特集=援協高齢者施設感染対策の聞く=外出者が戻ったら2週間隔離=運動増やす「イペランジアホーム」=職員講習徹底の「あけぼのホーム」

 【日本政府支援事業「サンパウロ日伯援護協会」コロナ感染防止キャンペーン】サンパウロ日伯援護協会(税田パウロ清七会長)は2014年、福祉事業に特化した組織を構成するため「日伯福祉援護協会」を設立した。同協会傘下の4カ所の高齢者養護施設のうち、今回はスザノ市にある「イペランジアホーム」とグアルーリョス市の「あけぼのホーム」の新型コロナウイルス感染対策と、パンデミック(世界的大流行)以降の両ホームでの出来事と対応等についてそれぞれ関係者に取材した。

◆イペランジアホーム感染対策

イペランジアホームの作業療法士の佐野さんと三島施設長(提供写真)

 「パンデミックが始まった当初は、マスクや手袋、消毒用アルコールも高値で手に入りにくく、本当に大変でした」―。こう語るのは、1983年にサンパウロ州スザノ市に開設されたイペランジアホームの三島セルジオ施設長だ。幸いにもコロナに感染した入居者は誰一人としておらず、入居者たちは家族との面会が制限され、不安やストレスが募る中、職員とスタッフの献身的な介護と対応が功を奏したと言える。三島施設長と作業療法士の佐野ミチエリさんに、同ホームでの感染対策を聞くと、感染者ゼロの苦労と関係者への感謝の言葉が伝わってきた。
 比較的自立できている入居者が多い同ホームには今年8月現在、女性30人、男性9人の計39人の高齢者がおり、平均年齢は89歳で、最高齢者は103歳の男性。毎年3月の恒例行事となっているダリア祭りは昨年は何とか開催できたものの、サンパウロ州政府の感染対策に従って、それ以降のイベントはことごとく中止となった。
 また、それまで毎週実施されていた入居者と家族との面会もできなくなり、その代わりに今年5月からスカイプやワッツアップを使用したオンラインでの面会が実施されるようになった。そのため、対面で家族と会えないのは寂しいが、オンライン映像を通して話をすることで、入居者たちは家族への親しみをさらに深める結果にもつながっているようだ。
 一方、特別措置として入居者がどうしても外出しなければならない場合は、ホームに戻る際にPCR検査を行い、入居者とは離れた特別な部屋(2部屋)で2週間の隔離措置を義務付けている。隔離中も、5日後にはさらにPCR検査を行うなど、徹底した感染対策を取っているという。

◆施設内活動を増加

 入居者のストレスや不安を解消するため、ビンゴ大会や毎月の誕生日会のほか、体操も一日に3回行うなど、施設内でのレクリエーション活動を増やした。作業療法士の佐野さんによると、イベントを増やすことで入居者とのコミュニケーションをはかるとともに、日本やブラジルの祝祭日に合わせた「特別料理」の食事会も実施。
 今年2月の節分には「恵方(えほう)巻き」、3月には中止となったダリア祭りの代わりに「夏祭り」と称して職員らが浴衣を着用しての「そうめん流し」を行なったという。
 さらに、6月にはフェスタ・ジュニーナでブラジルの田舎料理を振る舞う中、魚釣りなどの遊びを取り入れ、「入居者の方々に良い意味での刺激となるイベント」(佐野さん)を考案、実践してきた。
 そのほか職員やスタッフの感染予防として自動車の洗浄機や農業用の噴霧器を改造し、昨年5月には人が全身入れるトンネル形の「消毒洗浄機」を独自に工夫して作り、導入しているそうだ。
 現在、ホームで働く職員数は38人。39人の入居者に対してほぼ「マンツーマン」で応対している。職員のユニホームも作業に入る前に毎日交換し、職員が帰宅した後に洗濯するなど、感染対策を実行。職員および入居者は今年2月、すでに全員がワクチン接種を行なっている。
 コロナ禍が続く中、JICA(国際協力機構)による助成金をはじめ、周辺地域からマスクや消毒液等の寄付があり、元JICAボランティアや歌手の中平マリコ氏からの応援メッセージが寄せられたことも、入居者や職員たちの心の支えになったという。

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◆感染者ゼロに感謝の気持ち

 三島施設長は「この約1年半のコロナ禍で、入居者の方々も悲しい表情になる方が増えました。そうしたストレスや不安を解消するためにどうすればいいかと皆で考え、本当に大変でした。でも、入居者の感染ゼロができたことが本当に良かった。これからも感染予防を続けていくことが一番大事なことだと思っています」と述べ、関係者への感謝の気持ちを表していた。

◆あけぼのホーム感染対策

 自立して日常生活を営めない、あるいは自立度が低い高齢者介護を目的とする特別養護老人施設「あけぼのホーム」では今年6月現在、女性35人、男性8人の計43人が入居している。平均年齢は88歳で、計73人の職員(うち23人は派遣職員)が日々対応している。
 同ホームに2008年から週2回、老人医学専門医として訪問している平塚マルセウ医師は、通常はUSP(サンパウロ大学)のクリニカス病院で高齢者の健康面の研究や医学生への指導を行なっているほか、自分の診療所でも活動している。
 同医師によると、高齢者の定義として日本など他の先進国は「65歳以上」が対象となっているが、ブラジルでは「60歳以上」とされており、「齢(とし)を取るごとに病気の発生が多くなり、そのための予防を行うこと」が老人医学の基本方針だという。

◆「密状態」の回避

 あけぼのホームでは、昨年3月のパンデミック発生以降、「密状態」を避けるために入居者を最大5人のグループに分けた。また、家族との対面での面会が中止された中、理学療法士の指導等によってコロナ以前よりも入居者の運動量を増やすことを実践している。
 具体的には、テレビゲームを使用して入居者が画面を見ながら一緒に体を動かしたり、ボールを使用しての運動、ダンスや音楽療法、マージャンによる指・頭の体操や、入居者自身が肉マンやパンなど簡単な軽食を作って食べるなど、楽しみながらできる活動を行っている。
 昨年7月頃には家族にも協力を仰ぎ、8千羽の折鶴も作ったほか、日本とブラジルの文化にちなんだ運動会、餅つき、七夕、フェスタ・ジュニーナ(6月祭)等の施設内行事も実施している。
 平塚医師は、「あけぼのホームの入居者は他の施設と比べて、自立ができず複数の病気を持っている人が多いので、新型コロナウイルスに感染した場合、重症化しやすい。そのための予防をしっかりとし、入居者に直接対応する職員やスタッフにも消毒やマスク着用(N95微粒子用マスク使用)などを徹底させている」と同ホームでの感染対策を説明する。
 入居者と家族の面会は現在、主にオンライン通話で行われているが、家族や入居者の希望に沿って誕生日など特別な日には施設の窓越しでの面会も時々、あるそうだ。

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◆5人の感染も隔離で回復

あけぼのホームで活動する平塚医師(提供写真)

 そうした中、同ホームで入居者が感染したケースが5件あったという。最初は昨年5月ごろ、周辺地域のSUS(統一医療システム)病院でたまたま診察を受けた入居者の感染が判明。同時期にロータリークラブのキャンペーンで入居者と職員全員に行われたPCR検査により、3人の入居者の陽性反応が見つかり、すぐさま同施設内の特別部屋に隔離したが、当初は3人とも無症状だったという。さらに、翌6月ごろに5人目の入居者の感染が見つかり、隔離措置によって結局、5人全員が回復し、現在は問題なく日常生活を続けているそうだ。

◆大切なワクチン接種

 平塚医師はあけぼのホーム内での感染対策として「外部との接触を極力避けること」「職員およびスタッフのN95マスクの使用」を挙げる。また、消毒液設置場所の増加のほか、消毒専用の特別スタッフを雇用して入居者が触れることが多い手すり、ドアノブや電気スイッチの箇所を払拭することを徹底している。
 特に、職員とスタッフについてはパンデミック当初、感染予防対策を毎週の講習で指導し、慣れるに従って15日ごとの講習に切り替えてきたという。
 平塚医師は「一番大切なのはやはり、ワクチンの予防接種。入居者や職員にはちょっとした症状でもすぐにPCR検査を行い、陽性反応が出た時には隔離措置を行うことが必要」と強調した。

内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室特設サイト(https://corona.go.jp/proposal/)より転載