《記者コラム》パンデミックの長いトンネル、出口の明かり見えたか?

長い、長いトンネルの先にようやく光が(写真AC、作者:taiwan_cameraさん)

若年化するコロナ入院者

 長い、長いトンネルの先に、ようやく明かりが見えてきた感じがする。米国はすでにトンネルを抜けた感じだが、ブラジルはこの4月が最悪だった。
 ワクチンの供給がかなり安定してきたことで、接種のスピードが増し、1回目の接種を終えた人が全伯で35%を超えた。サンパウロ州に限って言えば、成人の53%は1回目を終えた。
 サンパウロ市では40代前半まで接種年齢が下がっており、コロナに罹患して重症化しやすい60歳代以上の大半は、1回目の接種を3~4月に終え、5~6月には2回目も終えたタイミングだ。2回目を終えて2週間すれば抗体ができるので、7月中には重症化率が大きく下がる可能性がある。

ブラジルのコロナ死亡者数の推移(グーグルニュース)

 実際、フォーリャ紙6月29日付《コロナ死者・入院者が60歳代でも減少》(※記事リンクは全て3日参照=https://www1.folha.uol.com.br/equilibrioesaude/2021/06/mortes-e-internacoes-por-covid-19-agora-tambem-encolhem-na-faixa-dos-60-anos.shtml)によれば、全伯で60歳代が3月から4月にかけてワクチン接種を行ったことで、4月末から明らかに死者・入院者が下がっているという。
 4月半ばの60歳代のコロナによる入院率は全体の23%を占めていたが、接種の進展に伴い、6月中旬には11%まで落ちた。60歳代のコ

人口比で見たブラジルのワクチン接種回数(グーグルニュース)

ロナ死亡者数も4月中頃には全体の29%を占めていたが、6月中頃には16%まで落ちている。
 別の記事UOLサイト6月21日付《サンパウロ市のコロナ入院者の57%は40~50歳代》(https://www.uol.com.br/vivabem/noticias/redacao/2021/06/21/57-dos-internados-com-covid-19-em-sp-tem-entre-40-e-50-anos-diz-sindicato.htm?u)によれば、医療施設組合SindHospの調査では、以前は大半が60歳代以上だったサンパウロ市の私立病院に入院するコロナ患者が、6月半ばの時点では57%が40~50歳代になった。60歳代以上は19・77%まで減った。

昨年11月初め水準まで戻る死者減少傾向

 6月も死者数が2千人前後を維持していたことは、死者の年齢層が入れ替わっていることを意味している。かつては高齢者の全般がこのカテゴリーに含まれていたが、6月後半には40~50歳代の持病持ちの人が中心になっていた。この層に接種が進んだことで、さらに入院者が若年化する流れになる。
 ただし、コロナで命を落としやすい高齢者層が接種を終えれば、今後、死者数自体がどんどん減る傾向になる。持病さえなければ、若者は感染してもあまり重症化しない傾向があるからだ。
 7月2日付G1《コロナ死者52万2千人だが死者数の減少率も最高》(http://g1.globo.com/bemestar/coronavirus/noticia/2021/07/02/com-522-mil-mortos-por-covid-brasil-tem-maior-tendencia-de-queda-nos-obitos-d/)によれば、2日の死者数は1879人と世界的に見ても大変多い。だが、7日間平均の死者数は1542人まで落ちており、この数字は第2波のピークの直前の3月8日の数字(1540人)にほぼ等しくなった。14日前の7日間平均と比べると、26%マイナスになっており、この下落率は昨年11月11日に記録したものに等しいと報道されている。
 4月にピークを迎えた第2波が勢いを失ってきたのと同時に、ワクチン接種が進んだことで、第2波の前兆を示した昨年11月後半以前の死者数減少率の状態にまで戻りつつある。

自然感染で集団免疫になる代償は非常に大きい

 5月20日付Exameサイト《サンパウロ市成人の半分以上がコロナの抗体を持つ》(https://exame.com/brasil/mais-da-metade-dos-adultos-em-sao-paulo-tem-anticorpos-contra-a-covid/)によれば、USPとサンパウロ連邦大学、フレウリ・グループが、今年4月末から5月初旬に実施した抗体検査によれば、サンパウロ市(人口1233万人)の18歳以上の大人の41・6%が抗体を所持していた。これに当時のワクチン接種率約10%を加味すれば、すでに大人の半分以上、51%は抗体を持っている状態だと報告した。
 公式統計では聖市のコロナ罹患者は110万人だが、実際には350万人、3倍の罹患者いることが分かった。とはいえ、同記事には《集団免疫である70~80%まではほど遠い》と書かれており、さらなる警戒を呼びかけている。
 昨年7月の同調査で抗体を持っている大人は11%だった。5月27日現在でサンパウロ市のコロナ死者は累計3万171人もおり、サンパウロ市人口の408人に1人がコロナで亡くなった計算になる。
 ちなみに3日時点の東京都(1396万人)のコロナ死者は累計2222人だから、6282人に1人。聖市の15分の1にすぎない。

100万人あたりの死者数

 「100万人当たりの死者数」を比較すると、グラフにある通り、7月1日時点でブラジルは2446人、日本は116人で21分の1に過ぎない。ブラジルが上にグイグイと伸びているのに対して、日本はグラフの下にベタッと張り付いている。この差はどこからくるのか。
 恐ろしいのは、サンパウロ市の昨年1年間の死者は約1万7千人だが、今年は最初の5カ月間で1万5746人と、ほぼ近い数字になっていることだ。サンパウロ市市民の41%が抗体を得るまでの代償は、とてつもなく大きかったことが分かる。
 もしも、「自然感染による集団免疫」で80%に達するには、サンパウロ市だけであと3万人が亡くなる必要がある。そうなれば、約200人に1人、人口の0・5%がコロナで亡くなる計算だ。
 「人口の0・5%」をブラジル全体に適用すると106万人になる。現在のコロナ死者52万人が2倍にならないと、「自然感染による集団免疫」にはならない。
 一方、日本はワクチン接種を始めたのが世界でも最も遅い先進国だった。だがそれは、しなくても他先進国に比べて抑えられていたからだ。しっかりとマスク着用して社会的距離をとれば、ブラジルも15分の1に抑えることができたかもしれない。それなら、現在52万人の死者がわずか3万5千人で済んだ。

6月25日のコロナ禍議会調査委員会で証言する疫学専門家ペドロ・ハラル氏(Foto: Jefferson Rudy/Agência Senado)

 だから、6月25日のコロナ禍議会調査委員会で疫学専門家ペドロ・ハラル氏は《ブラジルは40万人のコロナ死を避けることができた》(https://br2pontos.com.br/nacional/pedro-halal-na-cpi-brasil-poderia-ter-evitado-400-mil-mortes-por-covid-epidemiologista-renomado/)と証言した。やりようによっては「40万人以上」が死ななくて済んだと専門家も証言している。
 逆に言えば、ブラジルはそれだけひどくても大規模な医療崩壊をせずに乗り越えてきたのに、日本はわずかな感染拡大で大騒ぎをしている。感染症の入院体制を有事に切り替えて臨機応変に対処できなかった点は、日本にとって大きな課題を残したといえる。

パンデミックで平均寿命が3・1年短縮

 6月29日付UOL記事《ネイチャー誌 ブラジル人の平均寿命が3・1年減少》(https://noticias.uol.com.br/saude/ultimas-noticias/redacao/2021/06/29/nature-com-covid-expectativa-de-vida-do-brasileiro-ja-diminuiu-31-anos.htm)によれば、昨年2020年だけでブラジル人の平均寿命は1・3年減り、今年は1・8年も短くなった。つまり、パンデミックが始まって以来、3・1年も平均寿命が短くなっている。
 これは科学雑誌「ネイチャー」に掲載された論文の内容だ。
 2019年の平均寿命は76・6年で前年より3カ月延びていた。当時、男性は73・1歳、女性は80・1歳だった。
 ところが2020年には男性が1・57年、女性が0・95年も短くなった。地域別に見るとアマゾナス州では3・46年、次にアマパー州3・18年、パラー州2・71年も短くなり、北伯でのダメージがいかに酷かったかが一目瞭然だ。
 同記事の締めくくりには、次のような厳しい未来予測が書かれている。
 《コロナはブラジルの基礎的医療サービスを止めてしまった。早期ガン発見などのサービスは35%の死亡率削減など達成していたが、コロナで悪影響を被った。特に北伯における貧困層の幼児への各種予防ワクチン接種も激減した。結核やHIV治療も中断されたケースが多く、今後5年間の死亡率上げることが予想される。
 パンデミック中に体を動かすことを止めたために糖尿病などのリスクが上がったこと、定期検診を受けなくなったことなどで持病を悪化させる可能性が高まっている》と、昨年来のパンデミック中の健康被害が、今後数年の間に徐々に出てくることを予想している。

社会と経済の再開がもたらす変化

 長い、長いトンネルの先に明かりが見えてきたことで、今後は経済、政治、教育、文化、社会など全ての面で変化が現れてくる。
 今後だんだんと社会が活動再開を始めていく中で、若者を中心に感染者数は増えていく可能性がある。だが、その人たちが重症化しないのであれば、入院する必要はないので、医療崩壊にはつながらない。
 今後は感染者数の増減に一喜一憂するのでなく、もっと入院者・重症者に注目する段階になったと言えそうだ。
 この流れの中で、サンパウロ市のリカルド・ヌネス市長は1日の記者会見で、年末のレベイロン、来年のカーニバル、大型音楽イベントなどの再開を示唆する発言をさっそくして話題を呼んでいる。
 明らかにパンデミックの潮目が変わってきている。ただし、現在のワクチンが効かない変異株が出てきたら、一からやり直しになるので、まだまだ注意は必要だ。
 注意しなくてはならないのは、パンデミック前と同じ状態に戻るわけではないことだ。

5月8日、アマゾナス州マナウス市で墓参りする人々(Fotos: Valdo Leao/Semcom)

 インターネット販売、デリバリー、ホームワークなどの労働様式、インターネットを通して自宅でオンラインイベントに参加したり映画などを見る娯楽形式、流感時のマスクや家で靴を脱ぐ習慣など、多くものが以前と同じ状態には戻らないと予想される。
 特に今後注意をすべきは、来年の選挙に向けて大統領に対する風当たりがさらに強くなりそうな点だ。大統領を直接巻き込んだコバクシン不正黙認疑惑が、罷免まで発展するのかどうか。国民はピポカ(ポップコーン)を片手に、CPIの様子をテレビ越しにじっくりと見ている。(深)