キノコ雑考=ブラジルに於けるキノコ栽培の史実とその背景=元JAIDO及びJICA 農水 産専門家 野澤 弘司(1)

露地栽培のアガリクスを収穫する農夫と野澤

露地栽培のアガリクスを収穫する農夫と野澤

 はじめに、これから記述する拙文は農業大国ブラジルに夢を馳せ、百十数年もの歳月をかけ
移り来て培われた我が同胞先達の偉大な業績に伴う移民史にあって、キノコ栽培は余りにも
小いさな存在の農業集団に過ぎません。
 しかしそこに生きた我々は日頃の勤勉と相互扶助や日本や台湾からの技術移転により、独
自にそれなりの経済効果、社会貢献, 雇用創出、数々の栽培技術を習得、蓄積して来ま
した。我々はこれ等の無形遺産を風化させる事無く精一杯生きた証を、その足跡をニッケイ紙
を介し次世代に継承される事を期待する次第であります。
 昨年11月当紙に連載された「移民の動機と最初の生業―異業種キノコ栽培への挑戦」な
る拙文は、ニッケイ新聞サイトにも掲載されるや、多くの読者諸賢と共にメキシコ、カナダ、パラグ
アイ、日本そして南太平洋の孤島、パラオやキリバスの日本公的機関に関与する知友から激
励や心和む読後感、キノコにまつわる様々な情報が寄せられ、インターネットの情報伝達の威
力を実感し、改めて皆様の同胞愛に深謝致す次第であります。
 また異国に在っても我が民族はキノコがもたらす姿形、風味、食感等の嗜好豊かな食文化
が醸し出す郷愁、そして半世紀もの昔々に癌や生活習慣病の特効薬としてサプリメント市場
を席巻したアガリクスの薬用効果は、時は経ても人々の脳裏に刻まれ、覚え継がれていた事も
知らされた次第です。この拙文は私がブラジルに移民して最初の生業となったキノコ栽培の集
大成としては少々大げさなので、仕事のけじめとしてキノコ栽培で見聞し体験した史実、心に
残るエピソード、諸外国にまつわる珍談奇談を次の趣旨をわきまえ記述したく思います。