特別寄稿=未曽有の経済危機を乗り越える=「正直、義理、礼儀」サムライ経営者 西川 渥 (にしかわ あつし) スターパック社(本社・サンパウロ)社長=東京在住 カンノエージェンシー代表 菅野英明

食品用プラスチック容器業界で第2位

西川 渥 社長

 西川に「ずばりスターパック社とはどんな会社か」と聞くと「食用パッケージの新しい使い方を絶えず提案し続け、ブラジル人の食生活文化の向上と安全性利便性に貢献し続ける会社だ」と答えた。
 創業者・西川流経営の独自性は「1つの事案に対して多様な見方と多角的な分析ができる、正直、倫理(社会道徳)、全社員の調和と協調」と際立った特徴がある。特に倫理(社会道徳)を経営に取り入れていることは、移民国家のブラジル事情と代々教育者の家系であることが影響しているようだ。
 今年3月から新型コロナウィルスに襲われ、このコロナ禍で全土が未曽有の国難に直面し社会や経済の大混乱が続いているのがいまのブラジルだ。
 西川の飯の種である食品用プラスチックパッケージ(容器)業界は、安全性・簡易性・利便性・迅速性・創造性などの観点から (コロナ対策に必要とされる業界として) 連邦政府・州政府が操業及び開業を認めている数少ない業界の1つだ。
 同社は2002年の操業開始以来、ブラジル経済の低迷期でも成長している。「ブラジル社会にいま最も必要とされている業界の一つとして当業界の成長は時代の要請に応じた社会化ニーズに対応したもの」と強調した。
 創業社長の西川が若い時から一貫している生活信条は「正直、義理、礼儀」。日本の精神文化を重視しており、(親が熊本県出身者ゆえに)「肥後もっこすの心と魂」を持つ士魂商才のサムライ経営者である。「ここまでこられたことに対して神に感謝している」と人徳も身についている。ここブラジルで日本精神を発揮して頑張る西川とスターパック社を取材した。

『日々新たなりの精神』で貢献

サンパウロ大都市圏のイタクアケセツーバ(Itaquaquecetuba)にある近代的な工場

 この時期、事業は追い風にも恵まれて生産及び販売ともに予想通り伸びている。需要が毎年拡大し、同社が強い病院向けの販売も好調だ。西川の経営戦略どおり、売上高は毎年2桁増の勢いで成長してきた。
 ちなみにその売上高成長率は2017年を100とすると2020年6月までの過去3年間で149%増になっている。需要に応じた増産態勢も急ピッチで進められている。この秋以降は新たに導入する加工用製造機械が2台稼働する予定で生産能力も2ケタ台の増産になる。
 ブラジルの食品用プラスチックパッケージ分野では、スターパック社はブラジル全国の主要業者10社の中で売上高は堂々の第2位となっている。絶えず最新技術の導入と世界中に構築した情報力で、お客様の求める新商品を開発し自信をもって需要先に供給していく旺盛な探求心と変化適応力による価値創造型の開発努力を続けてきたたまものだ。
 生産面ではプラスチック加工工場とフォイル熱成形機に特化し、常に最新技術に沿ったパッケージ設計と材料の革新を続けている。さらに製造サイクル全体(パッケージ設計、金型製造、押出成形、パッケージング熱成形)で、お客様への納品までを一元的に管理するシステムが完成されている。
 一連の研究と実験室テストを通じて、開発およびプロジェクト部門は常に時代を先取りしている。したがってスターパックの製品ラインは常に最新の態勢で発売の準備ができている点も強みだ。また素材がポリプロピレン、ポリスチレン、PETいずれであっても顧客に完全なソリューションを提供できるという強さもある。
 生産工場はサンパウロの中心から車で40分の大サンパウロ圏の一つであるイタクアケセツーバ(Itaquaquecetuba)にある。近代的な工場は環状道路にも簡単にアクセスできる便利な場所にある。
 こうした点から分かるようにスターパック社は、従業員は130人(工場は90人)だが情報の共有化が実現している数少ない会社だ。同時に人材育成でもトヨタ式生産システムの導入で徹底した社員教育にポイントを置いている。夜間に大学や専門学校へ行く社員への学費補助制度がありバックアップ態勢もできている。
 スターパック社はブラジルのテクノロジーとアプリケーションのパイオニアの1社であるゆえに、西川は「常に最先端を行くためには、パッケージングで最先端の技術を開発する必要」があり、「イノベーションのためのパッケージ化」を会社方針の1つに掲げているほど最先端の絶えざる技術開発を重視している。
 こうした事業を支えるためにスターパック社には明確な4つの経営基本方針がある。
★革新(新しいソリューションと消費者の生活文化の向上を容易にする新しい方法を常に探しています)
★品質(アイデア以上の良い商品でも完璧な使用と完璧な使用条件を揃えてお客様の期待以上の製品を提供します)
★責任(すべてのプロセスは環境重視のために慎重に行われます)
★経験(プラスチック部品保管市場での25年以上の経験)
 また会社の特徴は「納期厳守とアフターサービス」、「当社のテクノロジーを駆使したソリューション」、「迅速でスピーディなサービス(注文品でもお客様から注文を受けて届けるまでの期間がどこよりも早い)」、「品質重視」、「世界最先端の技術情報の収集と並行してそれを瞬時に弊社の技術開発力に連動させていること」の5点だ。
 さらに創業以来18年間、ブラジルの会社経営では珍しい支払期日の厳守を貫いてきた。支払いが遅延したことは過去1度もない実績も取引先からの信用を倍加させている。
 お客様からの評価は、品質とともにストックに余裕をもたせていることで「注文を受けたらすぐ配送でき、さらに製品に対する信用がある」ことだ。
 ここで同社の事業概要を数値でみてみよう。年間生産総パック数は1日当たり100万個で年3億6000万個、原料として使うプラスチック原料は年間で1万2000トン(この原料増加率は年率20%以上)。
 製品の種類は生産品目の90%が食用パッケージ。生産品目は300種類。豆腐容器はほぼ100%がスターパック製、ほか弁当箱、寿司容器、アイスクリーム容器など。さらにチャイナボックスやサブウェイなどからの特注品として、OEM生産の依頼があり常時10社程度の生産も行っている。また同社が強い病院施設には「信用、責任、安心、安全」をモットーに直接納入している。
 また今年から今後3年間の市場成長率予測は「最善のシナリオで20%増加、現状を踏まえたシナリオで15%増加、最悪のシナリオで10%」という。最悪でも右肩上がりの成長は他業界から見れば羨望の数値だろう。
 スターパック社はブラジル市場では伝統的な熱成形型パッケージ産業であり。小売ポートフォリオには150を超えるアイテムがある。注文に応じて開発された多数のパッケージを備えたスターパックは、多くの販売代理店や代理店とともに、サンパウロ州、リオデジャネイロ州、ミナスジェライス州の3州(この3州で売上高の80%を占める)を中心にブラジル全土にパッケージを提供している。
 同社の主な製品は冷凍庫および電子レンジパッケージング、病院、東洋料理、アイスクリームパーラー、サラダボウル、食品産業、食品、宅配用デリバリーなど、様々な商品を取り扱い幅広い需要ニーズに応えている。
 最近の市場の傾向は、従来型のパッケージ開発だけではなく、お客様からの需要ニーズに沿った個性と独自性を提供する『カスタムプロジェクト』の受注が増えており、この事業分野に力を入れている。
 現在12社がこの分野で競っているが、スターパック社は、生産ラインで提供されるすべての品質に加えて、お客様の意向に沿ったニーズを満たす理想的なサイズとフォーマットでパッケージング製品を実現し、お客様の特別なニーズに応えて業界でトップ争いをしている会社だ。
 同時にお客様の解決策を見つけることに特化した専門家チームもできている。さらに顧客にはツールサービスも提供し、コンピュータで新たな金型を開発することで独自のパッケージも製造できる態勢も出来上がっている。
 食品プラスチックパッケージ業界では同業他社も一目置く、創造的かつ斬新的な発想と手法を駆使して、最新技術の導入で新商品を次々と市場に送り出している。その同社の企業体質は、スピードと変化対応力が求められるIT時代を先取りするような見事なものだ。
 今後の経営ビジョンについて聞くと6年前の取材と同じ不動の答えが返ってきた。
「ブラジル人の食文化になくてはならないといわれる会社づくり」
「商品としてのスターパック・ブランドの信用力をさらに高め、仲間とともに世界に誇れるブランド力のある会社づくり」
「当社で働く人が幸せになれるように人権と権利を守ってあげることのできる会社づくり」

品質と利便性で人気の商品の一例

 ここブラジルに移住した西川家は代々熊本県で教育者をしている人が多く。父の輝夫(てるお)は1930年に呼び寄せで移民し、ブラジル西川家は今年移住90周年を迎えている。
 移住した第一歩の生活拠点は同じ熊本県出身で「ブラジル移民の父」といわれる上塚周平(うえつか しゅうへい)が住んでいたサンパウロ州プロミソンだった。西川は1952年にここで生まれた。移民後も教育者として生きた父・輝夫の血筋を引く西川は、大学院生時代には教授のアシスタントとして教壇で学生を教えていた新進気鋭の経済学者だった。
 その人生が25歳になった1978年に、ブラジル政府からの特命を受けた国費留学生として3年間、日本で実学研究に没頭した。帰国後、経済企画庁勤務の役人生活から、31歳になった1983年に兄の至大(みちとも)から経営参加してほしいと請われて新たな人生に身を置くことになった。
 その後、満を持して2002年にスターパック社を創業し経営者人生を歩むことになった。
 西川は68歳になったいまも大好きな演歌を毎日聞きながら、常に青年のような心意気とビジョンを抱き、大和魂と日本精神を持って生きている国際的な経営者であった。 (文責 カンノエージェンシー代表 菅野英明)


家族愛と大和魂

 会社経営者の西川渥の家族愛は抜きんでている。相思相愛の妻・恵子(けいこ)のよき夫であり、4人の子供のよき父である。
 そして父・輝夫の精神と魂を受け継いだ社会道徳と倫理観に支えられた日本人のDNAが脈々と流れている。生活信条は「正直、義理、礼儀」。さらに三世の4人の子供の名付け親はお寺の住職だ。二世でもある西川はこう語る。
「お寺の住職に頼んで子供全てに字画数も含めて日本語で最高の命名をしてもらった」。ちなみに4人の名前は、長男・満(みつる)、次男・晃司(こうじ)、三男・圭(きよし)、四男・光(ひろし)と命名されている。
 まさにここブラジルで日本人以上の日本精神を守り大和魂を秘めて生きる68歳だ。最近は妻の恵子から「演歌好きもエスカレートしてきて日本人以上の日本人になってきている」とひやかされてる。

西川と両親からの教え

【生年月日と出身地】1952年10月24日生まれ、サンパウロ州プロミソン出身
【最終学歴】グラスクーバ大大学院卒
【自分の性格】人のいい点を評価する、家族のことを絶えず考えている
【趣味】テニスと演歌、好きな歌手は五木ひろし、島津亜矢、石川さゆり
【父の名前】輝夫
【母の名前】敏子(としこ)。移民した父はコロニアの日本語学校の先生をしていた教育者
【妻・恵子との縁】歯医者さんが仲人
【妻に感謝の言葉】ここ30年間尽くしてくれており、子育てで頑張ってくれた
【西川のオンリーワン】個人としては『子供の教育』をもっとも重視
【父からの教え】立派になるには人よりもっともっと頑張りなさい、教育の大切さ
【母からの教え】すべての責任はすべて自分にある、小さい時から「学校だけはしっかり学びなさい、勉強だけはしっかりしなさい」と毎日のように諭された

エピソード1

 ブラジルの経済企画庁勤務時代に、国から特命を受けて日本へ国費留学をした話を紹介したい。当時のブラジルは海外との貿易拡大のために国際的な人材育成に取り組んでいた。
 1978年の留学試験でもブラジル中のエリート1千人が留学試験を受験。その結果30人が選ばれた。その中の1人に西川がいた。しかも日本留学は西川1人だけだった。
 当時のブラジルと日本との関係は同盟的な蜜月関係が続いていた時期である。西川に与えられたテーマは、3年間東京にあるブラジル大使館に勤務し、その期間内で、「日本の貿易構造がどう出来上がっているのか、ブラジルから日本に輸出する産品は何がよいか、それを輸出するにはどうすればよいか」という実学志向の研究テーマだった。
 ブラジルに帰国後、USPと並ぶ名門のFGV大学でこのテーマに沿った論文を書き上げて任務を遂行した。この西川レポートは当時の日本を知る重要レポートとして政府系経済機関全てに配布され、その評価は極めて高かった。
 この期間に会った熊本の親族からは「輝夫の息子がブラジル外務省の外交官で日本にきている」と話題になっていた。

エピソード2

 才覚のある西川は大学在学中に起業家として学生社長も経験している。好きだった家づくりのデザイナーをやりながら、学生やデザイナー相手のコピー屋も開店させている。この頃からすでに「人のために役立つ仕事をする」という商売の原点を学生時代から身に付いていたようだ。