《ブラジル》大統領が最高裁新判事に穏健派指名=サプライズ人事を強行=セントロンの影響濃厚

カシオ氏(Twitter)

 【既報関連】ボルソナロ大統領は1日、セルソ・デ・メロ判事に代わる最高裁の後任判事として、カシオ・ヌーネス・マルケス氏を指名した。福音派の判事を指名すると思われた矢先の穏健派判事の指名は、大統領支持の保守派から強い批判を浴びつつも断行された。2日付現地紙が報じている。
 福音派ではなく、カトリックの判事で、ボルソナロ派でもないカシオ氏。しかも現所属の第1地域裁(TRF1)判事への指名をジウマ元大統領が行い、同氏の妻が労働者党(PT)の上院議員の職員を務めていたことなどから反対の声が相次ぎ、それが故に大統領も指名を取りやめるのではないか、との憶測が流れていた。
 だが、大統領はカシオ氏を強行指名し、多くの人を驚かせた。ボルソナロ氏は9月29日に、最高裁のジウマール・メンデス判事宅にカシオ氏を連れて挨拶に行っていた。メンデス判事宅での顔合わせには、ジアス・トフォリ判事も同席した。
 最高裁内部でも、ボルソナロ氏の指名は驚きを持って迎えられた。現法相のアンドレ・メンドンサ氏か、現大統領府総務室長官のジョルジェ・オリヴェイラ氏が予想されていたためだ。他方、この2人では連邦政府との距離が近すぎ、強い反発が起こるのではないかとも予想されていた。とりわけ、オリヴェイラ氏の場合、司法キャリアが最高裁判事としては物足りないとの声も出ていた。
 一部報道では、今回のカシオ氏の指名は、来年7月に定年退官予定のマルコ・アウレーリオ・メロ判事退官の際にオリヴェイラ氏を指名するための準備。つまりカシオ氏を指名したことで最高裁内での大統領への反感を抑え、その上でオリヴェイラ氏を指名したいのではないかとの見方もある。

 今回の指名は、セントロンを満足させるための指名とする声も強い。カシオ氏はピアウイ州出身の判事で、同氏を推薦したのは、同州で強い影響力を持ち、セントロン最大派閥である進歩党(PP)党首のシロ・ノゲイラ氏だという。
 カシオ氏はそれまで、年内に退任する連邦高等裁のナポレオン・ヌーネス・マイア判事の後任候補と考えられていた。PP下院リーダーのアルトゥール・リラ氏は、来年の下院議長選への同党からの候補として有力視されている。
 今回の指名は司法界や政界からは好評だ。これまでボルソナロ氏との強い敵対関係で知られていたブラジル弁護士協会(OAB)のフェリペ・サンタクルス会長も「憲法のあらゆることに精通した人物」として強い賛辞を送っている。連邦議会内でも、おおむね賛辞をもって迎えられている。
 一方、ネット上では、ボルソナロ支持者からの批判的なコメントが溢れている。特に手厳しいのは、イデオロギー面からボルソナロ氏を支持して来た人々だ。大物福音派牧師のシラス・マラファイア氏や、大統領一家が信奉する極右思想家のオラーヴォ・デ・カルヴァーリョ氏などがこの指名を批判している。
 カシオ氏が最高裁判事として認められるには上院での口頭試問(サバチーナ)が必要だが、これはセルソ判事が退官する10月13日までは行われない。