【2021年新年号】外出自粛=日系団体の「新しい日常」=激増するオンライン型イベント=デジタル化の比重一気に高まる

12月12日開催された文協65周年記念の配信

 2020年はコロナ禍によりイベントが軒並み中止となり、各団体で料理宅配販売や車中から楽しむドライブスルー型イベントなど非対面イベントが代替開催されるようになった。日本祭りや先没者法要式、国際日系デーのイベントがライブ中継されたことをきっかけに、新たな広報やイベント形式として活用されてきた「ユーチューブ」の体験を取材した。この手段を使いこなせるかどうかで、パンデミックを乗り越えられるかが問われそうだ。

文協=オンラインで「世界」を意識=大使館とタイアップ行事も

小講堂を収録スタジオに。写真撮影前日にはクラシック演奏の動画撮影を行っていた

 「ユーチューブでの一番のメリットは世界を対象に出来る事です」――ブラジル日本文化福祉協会の中島エドアルド剛事務局長はそう頷く。特に6月20日にライブ配信された「国際日系デー」中継では、ブラジル日系人歌手の他にもハワイのアオラニ・ユキエ・シルヴァさん、ペルーのメリッサ・アラキさん、アルゼンチンのガス・ホカマさんといった歌手をむかえて「世界」を意識した番組構成をし、再生数は4万3千回を超えた。(12月10日時点)
 在ブラジル日本大使館(山田彰大使)と協同で開催したウェビナー「新したな日常:東京の取り組みサンパウロの取り組み」も新境地となった。日本とブラジル国内の専門家を招き、2カ国のコロナ対策について紹介している。「コロニア」という枠を超えた大きなテーマを扱ったイベントだ。中島事務局長は「大使館が文協のネットワークを評価してくれたのでは」と喜びを滲ませる。
 11月12日にオンライン開催した「移民資料館国際シンポ」には日本とブラジルのほか、ロサンゼルス、ハワイ、カナダ、メキシコ、ペルー、ボリビアから参加し4カ国語の同時通訳がつけられた。
 12日のシンポ開催前の6月頃、調査のために地方理事を集めオンライン会議を開催したところ76人が集まったという。ブラジルは広いだけに「対面ならこの人数が一同に介することはまず出来なかった」と振りかえる。
 さらに、各地方での調査を行ったところ、地方日系団体の会館内の片隅や個人が所有する移民史料室が20室ほどあることを発見した。中にはブラジル人が集めたという史料館も存在するとの報告も得られ、「まだ探せばあるかも知れません」と期待を込める。
 この他に、「文協統合フォーラム(FIB)」や国際就労者情報援護センター(CIATE)と共催した「在日ブラジル30周年記念」、文協RURAL(農業関連交流委員会)による企画といった様々なユーチューブ配信を行ってきた。
 生中継や収録などの撮影は専門業者に依頼しており、ユーチューブ配信などオンラインイベント開催なども「幸いなことに、50歳未満の若手を中心に、すでに個人的な趣味や仕事などでこのノウハウを持っている人がおり、スムーズに移行できました」と説明する。
 オンラインによる開催は今後も続く見込み。「文協の資金繰りをオンラインでいかに賄うか」が課題となると中島事務局長は眉間にシワを寄せ、「文協としての基本的な精神を失わないように取り組んで行きたい」と襟を正した。
■文協ユーチューブ(https://www.youtube.com/user/tvbunkyo

県連=「日本祭り」ライブ中継=マーケティングで差別化図る

日本祭ライブ終了後、実行委員会の記念撮影

 様々な日系団体がユーチューブライブを開催しだしてマンネリし始めたとの認識から、ブラジル日本都道府県人会連合会の長屋充良(ながやみつよし)青年リーダー委員会委員長は、「『他とは違うものに』と5つのテーマ構成しマーケティングを行いました」と説明する。
 ライブ配信内にテレビ番組のように狙いの子供向け・青年・高齢者などの客層を定めて市場調査でニーズを把握し「現代日本のポップカルチャーと伝統の両面を出せたのでは」と頷く。ライブ配信動画は11月までに視聴回数2万7千回にのぼったという。
 中継中にも視聴者分析を行っている。会員にデジタルマーケディング会社をする若手がおり、ライブ中継中も視聴者の年齢層層や性別、どの瞬間に人が減ってしまったかも分析をすることが可能だったという。
 青少年リーダー委員会130人が参加してライブ中継を担当する「ライブグループ」、47都道府県の紹介サイトを運営する「オンライングループ」、「広報」と組織化して活動している。年少は10代から参加し40~50代と幅広い層が加わっている。
 「若者と仕事をしたことにより距離が近づいたように感じます」と長屋委員長は頷く。若者同士も所属する県人会関係なく活動したことで、以前は関わりが薄かった他県人会との絆が深まったと組織内で得たものも大きい。
 今年は新たな試みのために離れたスポンサーもあったものの、新規のスポンサーが開拓できたほか、広報担当がSNS等で紹介したスポンサー商品の売上げが増えたという朗報もあり、今後の展開も期待できそうだ。
 今回の経験や得たマーケティングデータを基に「翌年に実際のイベントを開催する際にも活かしたい」と意欲的だ。
 一方で苦労した点では「権利問題」を挙げる。マウレシオ・ソウザ・スタジオが製作したアニメ使用の権利確認や、ブラジル人出身の力士・魁聖の出演許可を相撲協会へ申請した際など、様々な権利確認も多岐にわたる。
 長屋委員長は「日ポ語の翻訳も苦労した点のひとつ」と挙げる。例えば食に関する催し物で、食材の「ゴーヤ」を日本語翻訳する際に地域によって「ニガゴリ」「ニガウリ」等の呼び方があり「どの呼び方にするか戸惑った」など県連ならではのエピソードを苦笑しつつ振り返った。

47culturalサイト

 今年の日本祭りの試みはユーチューブによる生中継のほか、各県人会が各県の郷土食紹介や作り方、観光地などを紹介するサイト「47クルトゥラル」開設、日系のアイデンティティや将来を語る配信「CHA CON BOLO」の三部構成になっている。まだ見ていない人は是非確認してみては。
■47クルトゥラル(https://47cultural.com.br/

■日本祭りユーチューブ(https://www.youtube.com/user/festivaldojapao
■日本祭りサイト(https://www.festivaldojapao.com/