キノコ雑考=ブラジルに於けるキノコ栽培の史実とその背景=元JAIDO及びJICA 農水産専門家 野澤 弘司 (2)

キノコ栽培の先駆者橋本、古本の先人とともに、1960年代初頭のサンタモニカ農場での同志集会。左から野澤、橋本、右三人目が古本

キノコ栽培の先駆者橋本、古本の先人とともに、1960年代初頭のサンタモニカ農場での同志集会。左から野澤、橋本、右三人目が古本

 1)ブラジルの1960年代以前のキノコ栽培の史実や技術的経緯を知るには、ブラジルのキノコ業界の発展に偉大な足跡を遺した古本隆寿(1916〜1987、宮崎高等農林専門学校卒)が橋本梧郎(1913〜2008、旧制静岡県立掛川中学校卒、植物分類学者)に請われて執筆し、1983年に日本の農水省熱帯農業研究センター刊行の熱帯農業技術叢書18号『ブラジルの野菜』の最終章(355〜376頁)に掲載された、菌類(Fungi) 担子類(Basidiomyetes)が現存する唯一の資料と思われる。
 しかし当叢書を閲覧可能な日系ブラジル在住者はごく限られているので、唯一の手掛かりとなる当叢書から主要事項を抜粋し、且つ、私は1961年以降2006年迄の約45年間、中南米での様々な兼業を重ねながら直接間接的にブラジルのマッシュルーム及びアガリクス栽培と流通にも携わっていた、往時の史実とその背景を知る数少ない存命者として、次世代へ伝承する語り部の役を文字に託したい。
 2)キノコ業界の諸般の史実を単に年代順に羅列するだけでなく、その史実に至る経緯や背景、即ち当時の社会情勢やキノコ業界の動向も考証し併記する。また私は移民して間もなく奇遇により古本との親交を得、キノコ栽培に関する直接口承で得た諸般の特記すべき事項は文末に(談)、年代と史実の背景については文頭に*)の記号で表示する。
3)日本の企業や個人がブラジルのキノコ業界の経緯や動向を自己本位に想定し史実、業績、年代を歪曲、捏造して刊行物やネットに掲載している由々しき実態を是正する参考にしたい。
 4)当寄稿文は一連の史実として集約してまとめるべく、過去に何某の刊行物やマスメデアに掲載され、報道された事項も資料としたが、何分にも浅学と加齢に免じて誤解や偏見はご容赦頂きたい。また文中、一部の重要事項は既述事項と云えど執拗にかられ、より詳細にしてより果敢な文脈に書き改め重複記載する事を了承いただきたい。