■記者の眼■在日ブラジル人にも10万円給付を

空港で別れを惜しむデカセギ訪日者の写真を1面に掲載したエスタード紙2018年5月11日付1面

 先日、親が日本でデカセギしているある日系子弟に話を聞いた時、「群馬県の自動車部品工場でパート労働している母は、コロナの関係でいきなり1カ月休業を言い渡されました。外国人のほとんどは正社員じゃない。何かあれば、真っ先に集団休暇を取らされたり、首を切られたりする。日本社会のしわ寄せが一番集まる部分。なんらかのセーフティネット(救済策)がほしい」と訴えていた。
 そんな矢先、共同通信16日付の記事《『首相、補正予算案組み替えの方向で検討指示』=安倍首相は16日、新型コロナウイルス対策として、国民1人当たり10万円の現金を一律給付するため2020年度補正予算案を組み替える方向で検討するよう指示した。政府関係者が明らかにした》を読んだ。
 ここには在日ブラジル人も対象にされているか明記されていない。そのため、在日日系社会内にさまざまな疑念が湧き上がっていると聞く。
 在日ブラジル人は90年代のデカセギブームの頃から「雇用の調整弁」と言われ、最も脆弱な雇用環境の中で働きながら、日本の生産現場を支えてきた。ほとんどセーフティネットがない中で、日本人労働者よりも先に、新型肺炎による雇用悪化の直撃を受けていると考えられる。
 安倍政権は、昨年4月から特定技能制度を実施し、外国人労働者導入を誰よりも進めてきた。ここで外国人を支援対象からはずせば「無責任な外国人招致」と言われかねない。「やっぱり外国人は使い捨てか」と言われないようにするには、少なくとも永住権所有者には支援し、できれば労働可能なビザで日本にいる外国人にも広げるべきではないか。
 2008年の金融危機の後、日本政府は日系人に対して帰国支援策を行った。今回はやらないでほしい。腰の座っていなかったブラジル人は、あの時みな帰国した。今残っている人の大半は永住組。彼らは日本社会を支える人材だ。
 そんな在日ブラジル人の子弟は日本の未来を支える多文化人材に育つ可能性が高い。本紙既報の通り、すでに東大生、弁護士も生まれている。日本人と同様に、彼らにもしっかりと救済の道を開いてほしい。
 返す刀で言わせてもらえば、ブラジルなど海外在住日本人には支給する必要はないと思う。在住国の国民であり、必要があれば、そこで支援をうけるべきだからだ。
 いま問われているのは、在日ブラジル人は「日本国民」なのか―という安倍政権の判断だ。
 ブラジル在住日本人およびブラジル日系社会の立場からすれば、日本永住を決めているブラジル人も当然、日本国民の一人のはずだ。ぜひ10万円の現金支給をしてほしい。(深)