特別寄稿=ラ米諸国の経済回復の見通し=中南米も中国の代替生産地候補?=パラグァイ在住 坂本邦雄

南米で最も新型コロナの直撃を受けた国の一つ、エクアドルでは棺が足りなくなり、ダンボール製まで使われた(Alcadia /Fotos Publicas)

 先ず、一見したところでは最近の国際主要諸機関の、ラテンアメリカ経済の回復予想には泣きたくなる。
 要するに、それらのコメントによると、過去約一世紀において、かつて無かった様な大不況に襲われると云うのだ。
 しかしその中で、必ずしも見捨て難い、〃好ましい情報〃が無い訳でもない。
 確かに、IMF(国際通貨基金)は、ラテンアメリカ及びカリブ海の経済は一般に約平均3%強の成長レベルのところを、5・2%にも下落すると、新たな報告で指摘している。
 今年のベネズエラの経済は15%減じ、続いてメキシコは6・6%、そしてアルゼンチン5・7%、ブラジル5・3%、チリー4・5%及びコロンビアは2・4%と、それぞれの経済は落ち込むとIMFは予告する。
 一方、世界銀行の調査では、本年度のラテンアメリカ及びカリブ海地域の経済は4・6%減退すると云う。
 ただし、この世銀の平均値には、ベネズエラに関しては、当該データの信憑性が疑わしいので、含まれて居ない。
 多くのラテンアメリカ諸国は中国への輸出の減退、原油価格の激減、観光業の崩壊や出稼ぎ人の家族への送金減少等の、同時インパクトの重なりで、端的に云って一種の大暴風の被害を喫する事になろう。
 しからば、〃好ましい情報〃とは何を意味し、又は何処に存在するのか?

週末、米ボーイング社がエンブラエル社との契約を破棄するなど、コロナの悪影響を受けるブラジル産業(Sgt. Batista/Agência FAB)

 先ず言えるのは、今回の経済危機は、かつて2009年に起きたリーマン・ショックや1929年の世界大恐慌の際よりも、遥かに短い期間で終わるだろうと期待される事である。
 コロナウィルスCovid‐19感染第2波による波乱は別とし、世界経済及びラ米諸国は、今年の7月以降に回復し始めて、2021年には再び成長期に入る。
 比較して、かつての1929年の世界大恐慌は略10年間続き、2009年のリーマン・ショックは2年間弱で終わった。
 IMFによれば、来年のラテンアメリカ及びカリブ海諸国の経済成長率は、3・4%で、2022年から2025年にかけては年平均2・7%の成長率を保つと予想する。
 世界銀行では、来年のラ米地域の経済成長率は2・6%とみており、その中で最も伸びが速いのは、ペルー、ウルグァイ、チリー及びコロンビアだと世銀は述べて居る。
 IMFのラテンアメリカ局々長のアレハンドロ・ウェルナー氏は、2009年及び1929年に起きたそれぞれの経済不況が、既存の経済や財政動向によって起こったものと原因が異なるのは、この度はCovid-19の感染拡散の防止対策に、経済の〃昏睡状態〃が一般に、作為的な誘導で、惹き起された点にあると語った。
 しかる事態であれば、Covid‐19の問題が解決さえすれば、一般経済は凡そ迅速に回復するだろうとウェルナー氏は付言した。
 第2は、世銀のラ米経済担当首席のマルティン・ラマ氏の意見では、ラテンアメリカ及びカリブ海諸国は、幸運にもパンデミアブームを最後に被った国々で、先に被害を受けた外の地域諸国の経験を良く学べて、当該対策の準備に充分な時間が得られた事である。
 第3は、中期間において、ラ米諸国―特にメキシコ―は黄金の時期を迎えるので、ポストCovid-19の、世界新貿易体制を活用出来る好チャンスに恵まれる。
 これ迄に、合衆国の企業は中共、詰り中国からの物資供給に非常に大きく依存していた。その補給源が今後は必然的に、多様化する傾向にあるのだ。
 多数の企業は、去る2月、3月に中国がパンデミアブームのせいで、生産業を閉鎖した時には、部品や構成物資の在庫の殆どが払底状態に陥った。
 「企業群が物資供給チェーンの危機や欠点を改善させるに連れて、中国以外の国々に代替補給源を物色するだろう」とニューヨーク研究センターの、アメリカ局審議会のエリック・ファンスワーズ副会長は指摘する。

国際通貨基金サイトにある世界経済の見通し

 そして、「この形勢はラテンアメリカ及びカリブ海諸国に、発展の絶好のチャンスを提供するものである」と云う。
 これに対しての、ラ米諸国の大きな挑戦は、それぞれが生産性向上を図り、より効率的な競争力を養うべき事である。
 なぜなら、先ず多国籍企業の最初の反動は、中国からの生産工場を台湾や東南アジアの国々に移動させる傾向が見られるからだと、ファンスワーズ副会長は云う。
 つまり、これら全てのデータを総合すると、2020年のラテンアメリカの情勢は、必ずしも暗黒で陰性的な年だと恐れ、悲観は出来ないのである。
 しかし過去、大衆がそれぞれ経験した世界大恐慌(1929年)や、リーマン・ショック(2009年)で苦悩した期間よりも、今回は短くて済み、かつ当を得た事業の発想や努力次第で、好いチャンスが掴めるだろう。
 正に「希望は決して失わずに、絶望するなかれ!」である。

(※本稿は、米マイアミ市在アンドレス・オッペンハイマー記者の21日付記事が、当地の24日付ABC Color紙に載ったのを、参考にしたものです)。