは、「BCGワクチンを幼児に強制投与している国では、コロナウイルス感染の死者が少ない」という仮説が注目されている。
 感染症専門医の忽那賢志氏も、ヤフーニュース4月4日付(https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200404-00171439/)で《確かにBCGワクチンを定期接種にしている国(日本、中国、韓国、香港、シンガポールなど)は感染者が少なく、接種をしていない国(イタリア、スペイン、アメリカ、フランス、イギリス)は多いように見えます。確かに相関関係はあるようです》と書いている。
 接種をしないイタリア、スペインに比べて、しているポルトガルは比較的少ない印象だ。
 まだ南米でも接種していないエクアドルは比較的死者が多い。本紙4月3日付でも《エクアドル=コロナ病死者を路上火葬?!=医療や葬儀間に合わず》と報じた。
 もし相関関係があるならば、BCG接種国であるブラジルには朗報だ。イタリア、米国ほどは死者が多くならない可能性がある。現在まで、ブラジルの感染者数はどんどん増えているが、死者数がイタリアや米国ほど激増していない現実の裏には、BCG接種が関係しているのかもしれない。
 もちろん、BCG接種義務国だからと言って安心してはならない。高齢者、中でも糖尿病や高血圧をはじめとする基礎疾患を持っている人は多く、リスクは常に抱えている。

ブラジルでも1976年からBCG義務と報じる記事

 ちなみにブラジルは1976年、4歳児までに接種することが義務化されたので、現在48歳以下の人の多くは接種している。ただし、49歳以上の年齢の人は接種していない可能性が高いので、要注意だ。
 ヤフーニュース「BCG接種で新型コロナの感染は防げるか」4月3日付(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200403-00060006-jbpressz-soci&p=3)には、こんな一文もある。
 《そのメカニズムは不明だが、BCGがコロナの抗体をつくるわけではなく、結核にもコロナにも共通の免疫記憶をつくるのではないかと推測されている。これは特定の病原体に対する抗体ではなく、多くの病原体に幅広く抵抗力を示すもので、BCGにそういう作用があることは昔からわかっている》
 ただし、日本ワクチン学会は4月3日付で次のような注意を発表した。
《★新型コロナウイルスによる感染症に対してBCGワクチンが有効ではないか」という仮説は、いまだその真偽が科学的に確認されたものではなく、現時点では否定も肯定も、もちろん推奨もされない。
★本来の適応と対象に合致しない接種が増大する結果、定期接種としての乳児へのBCGワクチンの安定供給が影響を受ける事態は避けなければならない》
 また日本移民の場合、日本の全面的なBCG接種開始は1951年以降なので、現在70歳以上の高齢者は接種していない可能性があるので、やはり注意が必要だ。

抗体検査キットの幅広い、積極的活用を

 コロナ危機で一番の問題は医療崩壊だ。
 日本や韓国で感染者の割に死者が少ないのは、医療崩壊していないからだ。これがイタリアやスペインなどのように医療崩壊すると、多くの重篤患者が医療を受けられずに死ぬことになる。
 ウイルスが肺を直撃して機能が低下するので、それを補うために人工呼吸器が必要になり、その数を超えた時点から急激に死者が増える。そこからが医療崩壊だ。
 つまり、保健省が公表する感染者数がいくら多くても、医療システムが支えられる範囲内で重篤患者が運び込まれるなら、大きな問題はない。サンパウロ州やリオではそこを補強すべく、野営病院をどんどん増設している。
 その野営病院の収容能力を超えるほど多くの重篤患者が増えたときからが、本当の危機になる。

コロナウイルスのテスチ・ラピドの有効性を試すフィオ・クルス研究所(Josué Mamacena/Fiocruz)

 コロナウイルスで陽性かどうかを調べるのに、従来は、高価で時間がかかる「PCR検査」を使っていた。保健省は先週から、その代わりに、安くて早い「抗体検査」キットを「testes rápidos para o novo coronavírus」と称して大量購入している。
 ヴァーレ社は5千万回分の同キットを保健省に寄付した。「PCR検査」は結果が出るのに1日以上かかるのが、後者は血を一滴たらせば15分程度で結果が判明するので確かに早い。
 だがこのキットは本来、「現在罹っているかどうか」を調べるものではない。コロナウイルスに罹って「抗体ができているか」を調べるものだ。大事な点は、諸説あるにしても、抗体がある人はもう二度とコロナには罹らないと言われていることだ。
 つまり抗体を持った人たちは、もう他人に感染させることはない。しかも、コロナウイルスが蔓延した環境の中でも、マスクや医療防具を使わずにコロナ患者の治療にあたれるという素晴らしい能力を持った「救世主」のような人たちだ。それが、このキットで検出できる。
 ゲデス経済相も4日に行われた大企業関係者とのオンライン会議で指摘しているが、すでに罹患して抗体を持っている医療関係者や病院労働者は、今後は積極的に治療最前線で活躍してもらうべき存在だ。彼らの活躍が、ブラジルを医療崩壊から救うかもしれない。
 一般市民で、BCG接種をしたような48歳以下の青年層や、「感染済みかも」という自覚のある人にも、この抗体テストを広く開放し、やってもらったほうが良い。
 ブラジルでは今週から、抗体を持っている人から血液を採取して血漿をとりだし、重篤患者に接種して病状が改善するかどうかの試験を始めている。抗体を持っている人の存在は、今のブラジルにとって得難い宝だ。
 抗体検査キットが普及したら、「公表された感染者数の10倍から15倍も感染済みの人たちがいる」ことは、むしろ喜ぶべきプラス材料だ。彼等は経済活動の救世主にもなれるからだ。
 彼らはいくら外に出て働いても大丈夫だ。経済活動を復旧する先兵になってもらえば、外出自粛による経済ダメージを抑えられる。もちろんこの件には、きちんとした検証が必要だ。だが、世の中、あながち悪いニュースばかりではない。(深)