キノコ雑考=ブラジルに於けるキノコ栽培の史実とその背景=元JAIDO及びJICA 農水産専門家 野澤 弘司(4)

 使用後に回収されるプラスチックの再生リサイクルは僅か10%に過ぎず、約80%は埋立てか海洋投棄され、2050年には海に生息する魚の重量を上回ると試算されています。更に中国は 1992年には世界中から年間約1億600万トンもの廃却プラスチックを輸入しましたが、2017年からは輸入を禁止したので世界中の廃却プラスチックの処理やリサイクル状況は年毎に悪化の一途を辿り、今や世界的規模の社会問題に直面しています。
 プラスチックとはギリシャ語でPlastikos, 即ち「可塑性のある材料を型に入れて成形する」意です。廃却後に長期間分解が 不可能な石油由来のプラチックに対し、植物由来の生分解プラスチック(Biodegradable)は砂糖黍や玉蜀黍の不可食部を原料としたポリ乳酸(PLA)等は、酵素や微生物により低分子の二酸化炭素と水に分解されます。
 しかしゴミとしては残留しないが耐久性や機能性に問題があり、用途も 限定的ですが自然界との間を循環するプラスチック素材として既に実用化されています。

 一方 プラスチックによる環境汚染の低減に関する情報として、キノコの可食部でありキノコの繁殖に関与するキノコの胞子を作る子実体に、地球上の動植物系生態の遺骸や鉱物を分解し養分を供給して、生息領域の拡大を担う菌糸と共生する酵素や微生物が、プラスチックの分解や新たな生 分解性素材の生生に携わる菌類、キノコの神秘的な超能力が解明され実用化に至った事です。
 即ち、1934年ベルギーの植物学者により発見され、2017年にロンドンの王立植物園キューガーデンはプラスチックを分解するキノコ“Aspergillus tubingensis”がパキスタンの首都イスラマバードのゴミ処理場から採取され、根にある菌糸と共生する微生物と酵素により、ポリエステル系物質の分子間結合の分解能を公表しました。
 これに伴いイギリスの高級ブランド“Haeckels”はキノコの菌糸由来の生分解性プラスチックの新素材“Fine Mycelium”を開発しました。更にはフランスの“Hermes”も、キノコの菌糸を媒体とした人工レザーで独自の琥珀色の輝きと艶、繊細な触感の新素材“Sylvania”を相次いで開発しました。 
 これ等の素材は地中に廃棄するや生分解して6ヶ月後には土に還り、海藻を加えると肥沃土と化します。キノコの菌糸をベースとした植物由来のプラスチック素材の製造工程の概略は、農場、市場、食品工場から廃棄される外皮や芯その他の不可食部、脱穀殻、搾油粕、砂糖黍の絞粕のバカソ、紡績工場の綿屑らを滅菌した原料素材を培地として、菌類の成長に必要な栄養分を供給する菌糸を、我々のキノコ栽培と同様に菌床(タンク)の培地に植菌します。
 その後、菌糸は拡大培養されて密集したネットワークを張り巡らし、分解された組織から新規の素材が生生される究極のグリーン素材です。これより動物由来の皮革に替わるフアッショナブルな人工皮革のバッグやコート、ジャンパー等の衣服、履物、装飾品、そして化学繊維に替わる服地や、建材用の特殊レンガ、食用人工肉などに至るまで、石油や動物由来の製品に比べ、二酸化炭素等の環境負荷が低く、廉価で無限の廃却資材を原料とした高次加工の生分解性持続可能なキノコ由来の新素材が、近々世界の様々な業界で脚光を浴びると期待されます。