中島宏著『クリスト・レイ』第138話

 あるいはそれは、宗教の力に繋がるものなのだろうか。まあ、宗教といえば、ここに住む隠れキリシタンの人たちにも同じことがいえるとは思うけど、しかし、君の場合は、彼らとは異質のものがあるように僕には思えるから、その辺りが微妙に違うのではないかとも考えている。そこまでの、君の心の深い面を探ろうとするのは、ちょっと行き過ぎかもしれないけど、もしできれば、そこを教えてくれないかな」
「そうね、話せば長くなるかもしれないけど、自分の気持ちをここで整理するためにも、マルコスには私の心の深い部分を話して置いたほうがいいと思う。
 それを、あなたがどう解釈しようと、それはあなたの問題として受け止めてもらったらいいし、それに対する意見を特に聞きたいとも思わないわ。ただ、こういうことをいずれ誰かに話さなければならないと考えていたから、むしろこれは、そのいい機会といえるかもしれないわね」
 この時のアヤの話は、マルコスもちょっと想像しなかったほどの意外性を持つものだった。いわばそれは、彼女の精神的な成り立ちの部分をさらけ出すような話だが、そこまで彼女はマルコスに対して心を開いたということになるのかもしれない。
 それは、単なる過去の物語という簡単なものではなく、アヤ自身の告白ともいえるものであった。少し、長くなる。

「さてと、私の物語をどこから始めたらいいか、ちょっと戸惑うわ。
 前にも話したけど、私が生まれ育ったのは、日本の福岡県にある、今村町という所なの。町といっても私が住んでいたのは本当の田舎で、畑しかない寒村といった所ね。