《ブラジル》感染爆発真っ最中に保健相が突如辞任=2人目交代で宙に浮くコロナ対策

正式就任から29日で保健相を辞任したタイシ氏(Jose Dias/PR)

 【既報関連】ブラジルでは、新型コロナウイルスの感染者が21万1992人、死者も1万4453人(15日昼時点)に達し、感染拡大の勢いが一向に収まらない中、陣頭指揮を執るべき立場のネウソン・タイシ保健相が、就任から1カ月を待たずに辞任した。
 タイシ氏は15日午前中、予定になかった大統領官邸訪問を行った後、保健省庁舎に戻り、辞任を発表した。
 タイシ氏は、エンリケ・マンデッタ氏の後任として、4月17日付で保健相に就任したばかり。マンデッタ氏はジャイール・ボルソナロ大統領(所属政党なし)と、コロナ対策で対立していた。
 ボルソナロ政権発足後11人目の大臣辞任を受けて、ブラジルの最大手TV局グローボは15日昼過ぎ、「保健相と大統領の対立点は主に四つ」と報じた。
 一つ目は、社会隔離政策についてだ。
 ボルソナロ大統領は、「高齢者や慢性疾患を持つ人など、感染した場合の命の危険度が高いハイリスクグループの人だけを隔離すべき」との持論だ。多くの州知事はそれに従わず、ハイリスク者やそうでない人との区別をつけずに社会隔離政策をとっていた。
 大統領は、指示に従わないマンデッタ氏を解任し、タイシ氏を後任に据えた。だが、タイシ氏も社会隔離政策に関しては、基本的に州知事寄りの姿勢だった。
 二つ目は、医薬品クロロキンについてだ。
 大統領は統一医療システム(SUS)の規約を変更し、同薬とその派生品のヒドロキシクロロキンを新型コロナ感染症の特効薬として、治療の初期段階から使うように働きかけている。しかし、クロロキンが新型コロナ感染症に効果があることは医学的に証明されておらず、医師でもあるタイシ氏は同薬承認を良しとせず、大統領にも危険性について忠告していた。
 ボルソナロ大統領は13日、「俺の指名で大臣になれたのだから、俺にとっての、“使える奴”でなくてはならない」と発言していた。
 三つ目は、11日に大統領が出した、「基幹業務拡大の大統領令」だ。

 大統領は、スポーツジム、理髪店、美容室を、社会を維持するために欠かせない基幹業務に加え、「コロナ禍の間も営業することを認める」との大統領令を出した。独断ではないように見せかけるため、「営業の際は保健省の指示に従うこと」とも書き込まれていたが、何も知らされないままで定例会見に臨んだタイシ氏はメディアから質問責めにあい、「私は聞いていないから、答えられない」と返答するのが精一杯だった。グローボは、「会見時、タイシ保健相の動揺は明らかだった」とまで報じた。
 四つ目は隔離解除についてだ。
 大統領は迅速かつより広範囲での隔離解除を要求していたが、タイシ氏はそれに賛同していなかった。
 後任はこれから選定されるが、大統領の指名で同省内の実務を取り仕切っていた、同省ナンバーツーのエドゥアルド・パズエロ陸軍大将が保健相代行に就いた。