歌手=中平マリコさんからメッセージ=「コロナで南米訪問できず残念」

 16年間、毎年4ヵ月前後もブラジル、パラグアイの日系集団地などを回ってコンサートを開催し、日本の歌を届けてきた歌手・中平マリコさん。今年はコロナウイルスのために南米訪問が不可能になった。17年ぶりに過ごす日本の夏、母と過ごす時間、日系社会への想いを綴ってくれた。(編集部)

2016年9月、中平さん呼びかけて行われた『第1回さあ~始めよう』の終幕風景(中央のピンク衣装が中平さん)

2016年9月、中平さん呼びかけて行われた『第1回さあ~始めよう』の終幕風景(中央のピンク衣装が中平さん)

 皆さん、お元気ですか? 中平マリコです。
 いつもならニッケイ新聞を通して、『ブラジルに帰ってきました!!』とご挨拶をさせていただく時期なのですが、今年はコロナウイルスのためにブラジルへ帰ることが出来なくてとても残念。皆さまのことが恋しいです。
 でも今は自分を守ることが、大切な人を守ることに繋がり、命を守ることに繋がるとひたすら『忍』の一字で頑張っています。
 ありがたいことに、ニッケイ新聞が『ブラジルの情報を知ることが出来るように』とインターネット新聞を送って下さっていますので、日系社会の様子を知ることはとても嬉しいことです。遠く離れたブラジルと日本が近くに感じられ、寂しい気持ちが少しどこかに消えてくれます。

アブラッソ(抱擁)とベイジョ(キス)

 世界中を恐怖と不安の渦に巻き込みながら、私たちの生活スタイルを「ガラッ!」と変えてしまったコロナウイルス。この匂いも、姿形もないコロナウイルスの為に、手洗いうがいは1日に何度も行い、顔にはマスク。
 人と話す時は2メートル以上離れて、出来るだけ人と触れ合わないように。
 そして新たに手に入れた品々は神経質なくらい消毒洗浄して…『わぁ~!?』毎日の生活に戸惑い本当に疲れますよね。最近のNHKニュースで、ブラジルのコロナ感染者数が世界2番目と言っていました。
 皆様は大丈夫ですか?
 一つ気になるのは、ブラジルの挨拶であるアブラッソ(抱擁)とベイジョ(キス)です。コロナウイルス騒ぎの中、当たり前のように行われてきたこの挨拶の禁止は、小さい子供達や認知症のお年寄り、障害を持つ子供達にどんな影響を与えるのだろう…と思います。
『何故、抱きしめてくれないの?』
『どうして人と人が離れて話すの?』
『どうしていつもマスクするの?』
『家族が来なくなったけど、私は捨てられたの?』
 きっと情緒不安定になるのでしょうね? 子供の成長過程にも大きな影響が出るのでしょうね?

南米訪問中、留守番頼んできた母との時間

 個人的なことですが、我が母ふうちゃん(90歳)も毎日の生活の中で日替わりメニューの様に気持ちが揺れ、時々、「寂しい光線」を発します。そんな時『ふうちゃん、あなたと会えなくなって今日で100日よ寂しいわぁ~』と、先手を打ちます。

コロナ騒ぎの直前、2月19日に福島県いわき市の文化センター大ホールで開催されたチャリティーコンサートで撮ったもの。いわき市の清水敏男市長と、主催者であるいわき市地域婦人会連絡協議会の皆さんと中平マリコさん(後列中央)

コロナ騒ぎの直前、2月19日に福島県いわき市の文化センター大ホールで開催されたチャリティーコンサートで撮ったもの。いわき市の清水敏男市長と、主催者であるいわき市地域婦人会連絡協議会の皆さんと中平マリコさん(後列中央)

 すると『何言うてるの? こうして携帯電話で顔見て話せるだけでも幸せやんか』と母の顔になり慰めてくれます。でも、またすぐに「寂しい光線」を発します。娘と会えない故の寂しさから子供になったり、お母さんになったり…きっと複雑な気持ちなのだと思います。
 母に留守番を頼みブラジルに出かける時より、今の方が本当に寂しいです。
 コロナウイルスは肉体破壊だけでなく、時には親子関係、兄弟姉妹関係、夫婦関係、恋人関係、友人関係など あらゆる人間関係を複雑にし、その上、政治、経済、国と国、医療、教育、文化、娯楽、スポーツ面での社会構図を大きく変化させました。
 そして自由が奪われ、仕事や、毎日の生活への不安から溜まるストレスに負けた人の心は病み、そこに生まれる虐待やいじめが、人を攻撃する方向に向かわせる…本当に恐ろしい病気です。
 母と二人きりの私が何より怖いのは、もし私が感染し、重症化し、命に関わったら母はどうなるのだろう? 母にお別れも言えず? とつい深刻に考えてしまいます。
 でも、悪いことばかりではなく、良いこともたくさん生まれている様にも思います。老若男女を問わず発信される様々なニュースや情報。
 その中には新しい生活スタイルが含まれ嬉しくなります。人はひとりで生きてゆけない大変な時だからこそ、今まで以上に人と人とが助け合い、認め合い、難問に立ち向かって行く素晴らしさを見つけることができます。
 命あること、生きていられることがどれほど幸せなことなのか医療現場で頑張って下さる先生方や、私たちのライフラインを守って下さる方々から強く感じることができます。

近い将来、また会いましょう!

 そして、命があれば、諦めなければ必ず前に進む「きっかけ/チャンス」を掴むことができる――を日々感じています。
 これは、私にとって過去16年間のブラジル、パラグアイ公演の中、教えていただいた先人の皆様の数々のご苦労や先の見えないご苦労の中でも希望を捨てず、夢を抱き、勇気を持って前進してこられた姿に重なります。
 『朝のこない夜は無い』―正にこの言葉に尽きる様な気がします。
 そしてもう一つ、この少しの休息時間が自然界に大きな休息を与えている様に思います。時折 見上げる夕空が綺麗なことに感動する私です。
 ただ現在、日本では地震が多く少し不安と恐怖を感じています。
 私見ですが、きっと神様が何かを教えようとして下さっているのではと、思ってしまう私です。そんな私は、今生きていること、生かされていること、全ての事柄に「ありがとう」の気持ちを抱き、感謝をしながら、17年ぶりの日本の夏に負けない様に体力づくりも含め頑張りたいと思います。
 そして毎年、私の帰りを待ってくれていた母のその時の思いをこの身体で感じとり、改めて感謝する時間にしたいと思います。ブラジル、パラグアイの皆様と会えないことはとても寂しく辛いことですが、今年は遠い日本から恋しい皆様のことを思い、皆様が健康でいて下さる様にと願う、強い強いパワーを日本から送り続けたいと思います。
 どうか皆様くれぐれもお元気でお過ごし下さいね。近い将来お目にかかれますことを楽しみにしています。みんなで一緒に頑張りましょう! Vamos Fazer o nosso melhor juntos.
 最後にこの様に皆様へのメッセージを書かせて下さいましたニッケイ新聞に心から感謝を申し上げます。(東京在住  中平マリコ)