東京五輪=日本生まれの柔道ブラジル代表=エドアルド・ユージの挑戦=ポ語ゼロ、背水の陣で踏ん張る(下)

練習するユージ選手(左)

練習するユージ選手(左)

 「特につらかったのはSNSでのメッセージ。試合の為に乗るバスの集合場所連絡などもチームのグループメッセージに送られても何が書かれているのかさっぱりわからないので、今より性能が低い翻訳アプリで調べて迷いながら集合場所に行くなど…。ずっと言葉に集中しないといけない日々で大変でした。仲間にもブラジルらしいピアーダ(冗談話)を話せないことをよく馬鹿にされ悔しい思いをしました。でもそんな悔しさをバネに会話の勉強をしたので、今はもう大体の言葉は理解できて話もできます。逆に自分が仲間に冗談を言い返しますよ」と笑う。
 ブラジルのプロスポーツクラブに所属する選手はクラブから給料を毎月で貰うが、所属当初は薄給だという。大会で好成績を納めれば給料があがり、さらに代表メンバーになると別途国から補助金も受給される。
 また、メダルが有望視される選手を軍が支援する制度「Programa Atletas de Alto Rendimento (PAAR)」(高返益選手育成制度)にも選ばれた。3軍が分担して「三曹」待遇を有望選手に与え、月給の支給および軍スポーツ施設や医療制度の利用を許可する制度だ。軍の通常の訓練はスポーツ選手であることを考慮し年1回の合宿のみで免除される。
 同氏は14年から同クラブに所属。16年にはリオ五輪テスト大会優勝や17年パンアメリカ柔道選手権大会優勝、18年の世界軍人選手権大会優勝、19年パンアメリカン競技大会優勝などの好成績を

練習後、黙想するユージ選手(左から2番目)

練習後、黙想するユージ選手(左から2番目)

残している。
 「クラブチームに所属して1年目は給料が月400レアルのみ。当時は寮もなかったので、先輩と自分の5人で家を借りて家賃は一人当たり700レ。それに加えてサンパウロは生活費も高いし貯金もないので、父に一年だけ家賃の負担をお願いしました。『一年で結果が出なかったら日本に帰国する』と約束しましたよ。結果、1年後には無事良い成績を出し、昇給に加えて国からの補助金も支給されるようになりました。約6年たった現在は自立できるようになりました。まさに背水の陣でしたね」と語る。
 同クラブチームの柔道コーチはチアゴ・カミーロ氏とレアンドロ・ギレイロ氏。どちらも過去に五輪柔道で入賞した実績をもつ名選手であり名コーチだ。両者については「本当に尊敬している。スポーツは慣れに身を任せてしまう瞬間があるが、二人は常に最善の策を考えて指導していて本当に勉強になる」と尊敬している様子。
 6月13日にハンガリーで行われた国際柔道連盟(IJF)の「2021年世界柔道選手権ブダペスト大会」で世界ランキングが決定。東京五輪出場条件は世界ランキング18位内だが、18位にギリギリ入り出場が決定した。
 「選考試合が終わって五輪出場が決まりホッとしています。やっとスタート地点にたった気持ちです。目標はもちろん金メダル。そのためにも日頃の練習の成果を試合で出し切りたい。そして金を取ったら皆に見せて、自分の日本やブラジルでのこれまでの体験談を話したいです!」
 ユージ選手は「今まで辞めたいと思ったことは何度もあります。でもそのたびに両親や姉、家族、高校の先生の事が脳裏に浮かんで力がみなぎってきます。今回の五輪でもその人達の思いを背負って全力で頑張りたい。また次のパリ五輪にも出場して金メダルを狙いたいです」と力強く語った。(終り、淀貴彦記者)