【日本移民の日2021年】東京五輪空手予選=ニコリ選手惜しくも代表落選=剛柔流・与那嶺育孝範士の孫=「家族の協力でここまで来た」

五輪海外選手候補のニコリさん

 「家族や周りの力があってここまでくることができました。精一杯全力を出して、五輪への道を目指したい」――東京五輪空手部門の海外選手選考試合を控える与那嶺・モタ・ヘレナ・ニコリさん(25歳・三世・糸東流初段)は、すこし緊張した面持ちで胸中を語った。間近に迫る「東京オリンピック・パラリンピック」の空手競技代表選手選考試合が、世界から代表クラスの選手がパリに集まって6月11日から13日まで行われ、ニコリさんも出場した。その結果、ブラジル勢の入賞者ゼロとなり、惜しくも出場権を逃した。もしも出場できていたら、空手では唯一の日系代表選手になっていた。今回の取材はそれが決まる直前、パリでの試合の前に行われたため、出場を期待するコメントになっている。

 空手は今回の東京五輪で初めて正式競技となる。空手は時の琉球王国(現沖縄)が発祥の武道で、世界約200カ国に広がり、競技人口は約6千万人いると言われている。
 空手は大きく二つに分かれ、今回の東京五輪で採用されたのは、伝統派空手(ノンコンタクト空手)と呼ばれるもの。攻撃技と防御技を組み合わせた伝統的な一連の流れを演武する「形」や、相手の身体に攻撃を当てる寸前で止める「組手」に主軸を置く空手。4大流派は「剛柔流」「糸東流」「松濤館流」「和道流」。
 もう一つは実戦空手(フルコンタクト空手)と呼ばれ、伝統派から派生した空手で大きな団体は「極真会館」などがあげられる。
 ニコリさんは五輪空手海外代表選手選考試合大会にブラジル代表として「形試合―女子の部」に出場した。同部門は世界各国から44人が出場、うち五輪出場枠はわずか3人という狭き門だ。
 ニコリさんが生まれた与那嶺家は空手一家で、同氏の祖父にあたる与那嶺育孝さん(やすのり・80歳・那覇)は、サンパウロ市ビラカロンに本部を置く「沖縄空手道剛柔流武術協会 琉武会 総本部」会長で範士十段だ。
 範士は武道における最高位の称号で、同氏は日本国外在住者で初めて取得した功労者だ。また、世界空手道連盟(WKA)が認定した唯一の沖縄出身一級審判員で、南米や北米、ヨーロッパなどでも指導し、世界大会に出場する選手を多数育て空手の普及に貢献した功績を持つ。2012年にはサンパウロ名誉市民章も授与した。
 その育孝さんと妻ヘレナさん(73歳・二世)の間に生まれた5人の子の長女与那嶺シモーネ・ハツミさん(52歳・三世)(Simone Hatsumi Yonamine)と、父パウロ・ミゲル・モタ・ジュニオール氏(58歳・ブラジル人)(Paulo Miguel Mota Junior)との間に生まれた3女がニコリさんだ。
 シモーネさんは剛柔流7段、糸東流6段。父パウロさんは糸東流7段でサンパウロ州ジャボチカバル市(Jaboticabal)に糸東流林派ブラジル支部長として道場を構えている。
 その間に生まれたニコリさんも3歳から空手の稽古を始め、「形試合」を主にブラジル空手連盟公式の全伯大会や南米大会、パンアメリカ大会などで幾度となく優勝を収めている。
 また世界空手道連盟の世界大会に5度も出場する程の輝かしい実績を持つ。その実績が認められ、現在通うエスシオ・デ・サ大学リベロンプレット校(Estácio de Sá Ribeirão Preto)の学費も州政府の奨学金が出され免除されている。

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パリにいる本人にオンライン取材

試合前の緊張した面持ちでオンライン取材を受けるニコリさん

 ニコリさんは7日のオンライン取材で、「コロナの影響で五輪が延期し選考試合も1年延期。災禍前は連日遠方の試合が続き、基本の稽古ができず忙しい毎日を送っていた。延期になったことで逆に五輪の練習に専念できる時間が増えてよかった」と笑顔を浮かべる。
 練習について聞くと「両親に指導してもらい『形』の稽古や基礎の稽古、筋肉トレーニングなど毎日5時間程練習しました。ビラカロンの祖父の道場に行き、祖父や親戚にも指導してもらうことも。両親が空手で必要な筋肉トレーニングを行う為にパーソナルトレーナーや、健康管理をする栄養士も付けてくれました。家族のサポートがなかったら今の私は無いし、ここまで支えてくれたことを本当に感謝しています。あとは精一杯全力で頑張るだけです!」と意気込みを語った。
 ニコリさんにとって空手とは何かと尋ねると、「空手は私の人生のすべて。幼少期から練習しているので私の考え方や性格、これからの目標に強く影響しています。その空手を教えてくれている家族に心から『ありがとう』を言いたい」と感謝の眼差しで語った。
 育孝さんは、「今回だけでなく今まで泣くほど仕込んだよ。オリンピックは狭き門、出場も優勝も並大抵のことじゃないが精一杯頑張ってほしい。そして空手で学んだ忍耐、経験を人生に大いに生かしてほしい。人の意見に聞く耳を持つ真っ直ぐな人間になってほしい」と期待をよせ笑顔で語った。
 両親のシモーネ氏とパウロ氏は、「この為に多くの時間を練習に費やした。ニコリはとてもいい選手なので、予選を突破して五輪出場の可能性があると思います。ライバルが多く狭き門ですが全力で頑張ってほしい。そしてこの空手の経験と努力をこれからの人生に役立ててほしい」と願いを込めた。今回は惜しくも落選したとは言え、五輪を目指して訓練を積むという貴重な経験から得たものは多く、将来への大きな糧となったに違いない。(淀貴彦記者)