《ブラジル》大統領が急転直下、最高裁判事に謝罪=テメル前大統領の仲介で=前日急騰のドルは急落=議会は不信、支持者は不満

ボルソナロ大統領(Fabio Rodrigues Pozzebom)

 9日、ボルソナロ大統領はこれまでの最高裁に対する対決姿勢を急転して取り下げ、7日に「命令には従わない」と批判したばかりのアレッシャンドレ・デ・モラエス判事と和解した。この背後にはテメル前大統領の助言があった。9、10日付現地紙、サイトが報じている。

 ボルソナロ大統領は9日、モラエス判事に直接電話をかけて謝罪した上で、公式に声明を発表した。大統領はその声明で、「三権を脅かす気などなかった」「これまでのことはモラエス判事のフェイクニュースの捜査に関する見解の相違で起こったことだが、その判断を、伯人の人生や経済をも脅かす形で攻撃する権利は誰にもない」などとつづった。
 大統領は、自身の支持者をネット上での過激な言動をもとに逮捕したモラエス判事に対する罷免請求を上院に自ら提出し、7日の独立記念日の抗議行動の際も、「彼の命令には絶対に従わない」と宣言。7日には選挙方式との関連でルイス・ロベルト・バローゾ選挙高裁長官を批判しているし、8日にはルイス・フクス最高裁長官を脅迫するかの発言も行っていた。
 今回のボルソナロ氏のこの謝罪行動の背後にはテメル前大統領の存在がある。ボルソナロ氏は8日にテメル氏と連絡を取り、9日朝、大統領専用機でテメル氏を迎えに行かせた。二人はブラジリアで昼食を共にし、現在の政治危機(三権間の不調和)について約4時間話し合った。
 ボルソナロ大統領はこの間、テメル氏の仲介でモラエス判事に電話をかけている。同判事はテメル政権時代の法相で、2017年にはテメル氏の指名で最高裁判事に就任していた。
 また、声明文もテメル氏のマーケティング担当のエウシーニョ・モウコ氏が共同で書いたものとされている。

 このボルソナロ氏の声明後、9日の為替市場では1ドルが5・3276レアルから5・2233レアルに下がった。7日の抗議行動を受けた翌8日は、ドルが2・93%急騰した一方で、株式市場が4%近く暴落。大統領の行為が問題視されていた。株式市場は9日に1・72%高を記録したが、10日は再び下落傾向を示している。
 この声明後は連邦議会や最高裁でも反応が起こったが、その反応は温かいものではない。アルトゥール・リラ下院議長は、「憲法は不可侵ということだ」と発言し、「来年の10月3日は従来通りの電子投票で行われる」と、ボルソナロ氏が導入を求めて抵抗し続けていた「印刷付き電子投票」が行われないことを強調した。
 またロドリゴ・パシェコ上院議長も、「経済や電力の問題が山積みの今、独裁政治では解決にならない」と大統領を批判した。パシェコ議長は7日の抗議行動後、上院の委員会や本会議をすべてキャンセルしていた。
 さらに、モラエス判事と共に大統領の攻撃対象となっていた選挙高裁長官でもある最高裁のバローゾ判事も、「これまでの選挙に不正があったと嘘をつき続けるのに疲れたのだろう」と語っている。同判事は9日、ボルソナロ氏の声明に先立ち、「2023年1月には民主的な選挙で選ばれた大統領が就任する」という表現で、選挙差し止めなどの脅しをかけていた大統領への反論も行っていた。最高裁判事たちは10日も、従来通りの姿勢を保つ意向を表明している。
 一方、ボルソナロ氏の声明は支持者たちを怒らせた。大統領派議員の代表格のカルラ・ザンベッリ下議は、「セルジオ・モロ氏が法相辞任したときと同じくらい腹が立っている」と発言。虚報サイト「テルサ・リーヴリ」のジャーナリストでモラエス判事の捜査対象となっているアラン・ドス・サントス氏も、「ゲームオーバーだ」と投げやりな発言を行っている。
 また、8~9日にトラックストを呼びかけた運転手のリーダーたちも、大統領への失望感を表明している。