特別寄稿=ドラマ「その女、ジルバ」を見終わって=コロナ禍で生きてるだけで儲けもの=聖市在住 村上ことじ

池脇千鶴主演のドラマ「その女、ジルバ」(東海テレビ・フジテレビ系)は1月9日に放送開始、3月13日に最終回(10回)を放送した(https://www.tokai-tv.com/jitterbug/intro/)

ジルバの生き様に勇気づけられ

 ドラマを見ながら、本当にドンドン引き付けられて勉強になり、人生の指針がふんだんに有り、主人公のアララが生き生きと美人になって行く様子を見て、人間は楽しい毎日を送り、自分が幸せだと思えると、表情が明るく笑顔が多くなるのだと分かりました。
 女も男も、自分の大好きな仕事をして人間関係が良好であれば、素晴らしい人生が送れるのでは。色々苦労があってもそれが人生だから。
 ドラマの中に素晴らしい前向きな言葉がふんだんに有るので元気づけられる。ジルバの様に苦労を乗り越えて、自分の店を開けた時の悦びはいかほどだったでしょう。
 新(あらた)も昼の倉庫で働く時と、夜の店で楽しく働く時の表情が全く別人の様です。ジルバママの壮絶な人生も他人事とは思えません。
 ブラジルでも、日本でも(戦争に巻き込まれて家族を失い)苦難を乗り越えて、自分の好きな仕事(バー)があって幸せだと思った事でしょう。
 90歳と言う長寿を元気で過ごせたら、これも幸せな事でしょう。草笛光子の80歳過ぎて凄い女優魂には感服です。道で倒れた老婆の役、バーの店での妖艶な美しさ。凄い! やはり女優! アララもドンドン生き生きと美人になっていく。
 行け、行け! ブラジルには金の成る木が生えとるぞ! 五年したらカバンに一杯お金を詰めて錦を飾ろう!と。沢山の日本人達が移民としてブラジルへ。苦難の始まりでどれだけの人々が後悔した事でしょう。
 言葉も風俗、習慣も全然違う、まともな家も食べ物も水もない様な原始林に置かれて、大木を斧や鎌で倒し、筆舌に尽くし難い苦難を乗り越えてきた。
 「日本人は正直で真面目で働き者だ」とブラジルの中で凄い信用が付き、そんな状態でも、ドンドン二世、三世に勉強させてレベルの高い仕事につく子供達。ブラジル移民の子供達は親の苦労を見て育ち、親孝行の子供達が多いですね。
 戦後何年も勝ち組負け組の闘争があった様で、私達の知人も勝ち組の人が居ました。日本が「勝った」と思いたかったのでしょう、事実を知って居ても。大体の移民は筆舌に尽くし難い苦労と貧乏から始まった人が大方だと思います。
 画太郎さんはブラジルでの人生の重さに負けたのかも。サンパウロ援協の何処かの施設に入居させて頂いたのでしょう。有り難いですね。

多彩な人物がにぎやかに

 ここから先はネタバレしますので、これから見る予定がある人は、読まない方がいいです。
 主人公である笛吹新(あらた、池脇千鶴)は昼間、百貨店倉庫で働いている、40歳独身の何の取り柄もない女です。
 ところが40歳の誕生日に迷い混んだ路地で、40歳以上のホステス限定のバー「Old Jack & Rose」のアルバイト募集広告を偶然見つけ、「このままではダメになる」と思って店のドアを開けた。
 結局、そこでアララという源氏名で働くことになった。みんな明るい気持ちの良い人ばかりの楽しい店で有り、昼間の仕事は倉庫、夜はバーで働くことになった。店のホステスはクジラママ(草笛光子)他、60、70、80代のホステスばかり。そこでは、40代は昔の20代みたいな物だった。
 アララはダンスも踊れないホステスだったが、女としての自信をつけるために、マスターの幸吉(品川徹)がダンスの特訓をしてくれる。アララはこの店で働く事によって、自分は接客が好きだ、お客さんが喜ぶ顔を見るのが好きだ、と気が付いた。
 40歳なんて凄く若いし、「これからの人生の中では、一番若いのは今なのだ」と気づく。クジラママの草笛光子が80歳代で美しい事。
 アララの元婚約者の男が、課長として昼間の仕事で上役にいる。チームリーダーのスミレ(江口のりこ)も良い味を出して居ると思う。アララでの名で夜働く新は、見違える様な美しいホステスに変身しており、店に訪問した同僚はびっくり。
 同僚のホステス、エリー(中田喜子)は若い頃、婚約者に散々貢いだ挙句、詐欺のような事をされていた。その男が最近、同じ団地に引っ越しをして来たというエピソードも。
 アララは昼の仕事の同僚二人に「店に来て」と誘う。「このお店に来たらきっと良いことが起こりますよ」と。そこでスミレは店のお客と恋に落ち、本当に結婚する事に。
 明るくアットホームの様な別の世界に入ったような夢の国の様なバーであった。店は毎年ジルバママをしのぶ会をしている。直木賞作家で、昔店で働いていたチーママ(中尾ミエ)も参加して楽しい会になった。

マリリアで開拓、開戦直前に日本へ帰国

登場人物の相関図(https://www.tokai-tv.com/jitterbug/chart/)

 チーママに寄って初代ママ、ブラジル移民二世・ジルバの壮絶な苦難に満ちた人生が語られる。ブラジルのサンパウロ移民史料館も協力、移民の開拓時代の写真もドラマには出てくる。
 そのバーの従業員は皆「アララはジルバに似て居る」と思っており、折に触れて、アララにジルバの思い出話をする。
 特に、チーママが詳しく話し出した。ジルバの親達は福島県出身、開拓農業で太平洋を渡って赤道を越えて、地球の真裏にあるブラジルまで船で2カ月かかってたどり着いた。
 そのころの日本移民の苦労は想像を絶する。言葉も解らない未開の地に放り出され、そこでジルバも生まれ、兄も姉も生まれた。そこはサンパウロから400キロ離れたマリリア。当時は農業機械もなく、すべて自分たちの手で切り開いた。
 夏は焼けるような太陽、雨期はスコール、川の水なんて飲める様なものでは無い。そこへ持って来てマラリア。どれだけの子供達が命を落とした事か。ジルバの父親も命を落とした。
 ジルバはそこで日本人男性と恋に落ちて結婚。やがて欧州で第2次世界大戦が始まり、ブラジルは日本の敵国となり、ブラジル国内では日系人に弾圧が始まった。
 それを逃れるため太平洋戦争開戦直前の1941年前半、ジルバの夫は生まれたばかりの赤ん坊と妻を連れて日本へ帰国することを決意した。祖国と言っても見た事も無い国、日本。そこへあと数日という時、夫と赤ん坊が船の中で感染症で亡くなってしまった。
 やがて神戸、見知らぬ国日本、世界でたった1人。ここは本当に祖国か――。

多彩な苦労人の登場人物

 太平洋戦争を耐え忍び、ようやく戦後、この店を立ち上げた。それまで9年かかった。それから60年何年間、いったい何人のホステスが、何人のお客様がこの店を通り過ぎたことでしょう。
 クジラママも終戦直後はヤクザに体を売らされ、それから逃げた時に、この店に出会った。そんな誰にも言っていなかったことを、アララに打ち明け、「気が楽になった」と泣いた。70年も秘密にしていた事で気が楽になったと。
 アララの友人、ブラジルに住んだ事もある白浜青年からの手紙で、ブラジルもコロナのせいで大変だけど、ジルバの義理の兄さんの画太郎の消息がようやく解り分かったという。
 画太郎さんはジルバと同じ日系移民で、ジルバが日本に帰国する前に、帰国費用を全部騙し盗り、ジルバママは彼のせいで無一文となったといういわくつきの人物。
 白浜青年は、画太郎さんの消息をサンパウロの日本人会の伝手をたどって調べたのです。画太郎さんはサンパウロ市の郊外にある福祉施設に入所していた様です。
 そこは生活に困窮した身寄りのない日系人の為の老人ホームでした。画太郎さんは1997年から2010年までそこに居たそうです。日本は戦争に勝ったと言い続けていたそうです。ジルバが日本に行く時、「そうかお前、日本に帰るのか、良いなー」と言ったそうです。
 もしかしたら画太郎さんは、誰よりも日本に憧れ、日本を愛していたのではないのでしょうか。画太郎さんは孤独で 惨めな老人だったのでしょう。ジルバの兄や姉がホームに見舞いに来ていて、「妹のジルバは自分の力で日本で成功した」と日本移民の夢を叶えたことを伝えたと、白浜青年の手紙に書いてあった。
 コロナ禍で客が来なくなって一度閉めたバーにアララが行き、店で荷物の整理をしているマスターに、「やっぱり私がこの店をやります」と言った。「どなたか一人でもお客様がきて下さるのを、待ちます。ここはジルバの店だから」と。
 それから何年か過ぎたら店は元の様に 繁盛して皆んな歌い踊り 楽しい夢の様なお店になっていた。そこは別世界よ。

名言が散りばめられた物語

 「その女、ジルバ」の中でとても良い言葉があちこちに出ています。「ジルバは人の過去は聞かなかった」とか。
 登場人物の一人、倉庫のリーダーのように性格のきつい女は、相思相愛の人と結婚したら急に優しい女になる。人はもっと寄り添った方が良いとと感じさせられた。
 何歳になっても、何か起きれば胸が踊り、何を着て行こうかなとワクワクするのがいい。登場するホステス達が60、70、80歳代になっても若々しく美しい。「辛い過去は忘れて生まれ変わればいい」「心の底から泣けるのは幸せだ」などなど名ゼリフぞろい。
 そして女優は矢張り凄い。お婆さんの役もすれば、美しいホステスの役もする。「時間は直ぐに過ぎる。毎日毎日大事に過ごして行こう」という事。「自分の人生がこんなに変わるとは思わなかった。これからも色々な事が起きる、それが人生だから」。
 「自分に適した仕事、やりたい仕事をやるのが幸せだ」「命さえあればなんとかなる。前だけを向いて行きましょう」「過去は過去。今引き返したらもう戻って来ないでしょう。今から今から。ここにしか無い出会いがある」とか。

村上ことじさん

 ドラマにこんな一言も「ブラジル移民は故郷がない」。一生現役、生きている限り自由でやりたい事をやる人生。ジルバは一度もブラジルに帰る事は無かった。日本人も移住して一度も日本に帰らずブラジルの土になった人も多い。
 ただボンヤリして寝て食べてゆっくりするのも良い。疲れたときはゆっくり休め。コロナで亡くなった人が多勢いる。生きているだけで大儲け、ゆっくりしても良い。
 自分らしく生きて行きたいな。これぐらいの事でへこたれるな。まだまだこれからかな。諦めるのは止めよう。背筋をピーン。今ここで何かしないと。
 たとえパンデミックの中でも、いつでも前向きに生きる。熟女は時々倒れても、起き上がる。クジラママのように。
 「その女、ジルバ」ドラマの中には素晴らしい言葉や、ブラジル移民の事など凄い内容だ。