特別寄稿=ボケ予防手段としての金融投資=じっくり楽しもうマネーゲーム=経済金融面は楽観ムードに=サンパウロ市在住 元週刊 FAXニュース代表 永井 忍=(5)

 さてブラジルは今、政治面では要注意、経済金融面では構造的ではなく一時的または部分的な改善でも、楽観ムードに支配された状況になっている。
 政治面で要注意なのは、政府コロナ対策の調査に上院に設置されたCPI(議会審問委員会)が活動開始から1カ月以上が経ち、証拠整備の最中にあり、これまで政権を直ちに揺るがしかねない事態は特に起きていないが、依然として不確実性に満ちている。
 さらに繰り上げた選挙戦は政権終末の機運を醸成して不透明性を増している。当然、構造改革の道は一段と狭まってしまっている。
 政治でも経済でも深刻な影響を及ぼしかねないコロナ禍は5月に、最悪と史上に残りそうな4月よりは改善したもの、死亡者数でやや改善の兆しでも、新規感染者数や病床のひっ迫などは依然として深刻な事態が継続している。
 政府がやりだした対インド変異株の水際対策も問題が少なくなく、見込み以上に悪かった第2波が完全に収束する前、早くも第3波の到来に関する不安と危機感をすでに引き起こしている。
 それなのに、なぜ経済金融面は楽観ムードに支配されるようになったか。
 問題や困難は幾らでも指摘で見るものの、とにかく景気が改善している。それは今年第1四半期GDP(国内総生産)として結実し、前四半期比1・2%増加という予測以上の結果になった。
 そのような結果は今、アグリビジネスや国際商品高騰が主に支えている。国際商品の輸出増加(5月として統計最大の黒字の記録)がドル安に誘導し、加速中でもインフレ懸念を緩和し、楽観ムードの好循環に寄与している。
 長かったトンネルの出口を見出した企業は少なくなく、アグリビジネスや国際商品の関連企業がなお主流であっても、吸収合併や設備投資のニュースが着実に増え始めた。
 他方、コロナ禍は4月に最悪の結果を示し、多くの市がロックダウンの選択に追い込まれ、自動車や電気電子などの産業では生産財不足に悩まれ続け、それゆえ鉱工業生産が4月に強く減少した結果だったように、決して楽観に安住できる状況ではない。

(1)国内の主要なリスク:リスクの上で前月に比較して、政治リスクは改善なく、軍隊内や社会での不満の声や抗議に耳を傾けるなら、やや悪化と言えよう。水面下で進む繰り上げた選挙戦は構造改革、すなわち抜本的な財政健全化の道を阻み、パンデミック第3波と電力消費規制の可能性は経済の楽観ムードを壊しかねない。
 下院では、同議長の音頭取りの下に、経済相が提案する分割した税制改革案の推進を擁護する流れがある。なおブラジルに賭ける投資家は現大統領と現政権に改革推進を、大きなものでもなくとも、民営化や業務民間委託の拡張などの具体化を期待している。Eletrobras民営化やインフラの業務民間委託が起きるほど投資家の好感を呼ぶ。
 最重要リスクはコロナ禍であり、その解決はひとえにワクチン接種の拡張にかかっている現状だ。終息にワクチン接種の75%到達が必要との研究調査もあるが、ブラジルは現在が第1回接種さえ23・1%(6月7日現在)という低い状況だ。接種遅速と低い自粛を前に、科学者が国内で第3波を予見している。ただ専門機関の中には、第3波が押し寄せても経済への悪影響は大きなものにならないと観測する流れもある。
 そして新たなリスク、電力消費規制の可能性がコロナ禍に次ぐリスクとして不安と危機感を喚起している。政府が消費規制回避にパラナ河の流域での航行とかんがい向け水使用の制限などをすでに採用した。ONS(国内電力システム運営機関)が消費規制の警鐘を発した。

(2)国外の主要なリスク:米欧で進むワクチン接種拡大に牽引されて、特に米国だが、世界全体の経済の回復がより鮮明になるなど、全般にリスク改善と言えよう。
 中国経済の牽引で高い国際商品相場が続いて、ブラジルを含む新興諸国にも良い影響を及ぼし始めた。疑問と不安は今、米国のインフレ、繰り上げた利上げ開始のリスクだ。
 鉄鋼と鉄鉱石が中国で5月12日に新最高を記録した。なお国際商品サイクルで、ブラジルは少なくとも2年にわたって受益という観測もある。米国消費者物価が4月に前月比0・8%上昇し、2008年9月以降最高の年率4・2%という上昇幅だ。そのコアも年率3%と見逃せない事態だった。ただし国際商品のインフレ圧力は、穀物の豊作予測を前により少ないと専門家の一部が見ており、5月以降の推移を注視する。
 ワクチン接種拡大に連れて、世界でロックダウンが減少してきて、経済に新たな平穏期が到来している、という解釈が一般的だ。投資家が増益にリスクを引き受けるようになって、ブラジルを含む新興諸国への資金運用を拡大している。それだけに、繰り上げた利上げにつながりかねない米国のインフレに注意が向かい、その舵取りを担うFRB(連邦準備理事会)の会合や議事録の内容に市場の関心が集まる。

(3)第1四半期GDP(国内総生産)発表後最初の2021年マクロ経済予測は景気見通しを上方修正:IPCA(インフレ)予測はすでに目標上限5・25%を越えてしまって、金利予測も度々の上方修正を経てきたが、最近の目新しいことは景気予測、その上方修正だ。
 6月4日付FocusはGDPが4・36%と鉱工業生産が6・10%の成長を示して、前回(4月30日付)のGDP(3・14%)と鉱工業生産(5・03%)の成長を上方に強く見直した。他方、IPCA(インフレ)は前回の5・04%から目標上限5・25%を上回る5・44%にやはり見直した。
 そして年末のドル相場はR$5・40からR$5・30に下方修正し、SELIC金利は前回の5・5%から5・75%に上方修正した。そのトレンドは、なお続くという見方が強い。脇に置けないことは、2022年末のIPCAとSELIC金利の観測だが、IPCAが前回の3・61%から3・70%に、SELIC金利が6・25%から6・50%にそれぞれ上昇した。来年にIPCAは、目標中心3・5%をすでに上回っているが、上限5%に対しては余地をなお残している。
 なおGDPは第1四半期に前四半期比1・2%増加した。そして4月に、鉱工業生産が前月比2・4%減と強く減少したが、小売り販売が見込みを越えて前月比1・8%、4月として21年間最大の伸びを記録した。さらに5月、インフレ(IPCA)が5月として25年間最大率0・83%を記録、12カ月計は目標上限を遥かに上回る8・06%に到達した。

(4)勢いをつけた株式投資だが:平均株価指数(Ibovespa)が5月を12万6216点で終え、前月比6・2%上昇した。連続3カ月目の上昇、上昇幅は今年最大だ。年計6・0%高と今年初めてプラスに転じた。
 証券取引所B3で出来高が5月に前月より増加し、それにつれて外国投資家のそれも増加したが、買いでのシェアは24・9%から24・6%にやや減少した。シェアは確かに減少でも、収支は1月に続いて2番目に大きな黒字、すなわち手持ちを手放さずに買い込んで、株価上昇を牽引したことを示す。
 Ibovespaが6月に入っても堅調な楽観ムードを示し、最高更新を継続して遂に13万点台にある。一部が年末に14万5千点を観測するほどだ。ただし大きな黒字を続ける外国投資家がそれに寄与しているが、買いでのシェアは5月全体より逆に減少した。

(5)ドル相場は軟調、外貨建て資産は不調の現況だが:ドルが5月をR$5・2322で終え、4月末より3・2%下落した。年計0・7%高、なおプラスでも昨年末の相場並に戻った。レアル高は全般に外貨建て資産の収益を悪化、レアル建て残高の減少になる。
 5月に、金相場は上昇して月末に1900ドル台も記録したが、暗号通貨を代表するビットコインは逆にドル建てでも強く下落した。だから一部がビットコインを金に買い替えを推挙している。他方、5月の急落後であるため、ビットコイン買いを推挙する流れもある。
 ドルは6月4日にR$5・035に下落した。2020年6月10日(R$4・936)以降最低値だ。R$5・00割れには心理的な抵抗もあり、楽観ムードがR$5・00割れに導くか、抵抗が続いてR$5・00割れを避けて下半期に入るか、なお不透明だ。
 なお外為収支は5月に、金融為替が今年最大の赤字(出超)で、貿易為替の黒字(入超)では足らずに今年最初の赤字を記録した。直物取引は赤字でも先物取引がドル下落に寄与したようだ。
     ☆
 私は、5月中に株式シフトをやや増強する選択をとった。その選択は5月に私の金融資産残高の追加増加となった。残高は昨年末のものを超越して、このまま横這いでもプラスの1年で終えられることになる。
 さて今後、上記のような現況とリスクを踏まえて、どのような資産運用構成が良い結果をもたらすだろうか。
 私はボケ予防として金融投資の利用者として増益より安全性を優先し、Ibovespaが13万点台になった時点で、ひとまず利食い、株式資産の売却を選択した。その資金は、今後の動向によって、外貨建て資金かインフレ・ヘッジの確定利か、先にいって下落するなら株式に回帰か、柔軟に決めて行くつもりだ。