特集 関係者が一丸となって地道な活動=援協傘下高齢施設の対策聞く=内部活動を活発化させた厚生ホーム=ハグカーテンで絆温めたさくらホーム=日伯福祉援護協会傘下施設の感染対策

 【日本政府支援事業「サンパウロ日伯援護協会」コロナ感染防止キャンペーン】日伯福祉援護協会傘下の4カ所の高齢者養護施設のうち、今回は残り2カ所の「サントス厚生ホーム」と「さくらホーム」の感染対策について、両施設長に話を聞いた。両施設とも新型コロナウイルスの影響で入居者の一部が感染し、一時は厳しい状況に追い込まれたこともあった。しかし、徹底した感染対策とコロナ禍で得た教訓の実践により、その後の感染者は出ておらず、関係者が一丸となって地道な活動を続けている。「日伯福祉援護協会」はサンパウロ日伯援護協会から福祉部門だけを独立させた団体。

サントス厚生ホーム感染対策

パンデミック当初に陽性者

厚生ホームの青木施設長(提供写真)

 サントス厚生ホームには今年6月現在で、女性35人、男性17人の計52人が入居する。平均年齢は88歳、入居者の95%がほぼ自立して生活している状態だ。応対する職員は派遣スタッフも含めて51人。同ホームもマンツーマンでの対応を行なっている。
 青木スエリ施設長によると、昨年3月から6月までのパンデミック当初は、入居者と職員も含めてコロナ陽性反応者が複数いたという。
 たとえば昨年3月頃には、約10年にわたって入居していた96歳の日系二世の女性が「風邪の症状だと思っていたら、コロナに感染していた」(青木施設長)と分かった。その女性はすぐサントス市内のSUS(統一医療システム)病院に運ばれ、一旦は回復して退院できた。だが、その後に心筋梗塞(こうそく)で亡くなったという。
 同ホームでは入居者の感染が発覚後、5階建てのホーム全体を消毒して清掃。4階部分を「隔離室」に充(あ)て、入居者と職員のマスク使用を徹底させた。さらに、パンデミック前は泊り込みで仕事をしていた職員を日帰りで帰らせたり、スタッフの作業服も毎回着替えるようにさせた。

ドライブスルーでの行事実施

 毎年開催していたフェスタ・ジュニーナ(6月祭)など、外部からの参加者も含めたイベントを中止にした。その代わりにデリバリー(配達)およびドライブスルー形式の「慈善焼きそば」や「フェイジョアーダ」を実施し、250~300食を販売した。
 その際には青木施設長自ら配達するなど、職員とボランティアが一体となってコロナ禍での活動を盛り上げた。
 青木施設長は「ボランティアの方々も高齢者が多く、デリバリー形式のイベントでも密を避けるよう少人数で行なっていました。さらに、外部から焼きそばやフェイジョアーダを取りに来てもらう時にはホームの敷地外でやりとりするなど、感染対策を徹底しました」と強調する。

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ホーム内活動を活発化

 外部と接触する対面での活動ができない分、理学療法士の指導によるラジオ体操やレクリエーション等、入居者のホーム内での活動を活発化。パンデミック前は月1回だったホーム内での映画鑑賞会も週1回に増やし、映画鑑賞会ができない場合は室内ゲームを行うなど、入居者への配慮を実践してきた。
 そのほか、食事の際はそれまで5、6人が一緒にテーブルに座っていたが、パンデミック以降は2人ずつに分け、時間差で入居者が入れ替わり食事を摂るようにしたという。
 以前は入居者が自ら取りにいっていた食事も、現在は職員が配膳している。食事後は掃除専門のスタッフがマスク、フェイスシールドを着用して消毒作業を行い、作業後にマスク、シールドは廃棄している。廊下、エレベーター内など入居者が触れることが多い手すり、ドアノブなどを特に入念に消毒している。
 その成果もあり、昨年6月以降は感染者が一人も出ておらず、最近では今年9月初旬に入居者および職員全員がPCR検査を受けたところ、全員が陰性という好結果に至っている。

各方面からの協力に感謝

 入居者家族、ボランティアや近隣住民をはじめ、JICA(国際協力機構)などからの消毒用アルコール、マスクの寄贈があったことも大きかったと感謝の気持ちを語る青木施設長。
 「パンデミック当初は新型コロナウイルスについての何の知識も経験もなかったのですが、援協や日伯友好病院の皆様のご協力や、ボランティアのご支援のお陰で乗り越えることができました。今後も入居者をはじめ、職員や自分自身も守っていくことが本当に大切だと思っています」と、これまでの教訓を生かしていく考えだ。

さくらホーム感染対策

面会謝絶など対策を徹底

さくらホームの原施設長(提供写真)

 サンパウロ州の観光地カンポス・ド・ジョルドン市にあり、1999年にそれまでの結核患者療養所から長期介護施設に運営内容を変更した「さくらホーム」。
 今年9月現在、自立あるいは自立度が高い高齢者27人(女性15人、男性12人)が入居している。平均年齢は83歳。職員数は派遣社員(9人)も含めて33人で応対している。
 同ホームの原マリコ施設長によると、パンデミック当初、職員には消毒液の使用、N95微粒子マスクと白い衛生用の服装の着用や、入居者とのソーシャル・ディスタンスも取り、外部からの面会も謝絶するなど徹底した感染対策を行なってきたという。
 職員やスタッフに対するマスク着用、消毒液使用の指導も併せて実施してきた。同ホームではパンデミック以前にも通常の風邪が流行していた時があり、マスクや消毒液のストックがすでに十分あったそうだ。

市を通じた助成金で備品調達

 カンポス・ド・ジョルドン市を通じたサンパウロ州保健局への申請により、昨年5月から今年11月までの期間、毎月2万2千レアルの助成金が下りており、助成金によってマスク、消毒液のほか、清掃用品や食料などを調達しているという。
 それでも新型コロナウイルスの猛威は大きな影響を及ぼし、昨年3月のパンデミック発生時期から今年2月までの約1年間で11人の入居者がコロナに感染した。うち、5人は無症状でその後に全員回復した。
 だが、今年2月に肺病と糖尿病を患っていた85歳の二世男性入居者の感染が判明。当初は無症状だったが、急激に体調が悪化し、地元の病院に移送された後に亡くなったという。同ホームでは、それまで以上の感染対策を行なってきたことで、今年2月以降の感染者は一人も出ていないそうだ。

喜ばれた「ハグカーテン」

 パンデミック以降、家族との対面での接触ができなくなった入居者はストレスがたまり、中には鬱(うつ)症状となる入居者も出るようになった。同ホームでは、医師をはじめ、看護師や理学療法士などから構成される「マルチ・グループ」が中心となり、昨年4月にビニール製のカーテン越しに入居者と家族が抱擁できる「ハグカーテン」を考案した。
 翌5月から希望者の予約を募り、一日に2家族のみの制限を設けた上で「ハグカーテン」を実践。入居者の半分ほどが実際に体験済みだ。
 「鬱病だった入居者を何とか助けたいとの思いで始めたのです。その入居者は、娘さんやお孫さんにハグカーテンを通して実際に会えたことで、すごく喜びました。我々職員もその家族の姿を見て、続けてやらなければと思い、希望者があるごとに続けて来ました」と原施設長は、同案を実施した経緯を説明する。
 ハグカーテンは今年7月まで継続されたが、その後は感染者が出ていないことから、完全なソーシャル・ディスタンスを保った上で、入居者と家族との対面での面会が認められようになった。その際も外部からの来訪者には、服や靴などすべての消毒を実践しているという。

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花見で「さくら園」開放

 他の施設同様、コロナ禍によって各種レクリエーションやゲーム、体操など入居者の施設内での活動も増加。昨年12月のクリスマスには入居者に対して、家族や友人からのメッセージをビデオをつないで贈ったという。
 外部と接触する対外イベントはすべて中止されていたが、今年7月から9月にはホーム敷地内にある「さくら園」を一般に開放。桜の「花見」だけを目的として園内での飲食は禁止されたが、その前月の今年6月には入居者と家族が会える絶好の機会として、一般に先駆けて「さくら園」での面会(ソーシャル・ディスタンス、消毒などを徹底)も実現させた。

マスク着用の大切さ

 原施設長はコロナ禍での感染対策を振り返り、「とにかく、マスク着用の大切さを実感しました。マスク着用によってコロナだけでなく、風邪やその他の病気も減りました。特に職員から入居者への感染もほぼゼロとなり、今後も続けていきたいと思います」と強調する。
 さらに「もう一つ良かったのは、ビデオ等を通じた入居者と家族との通話でした。入居者は80代、90代の高齢者が多く、最初はビデオでの通話をぎこちなく思っていた人もいましたが、今ではすっかり慣れて評判もすごく良いので、今後も対面とともに続けていくつもりです」と話している。