《ブラジル》「助けてくれる?」「家庭内暴力」=27歳女性が銀行員にメモ渡す

助けを求めるメッセージが書かれたメモ(3日付G1サイトの記事の一部)

 連邦直轄区ソブラジーニョの銀行で1日、生活扶助(ボルサ・ファミリア)を引き下ろしに来た27歳の女性が、男性行員に「助けてくれる?」「家庭内暴力」「彼は外にいる」などと書いたメモを渡す一幕があった。
 「家庭内暴力」という言葉の前には、昨年6月に始まった家庭内暴力撲滅キャンペーンで使っている「X」の文字が書かれていた。
 メモを見た40歳の行員は別の紙を渡して電話番号や住所を訊ねたが、女性は「電話をかけたら彼が出るかも知れない」と恐れ、電話番号を書く事は断った。
 女性が連れ合いにせかされて出て行くのを見送った行員は、彼女を助けるための行動を起こした。最初は市内の警察署に行って2枚のメモを見せたが、住所を見た警官は、「プラナルチーナという町の住民だから」といって、被害届を受け取る事も先方の署と連絡を取る事も拒んだ。
 次に行ったのは女性問題専門署(Deam)への電話だが、ここでも、「事実か否かを確かめなければならないから197に連絡するように」とだけ言われ、具体的な対応はしてもらえなかった。197に電話をかけると、「最優先で捜査する」「何かわかったら連絡する」との答えが返ってきたという。
 この日の行員の努力は徒労に終わったが、肩を落として出社した同僚から一部始終を聞いた女性の電話交換手が、プラナルチーナ市に住む友人の女性軍警と連絡をとり、2枚のメモの写真を送った事で流れが変わった。

 ファヴェーラ(スラム街)内の労組のコーディネーターでもある交換手は、コロナ禍のため、行内には1人ずつしか入れないため、「ここなら安全」と判断した被害者が勇気を奮い起こして書いたであろうメモを見、一刻も早く行動をとる必要を感じ取ると共に、加害者がしきりに電話をかけ、「帰るぞ」とせかしていた事を思い出した。
 交換手が友人に送った写真の一つ(2枚目のメモ)には、住所や家を見つけるためのヒントと共に、「夫は居留守を使うはずだから、しつこく扉をたたき続けて欲しい」とも書かれていた。
 告発を受けた軍警の家庭内暴力対策予防班(Provis)はメモを手に被害者宅を捜索。最初は無駄足に終わったが、もう一度自宅を訪ねた軍警達は、1歳7カ月の男児と5歳の女児と共に軟禁状態に置かれていた女性を保護。女性は罵詈雑言などで苦しめられ、19年にも男性を告発した事などを供述後、専用施設に移送された。女性と子供達が収容されたのは家庭内暴力の被害者を集めた施設で、厳重な警戒の下に置かれている。
 加害者は自宅におらず、逮捕を免れたが、軍警が捜索を続けている。
 連邦直轄区女性局のエリカ・フィリペリ局長は、「この事件は非常に象徴的だ。加害者は被害者が外部と連絡を取れないようにしていたが、自宅を出る機会を得た被害者が勇気を出して助けを求めた事と、彼女のメッセージを受け止めた人々が状況を理解し、連携した事で道が開けた」とし、「社会がこのような問題に敏感になっている証拠」とも語った。
 なお、連邦直轄区市警は4日、助けを求められた行員が警察に行っても取り扱ってもらえなかった事情について、内部調査を行う事を約束した。(3、5日付G1サイトより)