【特別企画】新来シリア移民が見たサンパウロ=日本人と何が違って何が同じ?《2》=一世紀後も恨み忘れない民族性
【質問者】大浦智子(1979年兵庫県生、在サンパウロ19年、フリーランス)
【回答者】★モハマド・アルサヘブ(1981年ダマスカス生、在サンパウロ6年、アラビア語学校経営)、★アブドゥルバセット・ジャロール(1990年アレッポ生、在サンパウロ6年、個人事業主、NGO副代表など)
ブラジルとシリアとの最大の違い
言語、食事、習慣、ものの考え方…色々と違いはありますが、一番は女性の地位の違いです。ブラジルの女性はとても活動的で、男性のように働きます。シリアでも女性は働きますが、男性が一番に働きます。ここは女性がとても独立して勉強や仕事、外出をします。公共の場や交通機関でも多くの女性を見かけます。
治安について
シリアでも泥棒はいますが、日常的ではありません。スリもいますが、道を歩いているだけで携帯電話を取られる心配はありません。泥棒は事を起こす前に10回考えます。
アラブの世界なら、どこの国でも「泥棒!」と叫べば、警察よりも前に住民が彼を追いかけ、捕まえて徹底的に叩きのめします。だから誰も盗む勇気がありません。これを「ナフア」といいます。
もし、誰かが助けを求めているのであれば、それはあなたの助けを求めているのです。私たちは日常生活で助けが必要な人を助けないことはありません。
ブラジルの泥棒はとても自由です。車に乗っていた友人が信号で止まったとたん、ピストルを持った強盗に襲われました。それも高級住宅街でのことです。これは我々にとってショックでした。
他にも、道を歩く少女がスマホを盗まれ、「泥棒」と叫んでも誰も助けようとしませんでした。これはとても違和感のある出来事です。我々は誰かが泥棒をしていたらそれを許しません。
絶対に恨みを忘れない
我々は何か問題が起きた時、事を大きくしないために静観するくらいなら、死んだ方がましだと考えます。これはアラブの血ですね。だから、泥棒を見たら命の危険を考えずに追いかけるのです。それこそが生きがいだと思っています。
あるシリア人がサンパウロで携帯電話を盗まれ、警察も付近の人も誰も助けてくれませんでしたが、GPSで所在が分かったので、それを追いかけて窃盗グループから取り戻しました。これがアラブ人です。日本人は身の安全が一番重要だと考えるかもしれないし、ブラジル人もとても怖がりです。我々は自分のほしい人生を送るのが重要です。
シリア戦争ではこの10年、多くの命が奪い合われてきました。しかし、人々はそれ程悲観的には思っていないし、その恨みを忘れません。子孫まで恨み続けることを望みます。残りの人生を平凡に暮らそうとは思いません。誰かに悪いことをされたら10年でも100年でも忘れません。
大昔、アラブでは2人の男が一匹のラクダを取り合い始め、2グループに分かれて40年戦争を続けました。アラブでは、もし、親兄弟や従兄弟が敵に攻撃されたら、必ずかたき討ちします。
シリア戦争は実は、現大統領の父親の時代から始まっています。人々が長い間ため込んできた不満が、息子世代で爆発したものです。アラブ人は神も信じますが、先祖のかたき討ちをするのも重要なのです。
パレスチナでもイスラエルが入って来てから70年以上、パレスチナ人は恨み続けています。70年過ぎても忘れません。100年過ぎても。(つづく、大浦智子寄稿)