特別寄稿=こりゃ 一大事!=眠っている間にお金が半分に=サンパウロ市在住  駒形 秀雄

 派手なやり取りで話題を賑わしてくれたアメリカ大統領選挙も、どうやらバイデンさんの選出でケリがついたようです。穏健なバイデン大統領の方が日本にもブラジルにも良い様で、この辺で一件落着と願いたいところです。
 さて、「アメリカの大統領選」とか「米中対決」とかの“大きな話”は置いといて、私たちの場合は「これからの世の中がどうなっていくのか?」が大事です。

年初は100ドルが約400レアルだったが、一時は6レアル前後に(Fernanda Carvalho/Fotos Publicas)

 例えば、「コロナ禍のせいで物価は上がっても、お金はこちらには廻ってこない」「平和で穏やかな老後を楽しみたいんだが、どうしたらよいのだろうか?」などなど、心配の種はつきません。
 それで今回は、私たちのずっと身近な話題「貴方のお金が今年10カ月間で値打ちが半分に下がっている」を中心に一寸ご報告してみましょう。

持ってるお金が半分に

 ニッケイ新聞をご覧になっている皆様は「老後のために」「不時の出費に備えて」、毎月の生活費とは別に一定の額の「手元のお金」を持っておられます。銀行の勧めに従って資金運用を任せて安心している方も、また「金庫でも危ない」と考えて『タンスの中』に現金を隠しておく方もあります。
 実はそのお金1レアルの値打ちが今年10月までの間に何と半分近くに下がっているのです。即ち、1月1日から10月30日のあいだに貴方のタンスの中に大事にしまっておいたレアル通貨は(円を基準にして考えると)実は大きく値下がりしているのです。(別表―通貨の変動率をご覧下さい)
 分かり易い例を挙げましょう。今年1月1日時点で10万円の紙幣を買うには、3698レアルで十分でした。ですが、11月10日現在、5535レアルを払わないと買えません。為替の関係で、半分近くに大きく目減りしているのです。
 汗水たらして貯えたお金が1年も経たないのに大きく価値が下がってしまうとは、何とも情けない。これから先が思いやられるところです。
 では、それに見合う金利はあるか?

今年1月から11月までのレアル/ドルの為替相場。年初の1ドル=4レアルから現在の5レアル台後半まで一気にドル高にふれた

 もしこの10カ月で50%になる金利が付くとしたら、目減り分と金利の50%が相殺されてお金を銀行に預けていた人に損(目減り)はないことになります。
 しかし、貴方に50%もの金利を払ってくれる銀行はありません。貴方が以前銀行に勧められて運用(APLICA)しているお金の金利はCDBとか、せいぜい月に1%でしょう。
 私の知り合いで山野さんと言う方が居ります。この方は立派な方でブラジルの日系社会を良くしようと鋭意努力しており、本当に頭が下がります。その上、自分で自由に使えるお金をミリオン(何百万)と持って居るのが強味です。
 ある時、この山野さんが急に5万レアルほど必要になりました。「その借入金には月8%の金利を払う。3カ月ほどで良い。返済は保証付き、間違いなし」と言うのです。
 金利が8%なら銀行の1%に比べずっと有利です。貸し手が殺到するかと思ったら、誰も手を挙げる人が居ないと言うのです。
 私が「今まで山野さんからお金を融通して貰っていた人に一部返して貰ったら?」と言いましたら、そういう人を含めて誰も「用意出来ない」と言うのだそうです。
 日本式の頭を持っている山野さんは「何だこれは、日系人の人情今や紙風船、金の事となったら義理も人情も何処へやら、皆逃げていく」鬱憤やり方なしの様相でした。

どうすれば損をせずに済むか?

 「このお金も半値になったのか」とレアル札を握りしめて嘆いていても仕方がありません。何とか損をしないで済む妙案はないものか?
 色々考えましたが、「下手な考え休むに似たり」、MAIL仲間の人に聞いて見ました。その中で一人広川さんが答えて呉れました。財産減損を防ぐ方法は「A=株に投資する B=銀行で運用する C=不動産を買う」でした。
 但し、具体的な詳しい方法までは説明がありません。これは「それはお前のやることだろう。自分で研究してみろ」という事かと解釈して自分なりに調べてみました。以下の通りです。

Bovespa(サンパウロ金融取引所)の様子(Foto: Rafael Matsunaga/ (Arquivo) – Wikipédia)

 (A)「株を買う(持つ)」は確かにインフレヘッジに成ります。でも株は上がる時もあるが、下がる時もある。素人には難しいという話もあります。
 さて昔、連続して株価が上がり、新聞などを賑わした時期がありました。会社で働く女性(セクレタリア)が「私、株買った。値上がりして楽しいよ」とニコニコしています。
 有名企業の株主となり、給料以外の収入にもなる。鼻が高くなるのも無理はありません。でもその内株価が下がり始めました。
 「あんた(株は)どうしてるんだ(売ったか?)」と聞くと「株価が下がったらまたその株を買うんです。そうすると株の平均仕入れ単価が下がって後で損の回収が容易なのです」との答えです。
 どうも銀行のジェレンテ(相談係)が居て、株運用の指南をしているようなのです。
 しかしこれは豊富な資金を持つ企業などでは使う手法ですが、普通の会社のセクレタリーでは資金枯渇で、終わりまで対応出来ません。
 その後、株価は低迷したままで、元の仕入れ価には戻りませんでした。彼女の顔色は冴えず、その後株の話をしなくなりました。
 ところでブラジルにも素晴らしい人が居ます。国内がパットしないなら、国外でやれば良いと考えるのです。ブラジルの国外での証券投資額は右肩上がりに増えて、現在187億ドルとか言ってました。
 また、最近のTVでは今まで難しかった個人の外国証券市場への投資も可能となるよう規則が改正されたとのことです。お金があって元気のよい方、トライしてみますか?
 現在、アメリカの大統領選挙で国民の分断、コロナ禍の拡大など不安要素はあるのですが、証券市場では奇妙なことに株価が上昇して何か景気が良くなるかのような印象を与えています。
 しかし、これは一部アナリストの判断としては「低開発国とかコモデテイー商品にあった投機マネーが行き場が無くなって証券市場に流れて来たせいだ。景気拡大の前兆ではない」とのことです。
 世界のプロがしのぎを削る証券市場に素人が参入するのは、相当の度胸が要る様ですね。

 (B)「銀行に預けて運用する」は、銀行の当座貸し越し(残高以上の小切手を振り出しても銀行が一時的に立て替えて決済してくれる)の金を利用すると、金利は年で100%も取られます。
 他方、自分が銀行に運用(APLICA)を頼む場合の金利は月1%にもなりません。『安い金利の金を集めて、これを高い金利で他人に貸す。その差額が銀行の収入源だ』と分かってはいても、之ではあまりにも差がひどすぎます。
 まず前述の、うなる程お金を持っている山野さんに訊ねてみました。「山野さん、貴方はそのお金をどうしているのです? 銀行に預金して何%の金利が付くのですか?」
 山野氏応えて曰く、「私の場合は金額がまとまり長期だから1%プラスアルファだね」 私「このブラジルで低すぎませんか?」
山野氏「政府が決めた『公定歩合』が最高2%だからまあこんなもんじゃないかね」
 山野さんは中央銀行が他の銀行に貸し出す時の金利(政策金利とも言う)を政府が決めた金利の上限だと勘違いしている。今はこの『公定歩合』という言葉は誤解を与えやすいとして使わないのに、である。
 「そうですか」
 私は返事はしましたが、まず確かめてみようと銀行のジェレンテを訪ねて直接話を聞きました。ジェレンテ曰く「APLICA(運用)は今は色々とあり、まとまった金額なら8%は十分できます。PREVIDENCIAなどどうですか? 10%にもなりますよ」
 「うーん、なるほど、お金の世界も時間の経過と共に種々条件が変わっていくんだ。山野さんが8%の金利を払うと言っても、同じ条件なら、大抵の人は安全で手続きも簡単な銀行預金に行くわけだ」  
 金融界の事情もどんどん変化発展していきます。何年か前の知識では時代に取り残されます。「ボーッと生きてんじゃねえよ!」チコちゃんに叱られかねませんね。

 (C)「 不動産に投資する」は資産保全の良い方法ではあります。ただ、「救急用」とすると難点もあります。例えば急病になってお金が要る時にすぐに換金出来ません。
 商売をして居る人にしても急いでお金を手当てしたい時に現金化出来ない、文字通り『不動の資産』なのです。
 もう一つ、この策の実行には相当纏まったお金(例えばウン十万とか)が必要です。
それに今は不動産を持つことも頭痛の種になることも多い。昔は家でも買って、それを貸せば家賃が入って来て楽チンでしたが、今はサンパウロなどでは中々良い借り手が見つからない。
 何とか借り手が見つかるとその内家賃を払わなくなる。家は荒らされる。自分の事だけで手いっぱいなのに、他人の懐具合に振り回される。
 「外人は約束を守らない」などと憤慨してもストレスが溜まって困るのは自分自身となりかねません。
 長くなります。以上駆け足で現下のお金の問題を取り上げて申し上げましたが、皆さまどうお感じになられたでしょうか?  
 いずれにせよ、多くの知識、経験を結集すれば良い改善策も見つかるでしょう。住みよい老後を送るために、元気を出して、問題を乗り越えましょうーーー。(この文についてのご感想、コメントなどはこちらへどうぞ=>hhkomagata@gmailcom )