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特別寄稿=日本定住化30周年記念=在日ブラジル人向け雑誌=カンノエージェンシー代表 菅野英明=『alternativa』創刊20周年=欠かせない生活・求人情報提供

田井リカルド博基社長

 創刊20周年を迎えた雑誌『alternativa』は創刊以来、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、昨年春から続くコロナ禍と三つの危機に遭遇した。多くのブラジル人にとっては、生活、就職、子供の教育、賃金カット、所得の大幅な減少など、生活環境を一変させたインパクトを与えた。
 こうした中で「いま読者が最も求めている情報は何か」を田井(たい)リカルド博基(ひろき)日伯友愛社社長に聞くと、「コロナワクチンの予防接種や、再び普通の生活が過ごせるような希望を与える、コロナ陽性患者数の拡大で自分たちの地域が気になる、緊急事態宣言について説明がほしい」などを挙げた。
 この20年間で日本のブラジル人社会も大きく変わった。その象徴的な一つは日本語能力の低下である。2000年前後までのデカセギの中には、青年時代にブラジルに移住した戦後移民が多かった。読む・書く・話すという日本語能力は完璧で、しかも誠実・勤勉・努力など日本の伝統的な精神文化も身についていた。
 それが時代とともに二世三世代交代が進み、日本語能力の低下が進んだ。これに伴い日本での情報をポ語に頼るようになってきた。ポ語でこの隙間を埋め続けてきたのが同誌である。

 ブラジル人読者が中心のフリーマガジン 「alternativa」誌は、タイムリーなコンテンツで多くの読者を獲得した。隔週刊発行で部数は毎回1万8千部、配布先は全国主要都市を中心に300カ所と、とてもコミュニティ誌とは思えないほどの市場規模を誇っている。
 しかも取材網は全国的規模になっている。だがコロナ禍の影響で昨年春まで3万5千部あった発行部数は、僅か1年で半減したほど影響が大きかった。
 編集方針の使命は『日本のブラジル人コミュニティに力を与え、自分たちの権利のために戦う正しい決断を下せる手段を提供する事』とメディアの進路を鮮明にしている。同時にIT時代にも積極的に対応している。
 ホームページAlternativa: Notícias do Japão(https://www.alternativa.co.jp)は、現在、オンラインの影響力はAlternativa Online ウェブサイトで月平均224万ページビューで、平均36万4千人のユニークユーザーがいる。Facebook、Instagram、TwitterなどSNSでは18万人以上がフォロワーとなっている。

日伯双方から高い評価

 こうした同誌の使命感によるコンテンツづくりは、日伯双方のメディアや日伯間を結ぶ団体からも高く評価されている。まず同誌を評価した日本のメディアとして、創業者の田井は、2017年2月4日号の日本経済新聞・朝刊最終面に連載されている文化欄に寄稿を依頼され『在日ブラジル人の知恵袋』として紹介されている。
 ついで同誌を評価したブラジルの邦字紙「ニッケイ新聞」のコラム欄(2019年2月26日号)の「大耳小耳」が次のように評価している—「在日ブラジル人向けコミュニティ雑誌「Alternativa」を2001年に創刊した田井リカルド博基さん(日伯友愛社長)の話が、日伯協会(三野哲治理事長、神戸)の機関紙『ブラジル』19年新年号に掲載されていた。インターナショナルプレスなど大手ポ語新聞が続々と印刷版から撤退してサイト中心になるなか、紙のポ語メディアとして続いている貴重な存在だ。日系の父と日本人の母が日本で暮らすことにしたのを受け、1990年に一緒に訪日。当時19歳、愛知県の自動車部品工場で働いていたが、神奈川県に転居。29歳で同誌を創刊。東京、名古屋、静岡など全国6カ所にブラジル人記者をおいて独自の記事を掲載し、19年間も続けている。発行部数は3万5千部もあるというからすごい。在日伯人にはなくてはならない情報誌。お互いにがんばっていきたいところだ」。

日本で生活するブラジル人に役立つ情報を発信し続けている編集部のスタッフ

 そして同誌を評価した日伯間の民間団体だ。先の日伯協会とともに日本ブラジル中央協会(大前孝雄会長 東京)が発行する隔月刊会報誌では、2020年8月号誌上に日伯友愛社が発行するalternativaの歴史が翌年20周年を迎えるに際し、同誌の編集長がその使命と役割を次のような一文で寄稿している。
 『コミュニティの表情を伝える雑誌』として「来年で創業20周年を迎えるalternativaは在日ブラジル人コミュニティをありのまま描き、そして読者には日本の生活に欠かせない情報を伝え続けているポルトガル語の雑誌である。また、ウェブ版「Alternativa Online」とともに、日本で生活するブラジル人をはじめ南米系外国人や日本に興味がある海外の読者を対象としたメディアとして、言語の壁を越えて日本との架け橋の役割を果たすことを目指している」。
 2001年5月24日に本誌が創刊され、田井は「有限会社日伯友愛はいままでになかった出版物を市場に送り出した。この結果、日本国内のポルトガル語雑誌業界への信頼度が高まり、媒体の品質基準を確立した」とその出版を決断した正しさを実証している。

『alternativa』誌と経営

 「日伯友愛社」とは一言でいえばどのような会社なのだろうか。「ダイナミックで新しい情報伝達代替手段としてのメディアだ。当社の誇れるオンリーワンは『プロフェショナリズムで在日ブラジル人の地位と向上を目指している』戦うプロ集団と自他ともに認めている」という。
 フリーマガジンを刊行するに至った目的も大義があり説得力がある。「日本語がわからない在日ブラジル人のために、日本で生きていくための、日常の不便や社会生活の理解不足などを補い、生活の利便性と快適性を向上させるために創刊した」。
 経営面では様々な苦労をしてきたが、創刊後僅か1年で経営できる信頼を取引先から獲得したことが一番大きかった。何よりも田井の人間性と尊敬の念をもっていつも相手と接している人徳と人間的魅力だろう。コロナ禍が1年以上続き経営的には、ムダを省き経費削減の常態化を継続するとともに、古くからの顧客との関係などを大切にしつつ、尊敬(リスペクト)と公平性の維持に努めてきた。そして取引先とのパートナーシップを大事にしている。

コロナ感染情報やワクチン接種方法など読者にとって生活とともにある情報誌だ

 さらに経営の特徴は「常に相手からの提案を聞くとともに、相手を常に尊重すること」の継続で、日伯友愛社が20年間勝ち残ってきた。その理由は「長年のお付き合いで、コミュニティが必要性としているインフォメーションを細かく調べて情報提供を出来るようにしていること、お客様満足度に支えられたパートナーシップの2点」と力強くこう語った。
 同時に、在日ブラジル人向けにお茶の間感覚のコミュニティ情報を読者目線の視点から発信し、日本で発行するポルトガル語の雑誌として高い評価を受けている。日本で暮らす19万人のブラジル人にとっては生活全般と就職の求人媒体として欠かせない生活情報誌の地位を確立したのである。
 「(日本の)独立系ポルトガル語媒体として最初に認められたそのパイオニアであると自負している」。また在日ブラジル人コミュニティの好みと好奇心、及びその行動を熟知することにより、記事及び広告の信頼性と価値を高めている。その結果「広告スポンサー(クライアント)である全国の製造業を始めとして多くの会社や経営者などから求人広告媒体として利用いただいている」。

期待されるメディア経営者・田井

 田井は人生観に「哲学」を座右の銘に置いており、人材育成も「基本は概念と哲学」と難解。日系二世が大部分を占める社員への評価は「柔軟性とブラジルの文化に関連する創造性」という。
 田井は経営者としても独自のオンリーワンを持っている。豊かな人間性がこれを支えているのは確かなようだ。創刊以来いままでの20年間については「いろんな仕事を実現できたこと」。今後の20年先については「いまより強くなっている」と取材を結んだ。
 今後さらなる活躍が期待される注目のメディア経営者である。(カンノエージェンシー代表 菅野英明)


会社概要
【会社設立年】2001年
【創刊年月】2001年5月24日
【社名】有限会社 日伯友愛
【経営理念】Sei que nada sei (自分が何も知らないことを私は知っている)
【社長名】田井リカルド博基
【社員数】15名、編集、営業、制作デザイン、総務など各部署で日系二世が中心になり少数精鋭主義で連日頑張っている。
【グループ事業】Alternativa Brasil とAlternativa Network
【媒体名】『alternativa』、媒体名に込められた意味「もうひとつのオプション」
【雑誌『alternativa』発行部数の推移】
2001年:4000部
2007-2008年:60000部
2011年:43.000部
2015年:43.000部
2017年:39.000部
2020年:35.000部
【編集長名】大畑タシア、カマタ・ファチマの2人編集長態勢
【『alternativa』誌が読者から支持され続ける理由】
(1)ブラジル人コミュニティに直接的な関心のある独占的なコンテンツをタイムリーに提供、(2)だれでも簡単にできるアクセス
(3)すべての内容記載ありの完全版
 日系社会とボランティア媒体を通してみた日系社会が抱える問題点について田井は「フェイクニュースが多い、団結力が常に不足している、人的な流動性が多く個人主義が強いため、強固な組織ができにくい」とズバリこう指摘した。
 会社として、『alternativa』として、「ボランティア活動をいろんな分野や機関の中で健康や教育の面でサポートしている」。


田井(たい)リカルド博基(ひろき)日伯友愛社社長の人生

【日本に来た目的】自分の人生にとって飛躍する機会がある。
【来日年月】1990年5月、19歳の時。
【最初の仕事】愛知県の工場で自動車部品の組み立て作業やオペレーターなど下積みの苦労もしている。
【自分の夢を実現するために日本に定住してよかったと思うこと】生活の質と人生の視点
【生年月日】1971年6月30日
【出身地】サンパウロ市リベルダーデ、  
【最終学歴】高校卒業
【生活信条】哲学
【趣味】無類の読書好き、ハイキング、ギターを弾くこと、Netflix(映画見ること)。
【子供の名前】田井・アレサンドロ・ユキ(学生)。父は二世 、母は14歳の時に家族移住したが、現在は田井とともに日本暮らし。3人兄弟の長男。
【両親から教えられたこと】働くこと。それは怠惰ではなく決意をもって仕事に取組むこと。
【日本語で好きな言葉】信用、責任、努力、誠意、付き合い、よろしくお願いします

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