50年ぶりの祖国で〝浦島太郎〟(5)=サンパウロ市 広橋勝造=懐かしの兄姉と感動(?)の再会

 わぁ~、大きく、綺麗になった博多駅。ふるさとの駅は、数十年見ないうちにすっかり様変わりしていた。
 兄と姉からは、駅に迎えに来ると連絡を受けていた。
 「懐かしいなー、涙を流さない様にしよう」と思って、ドキドキしながらホームに出た。
 「あっ、いた!」優しい兄貴と、もっと優しい姉ちゃんだ!
 最初の一言はどう言おうかと、どぎまぎと思案するうちに兄貴が来た。
兄貴「おい、カッツオー(俺の名前は“勝造”である)」と懐かしさとは少し違うニュアンスで、俺の名前を読んだ。
 そして、少し遠慮がちに、いきなり「その背広脱いでくれんか」
 感動の再会の場面を期待していた俺は、「…どうして?」
 兄貴が周りを気にしながら、「その白い背広バッテンが、どうしても893さんに見えるとバイ」と気まずそうに言った。
 暑いブラジルから来た俺、普段背広を着ない習慣で、俺が持っている中で一番カッコいい白い背広を着こなして、颯爽とホームに降り、映画の主人公になった様だと思っていたのに…。
 兄貴には、俺の服装がみすぼらしく哀れに見えたのだ。これが本当のカルチャーショックだ。
 そう言えば、空いてる車両に座っていると、車掌が俺の切符を見てから「この車両はグリーン車です」と注意してきたことを思い出した。
 そのとき、俺は「でも、他は満員で座れないで…」と応答した。
 数秒考えた車掌は、「いや、そのまま博多までいいです」と言ってくれた。あれは、もしかして、俺が893風だったからか…。