特別寄稿=「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて(仮訳)=防衛省防衛政策局次長 野口泰

VEJAオンラインに掲載された野口氏の寄稿〈https://veja.abril.com.br/mundo/por-um-indo-pacifico-livre-e-aberto/〉

 約3年間のブラジル・サンパウロでの勤務を終えて帰国したのち、昨年8月より防衛省での勤務を開始したが、そこで目の当たりにしたのは、我が国が置かれている厳しさと不確実性を増す安全保障環境である。
 北朝鮮は核・ミサイル開発を継続しており、2020年10月10日の軍事パレードで新型のICBM級弾道ミサイルやSLBMの可能性があるものを披露した。
 また、国際法との整合性の観点から問題がある規定を含む中国海警法の下で、中国海警船が、我が国南西部にある尖閣諸島周辺の領海への侵入を繰り返すとともに、南シナ海では、中国による軍事拠点化が進められるなど、力による一方的な現状変更の試みが行われている。
 こうした懸念に加え、サイバー空間や宇宙においても懸念すべき状況が確認されている。約20万人の日系ブラジル人が日本に住んでいることもあり、ブラジルも日本周辺の安全保障環境には多大な関心を有すると承知している。
 こうした中、我が国は①我が国自身の防衛能力の強化、②唯一の同盟国である米国との防衛協力強化、③その他の諸国との安全保障・防衛協力強化の方針に基づき、我が国の安全を確保することとしている。
 ここでは、③の諸外国との安全保障・防衛協力について述べることとする。
 インド太平洋地域は、世界人口の半数以上を養う世界の活力の中核であり、この地域の安定的で自律的な発展を実現することは世界の安定と繁栄にとって不可欠である。

 この方針のもと、防衛省が重視しているのが、2016年8月に安倍総理(当時)より提唱された「自由で開かれたインド太平洋」ビジョン(Free and Open Indo-Pacific〈FOIP〉)である。①法の支配、航行の自由などの普及・定着、②経済的繁栄の追求、③平和と安定の確保をその内実としている。
 このビジョンで強調しておきたいのは、特定の国などに対抗したり、排除するものではなく、このビジョンに賛同するいかなる国とも協力するとの包摂性のある点である。
 アジアや欧州を含む多くの国によるFOIPに対する関心及びコミットが日に日に高まっていることに勇気づけられている。
 ブラジルにとっては、今や中国や我が国などのアジア諸国との貿易が経済成長を引っ張る原動力となっており、こうした貿易のシーレーンは太平洋であり、インド洋であるからである。ブラジルにとっても、インド洋や太平洋における航行の自由、平和及び安定は不可欠である。
 2020年12月15日、岸防衛大臣はアゼベド伯防衛大臣とビデオ会議を行い、今後の両国間の防衛協力を強化するための覚書に署名した。さらに2021年1月にブラジルを訪問した茂木外務大臣はボルソナーロ大統領やアラウージョ外相と会談した。
 こうした会談を通じて、日本とブラジルは「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けて協力することを確認している。ブラジルとともに、航行の自由、法の支配の重要性や力による一方的な現状変更の試みに反対するとの強いメッセージを国際社会にアピールすることができれば幸いである。
(ブラジルオンライン雑誌VEJA ONLINEより、日本語仮訳の転載)