特別寄稿=真相はさっぱり分からぬ藪の中=政界はコロナ禍ネタに攻防ショー=サンパウロ市在住 駒形 秀雄 

 世の中はコロナコロナでうっとうしい。その上お天とうさま迄そっぽを向いて寒い日が続くので、どうも気分が晴れません。
 日本あたり、もう少し明るい話はないものか、とNHKテレビをつけてみますが、ここ又、天気予報と過ぎた災害の話を繰り返すばかり。これでは中々前向きな明るい雰囲気が出てきません。
 それで今日は何とか気分転換でも出来ないかと最近のニュースの中で話題の中心となっているような「お話」を2、3ご紹介致します。

ハイチ大統領の銃撃死

 7月7日の明け方、ハイチ国の首都にある大統領公邸を厳重武装の一団が襲い、モイゼ大統領、53歳は12発の銃弾を受けて即死です。一緒に居た夫人は血塗れになりながら、何とか死を逃れ、その後、マイアミの病院で手当てを受けています。
 大統領はもう任期を終えて退任の筈だったのに、一体何のために? 計画立案と実行には相当の知力と資金力が必要だった筈なのに、どうゆうグループが? その答えは今日までありません。
 『ハイチって聞いたことはあるが、どんな国? 何処にあるんだっけ?』うろ覚え程度の皆さんにご報告致します。ハイチは米国の南方、カリブ海に浮かぶ島にあり、人口は1千百万人、世界でも相当貧しい国になります。
 一応【国】という風に分類はされているが、私共の頭にある「国」とは大分違って、その主な収益源は、
★「海外にいるハイチ人からの送金」
★「麻薬の取引」
★「人の誘拐」(身代金目当ての)だと言われています。
 そんな国民の大半はブラジルのファベーラの住民か、それ以下の生活水準にあります。議会は解散したままで、機能してなく、行政施策は大統領が独自に布告を出してやっている訳です。
 住民を守る軍隊や警察も十分ではなく、人の住む地域はギャングの親分がミリシア【私兵】を持って支配しています。なお、この島の東半分はドミニカ共和国で、戦後に日本人移民が入って大変な苦労をしたことで知られています。
 さて、今回大統領を暗殺したのはハイチ系米国籍2人、コロンビア人(元軍人)26人からなる一団といわれ、このうち3人は射殺、17人は逮捕され、他に8人が逃走中です。
 この様な重武装集団の編成、襲撃実行には相当の計画力、資金力が必要だった筈で、一寸したギャングの親分の力では手が出せない筈です。一体、誰が? どんな目的を持ってこれをやったのか? ハイチ国のこれからの行方も含めて、部外者には【さっぱり分からぬ藪の中】の話です。
 なお、ハイチの高校で「この国の将来に希望を持っている者、手を挙げて」と問うたら手は全く挙がらず、「将来の希望は?」との問いには、殆ど全員が「この国の外に出て働きたい」方に手を挙げていましたとの話です。何ともつらいお話です。

上院舞台のせめぎ合い

賄賂交渉の道具となったオックスフォード・アストラゼネカ・ワクチン(Tania Rego/Agencia Brasil)

 一方、現在ブラジル社会の目は「コロナ病について政府の対応に過ちはなかったか?」を審議、検証する上院の調査委員会(CPI)に注がれています。政府側は勿論自分の政策を擁護しますが、審議側は反政権の人が多く、「あんた達が手を拱いて居たからこんなに50何万人の生命が失われたのだ」の立場で検証しますから、そのやり取りは勢い熱を帯び、まるで喧嘩の様です。
 幾つかの例を挙げてみましょう。
(A)アストラゼネカ製のワクチンを保健省に売り込んだドミンゲッチ氏が証人として答えています。審議委員と種々やり取りしている中に、「保健省の偉い人から売り成約のための謝礼支払いを求められた」。更に聞くと「注文が欲しかったらワクチン1単位あたり1ドルが相場だ」と言われたというのです。
 これを聞いたCPI委員は色めき立ちました。今までは「効力もない薬を薦められた」「マスクをしない、密集も気にしない大統領」の失策程度で、華々しい見せ場も無かったのに、これはそのものズバリ、担当官庁、責任者からのプロピーナ(賄賂)要求です。

CPIで問題の録音音声を公開するドミンゲッチ氏

 「本当か! 誰がいつ、何処で!」「証拠はあるか!」とたたみこまれ、ドミンゲッチは言います。
 「政府側と売り手側が話している声の記録があります」自分のスマホ(ケイタイ)を開示しました。
 成程、売り手側(ダヴァチ社)と保健省幹部の声が聞こえます。しかし良く聞いて見ると「ワクチンを売る」とか「いくらで」とか肝心の所は触れられていません。
 別途、色々調べてみるとこの音声の源は関係者には違いないが、実は1年もまえの別の品物(手術用のゴム手袋)の売り込みの話なのです。時間が経過してこれが判明したことで、上院調査委員会のメンバーの怒りは心頭に発します。
 「お前はこの神聖な上院の場を何と心得ているんだ。真面目に長い時間を掛けて検証している議員たちは眼力もないウスノロと思ったのか。そんなカカシみたいな上議は此処には居ない」と、ドミンゲッチ氏のスマホは証拠として押収されました。
 後日調べたところによるとドミンゲッチ氏はミナス州に軍警として勤務しており、かたわらこの様なセールスも担当している人なのです。まあ、当地にはよくある成功報酬ベースのセールス孫請けでしょう。又ワクチンを売ると言ったダヴァチ社も米国本社のれっきとした医療関係商社ではあるが、ワクチンの取り扱いはないと判明しております。
 それにしてもドミンゲッチさん、どう考えてこんな対応をしたのでしょうか? あまり深い考えもなくセールスマンの調子の良さで、知っていることをそのまま話し、また、会社幹部から供与された音声をそのまま聞かせたのでしょうか。これも「さっぱり訳分からぬ話」です。

7日、CPIに召喚された賄賂交渉の中心人物とみられるジアス元保健省局長(左)。あまりに嘘が多いと逮捕することを話し合うCPIメンバー上議ら

(B)ブラジルがワクチンを必要としていると分かると、その売り込みも活発化します。インドのメーカのワクチン「COVAXIN」もその一つです。
 「インドは十何億もの人口を抱えて、コロナ病者も世界2位ほど居るのに、何でブラジルに迄売り込むのだろう?」と疑問を抱く人も居るでしょうが、兎に角、需要のあるところには売り込みに働く人が居る世の中です。
 途中のお話を省略して言うと、このインドワクチンは契約に成功して、政府の輸入局と売買契約を結んでおります。
 輸入に関する支払い金額は4500万ドル、決済は全額前払いです。この注文書(売買契約)は、「この薬品を使用、販売して良い」という監督官庁(ANVISAという)の認可が必要なのですが、この認可もない内にサイン、締結されています。
 しかも、この金額は政府の支払い予算に計上されている手際の良さです。支払い担当官は「送金まだか。早く払え」と関係者から圧力、催促を受けたとのことです。関係者が「外部からの雑音が入らぬうちにやっちまえ」と急いでいたことが感じられますね。
(C)ワクチン関係の取引では普通人の頭では「何だか訳の分からない」ような話が沢山あります。
★ダヴァチ社扱いのアストラゼニカワクチンは、以前1単位当たり10ドルと言っていたのに、成約した時には15ドル/1単位となっていました。「それでその差額は何処へ行くはずだったんだ」疑問は残ります。
 保健省幹部でこの特別口銭(くちせん、仲介手数料)に気付いた人が居ます。彼は肉親の代議士とともに大統領に会い、この事実を告げました。大統領は「うん、分かった。それは重大だ。警察に言って善処させよう」と言う風に返事したが、実際は何も起きなかったそうです。
 そんなこんなで訳の分からない藪の中の話は沢山あるのですが、挙げてたらキリがない、紙面もないのでこの辺で止めておきましょう。

守るも攻めるもブラジル人

 これら質疑、検証は各自の実利にも絡むので、熱気を帯びます。検証者、参考人や政府系議員は直ぐ近くに席があり、大声でドンドン発言します。進行の議長が「もう時間です。止めて」と言っても中々止めません。
 それで思い出すのは日本の国会委員会での審議です。日本では審議には議長が居て、いちいち「山本 太郎君」とか指名し、山本証人は離れた席から参考人席に出て来て答えます。まるで高等学校の裁判劇を見ているかの如くです。
 政府の答弁者はうっかり「失言」して後で問題にされるのが怖いので、事務係が作成したメモを見て慇懃丁寧に返事をします。
 しかし、その中味はあたりさわりのないことが多く、時には「記憶にありません」とかわされることもあり、観客(?)としてはあまり面白くありませんね。一方、ブラジルの審議はTV中継され、対立双方の攻防ショーが繰り広げられる、新事実も出てくる、皆元気ですね。

これからどうなる

入院した際にボルソナロ大統領本人がSNSにあげた写真(@jairbolsonaro)

 ブラジルではこの様に相手の弱点を突き、痛めつけるのを「FRITURA」と言います。フライパンに油をひき肉や野菜を「炒める」プロセスです。炒められる方はかないません。段々弱って遂には「焼き上がり」となるのです。
 上院CPIはボルソナロ政権に対し、このFRITURAを仕掛けていました。政権に対しての国民の非難が高まればインピーチメント (罷免)に持っていっても良いし、そこまで行かなくても、FRITURAを続けて大統領の人気を低下させれば、来年に行われる選挙で現勢力を落選させ、自陣が勝てるからです。
 事実、先週まではボルソナロさんの人気は低下して支持率は大体30%、反対にルーラ氏の人気が上がり50~60%となっていました。
 ところが政界は何時、何が起こるか分かりません。今月14日朝、突如ボルソナロ大統領の発病、入院が発表されました。急きょサンパウロの一流病院に搬送、検査、入院です。
 こうなると状況は変わります。元々ボルソナロさんは汚職撲滅を看板にして選ばれた人で、その風貌もシッカリした感じを与えます。一般の人々、ことに政治には関心の薄い女性の一部には「ボニート」と人気があります。
 それが急に病気になった訳で「可哀そうに!」「反対派があんまりいじめるもんだからストレスが昂じて病気になったんだわ」となります。
 同情人気が出て来て、「反ボルソナロ」が唱え難くなるかも知れません。病気で苦しんでいる人を悪く言い貶めると、言った人の方が嫌われます。
 国民の先頭に立ち、ガンバって来たボルソナロさん。早く病気を治して、国民の前に元気の姿を現わして下さい。(この文に関するご意見を歓迎します。こちらへどうぞ=> hhkomagata@gmail.com)