《ブラジル》サンパウロ州検察局がプレベンチ・セニオル捜査へ=許可なし治験で死因偽証=マンデッタは昨年3月に警鐘=疑惑指摘も解任された原因?

マンデッタ氏(Fabio Rodrigues Pozzebom/Agencia Brasil)

 臨床試験に必要な国家研究倫理委員会(Conep)の許可もなく治験を行った上、死者のカルテなどの記録を改ざんしていた疑いで、サンパウロ市の大手医療保険会社「プレベンチ・セニオル」がサンパウロ州検察局の捜査対象となることが必至となっている。また、プレベンチの疑惑に関して、ルイス・エンリケ・マンデッタ元保健相が、昨年の3月末の時点で疑問視していたことも明らかになった。23、24日付現地紙、サイトが報じている。
 22日に行われた上院のコロナ禍議会調査委員会(CPI)に召喚されたプレベンチの役員で医師のペドロ・バチスタ・ジュニオル氏は、治験の疑惑を否定しつつも、治験で亡くなったことを疑われている患者に関して、死亡診断結果を改ざんした可能性をほのめかすなど、物議をかもす内容で証言を終えた。
 これを受け、CPIのレナン・カリェイロス報告官は、バチスタ氏を正式にCPIの捜査対象に加えると共に、プレベンチの現・元医師たちが作成した文書をサンパウロ州検察局に提出する意向を固めている。
 CPIの作成する調査報告書は、プレベンチの勤務医、元勤務医たちが同社傘下の病院で行われていた不正を告発した文書やCPIでの証言、CPIが独自に調査した内容を統括したもので、先日行われたプレシーザ社の家宅捜査で押収された文書の精査なども行うと、10月にしか提出できない。
 このため、レナン氏は、プレベンチ関連の不正を告発した書類だけを、サンパウロ州検察局に送付する意向だ。その書類の中では、連邦政府とプレベンチが合意の上で治験を実施したことや、クロロキンを含む、早期治療用「Kit―Covid」の医薬品の拡散が行われことが記されている。

 一方でサンパウロ州検察局も23日、プレベンチの疑惑解明を目的とした特捜班を作り始めている。すでに4人の検察官が任命され、コロナウイルスへの有効性が証明されないままに行われていた、ヒドロキシクロロキンを含むKitの医薬品投与と、同社傘下の病院で亡くなった9人(うち7人は死亡記録を改ざんされ、死が隠匿されていた)の経過などを調べ、効用が証明されていない医薬品を人体実験の形で投与したことが殺人罪にあたるか否かを含めた捜査を進める準備に入っている。
 さらに23日、ルイス・エンリケ・マンデッタ元保健相はSNSを通じて、自身が保健相の時代にプレベンチの行動を問題視する発言を行っていたビデオを、「私はすでに警告していた」と称して拡散した。
 それは昨年3月31日、マンデッタ氏が大統領府で行った会見の映像だった。この中でマンデッタ氏は、プレベンチの拠点の病院であるサンパウロ市のサンクタ・マジオーレ病院のことを激しく批判している。同氏は同病院での高齢者の死亡率が極めて高いことを指摘し、同病院の運営に介入する可能性も示唆していた。
 マンデッタ氏はそれから16日後の4月16日に、クロロキンによるコロナウイルスの早期治療を含む、ボルソナロ大統領の意向にそわないことを理由に、保健相を解任されている。また、連邦医師審議会(CFM)は同日、クロロキンをコロナ感染者に処方することを是とする意見書を出している。また、マンデッタ氏の後任として当時名前が挙がっていた人物のひとりは、プレベンチ疑惑への関与が強く囁かれ、「影の委員会」のメンバーともされているニーゼ・ヤマグチ医師だった。
 さらにこの2日後の4月18日、ボルソナロ大統領はプレベンチからの治験結果を「朗報」として拡散している。
 なお、連邦検察庁サンパウロ州支部は既に、プレベンチに関連する疑惑に関し、3件の捜査を行っている。その一つは、昨年12月に開始された、ヒドロキシクロロキンを使った違法な治験に関するもので、残る2件は消費者の権利に関する嫌疑についてのものだという。