身近な人を失う怖さと悲しみ

コロナから回復した医療従事者。ブラジルでは、回復者7人につき1人の死者が出ている(Ingrid Anne – HCM)

 1月下旬の手術予定日の直前、息子が急に「僕を置き去りにしないよね」と聞いてきた。「する訳ないでしょ」と笑い飛ばしたが、その態度から「何か起きたら」と案じているのが分かった。その時は病院側の連絡ミスで手術は延期された。
 2度目の予定日はコロナ感染が騒がれだした3月で、今度は娘達も揃って、「コロナが流行っているのに手術なんて危ない」と言ってきた。「失明しないためにも必要」と言うと、渋々納得したが、結局、その時はコロナのため、手術は延期。仕事も在宅になった。 
 だが、在宅勤務になっても、ハイリスクの親を持つ子供達の心配は尽きない。「スーパーしか行かなかった人が感染して死にかけた」「危ないから食料品も配達を頼め」などという娘達の忠告を聞いていた息子は、普段から速度が遅いインターネットがいきなり切れてしまった時に、「仕事をしに会社へ行く」と言うと、「もし感染したら…」と渋った。
 日曜の夜に停電し、回復に1日半かかった時は、息子が発電機を調達してくれた。インターネットと電話が使えなくなった時、自分の携帯電話をWi―Fiとして使い、何としても外に出させまいとしたのも息子だ。
 どんな理由であれ、家族などの身近な人を失う怖さや悲しみは大きい。病状急変や事故などで起きる突然の死でなく、進行が遅い病気だと心の準備が出来る。だが、心の準備が整ったとしても、悲しみが早く癒えるわけではなく、前々からの心の準備期間を入れれば、苦しみや不安の時間はむしろ長びく。
 ブラジルでは既往症の有無や年齢に関係なく、3万人超がコロナで亡くなった。父を失ってから、大統領への支援をやめてコロナ対策を批判するようになった元ボウソナロ派市議や、医療従事者である息子のための祈りを求めた人、感染者や死者の背後で泣く人や鬱に陥った人、闘病後に現場復帰した84歳の女医の事なども思う。「1日も早いコロナ終息を」と願う毎日だ。(み)