コロナ禍越えサービス向上図る=サンタクルス日本病院感染対策=一般患者と動線を完全区分=日本政府やJICAの支援受け

開院82周年式典にて病院名の改名を発表(提供写真)

 4月29日の第82回創立記念日を機に改名した「サンタクルス日本病院」(佐藤マリオ理事長)。同病院でも新型コロナウイルスの影響を受けたが、コロナ患者と一般患者の動線を完全に分けることで、徹底した感染対策措置を行なってきた。一方、日本政府から約3億円におよぶ資金援助を受け、来年3月には病院内に「がんセンター」の開設を予定している。国内トップレベルの病院を目指すとともに、開院当初の日本移民のシンボルとしての思いを取り戻し、さらなる医療サービスの向上を図っていく考えだ。

コロナ患者との動線の分離

 コロナ感染対策と今後の病院の動向について、渉外広報部長の柳澤智洋(ともひろ)氏と、昨年1月に病院長に就任した辻マルセロ氏に話を聞いた。
 両氏によるとサンタクルス日本病院では、コロナ患者は一般患者との動線を完全に分けることで、徹底した感染対策に取り組んできたという。同病院内のブラジル式2階部分にはコロナ患者専用の病棟とICU(集中治療室)があり、コロナ患者と一般患者が混在することなく、外部からの訪問も制限されている。
 また、これらの対策に加えて医療従事者への日常的な防護対策や、検査も実施。少しでもコロナ感染の疑いがあれば、すぐさまPCR検査を行い、検査結果が出るまで自宅待機をするよう徹底している。
 6階建ての同病院のベッド数は全部で170床あり、一般患者用が140床。残り30床はICU用として、10床ずつ3部屋に分けており、そのうちの1部屋(10床)をコロナ患者専用に使用している。手術室は、一般用としてブラジル式5階の手術センターに9部屋、ブラジル式4階にコロナ患者に対応した外来手術室4部屋があり、すべての疾病に対応できるシステムを取っている。
 同病院に所属する医師数は300人で、そのうち感染専門医は3人。職員数も1300人と多く、うち600人が看護師として勤務し、3交代24時間体制で対応している。コロナ患者専門の対応チームは2チームあり、体外式膜型人工肺(ECMO)も3台整備されているという。
 2020年3月のパンデミック以降、同病院で今年9月までの約1年半でコロナ患者およびコロナ感染疑いのある患者の応対数は2万9417人。うち、1431人がコロナ患者として入院した。患者の症状は咳(せき)や熱、呼吸がしにくいことなどがあり、軽症では鼻水が出るなど風邪に似た症状が特徴的。特に高齢者は倦怠(けんたい)感や息切れの症状も目立ったという。

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一般患者が半減

辻病院長(左)と柳澤渉外広報部長(提供写真)

 同病院ではコロナ以前の2019年には、一般患者が月に6千人おり、うち1300人が手術を受けていた。それが、パンデミック以降は新型コロナウイルスへの恐れから、一般患者は2500~3千人、手術者も600人とそれぞれ約半数に減少した。今年3月初旬頃にコロナの第2波のピークがあり、一日で救急外来に受け入れたコロナ疑いの患者は130人を超えた。
 パンデミック当初、前述のように一般患者が半減したことで病院の利益も減少。支出は変わらない中で、防護服などの医療必需品については業者が通常の10倍の値段を付けるなど、病院運営は困難を極めたという。

各方面からの寄付協力

がんセンター完成予想図(提供写真)

 そうした中で、日本政府はJICAを通じて「がんセンター」開設を目的に約3億円の助成金交付を決定。また、三井物産、JICA、宮坂国人基金からの資金協力により、手術室4室のコロナ患者対策用リフォーム(改築)が実現した。
 さらに、日本政府の「草の根・人間の安全保障無償資金協力」により、在サンパウロ日本国総領事館を通じて4台の人工呼吸器も供与され、多くの患者の命を救うことができたそうだ。そのほか、JICAからは防護服1500着、マスク1千枚も寄贈されている。

筑波大との意見交換

 一方、学術交流をしている茨城県の筑波大学とは、新型コロナウイルスに関する意見交換を実施した。昨年11月半ばと今年3月初旬には、同病院の医療分野の研究強化を目的に昨年発足したサンタクルス日本病院学術研究所(IPESC、西国幸四郎理事長)と筑波大学病院が主催したコロナ関連のオンラインセミナーを開催。今年11月には、筑波大学主催による第2回筑波会議への参加も予定されており、今後も継続していく考えだ。
 さらに、今年3月の佐藤理事長就任以降、各課の課長クラスやコーディネーターなど各部署のリーダーたちを集めたコミュニケーション能力を向上するトレーニングも並行して実施されたという。同トレーニングは日本の「ほう(報告)・れん(連絡)・そう(相談)」方式を導入し、「人材育成の大切さ」を重要視してきた前理事長・石川レナト氏の意志を佐藤理事長が継続させている。

名称変更で病院改革

 今後の同病院の方向性について辻病院長は、「サンタクルス病院は元々、『日本病院』と呼ばれ、日本人移住者のシンボル的な存在だった。コロナ禍による苦しい時期を日本との関係によって持ちこたえることで、『がんセンター』の開設など、石川前理事長がやりたかった事業を若い佐藤理事長が形にしていってくれると願っている。それらによって、今まで以上の医療サービスを築いていければ」と、思いを語る。
 実際、今年4月に「サンタクルス日本病院」に改名したことで、日系人の患者も増加したという。また、来年3月の「がんセンター」開設にあたり、優秀な医師やスタッフを新たに雇い入れた。同病院は、1939年に「日本病院」として開設された当時、ブラジルで初のレントゲン機材を導入したことで「南米で最も先進的な病院」と称賛された経緯があり、新がんセンターの設立によって「創設当初の伝統を取り戻したい」との思いがあるそうだ。
 渉外広報部長の柳澤氏は、「現在の立場は『がんセンター』を立ち上げるための本部長でもあり、新しいものをつくる責任も重大だが、それ以上に充実感とやりがいもある。名称の変更によって病院を改革し、経営を強化していくことと、コロナに打ち勝ちながら未来に向けた新しい事業をスタッフ全員でつくっていきたい」と意気込みを表していた。


新ロゴマークも新調

ロゴマーク

 「サンタクルス日本病院」への改名と共に、病院のロゴマークも新調された。新ロゴマークは、バランスと調和、希望、健康、活力などを表わす深緑(ふかみどり)を基調とし、日本の家紋を想起させるものを考案。
 日本とブラジル、病院と患者の絆を大切にしたいとの思いから、 「水引(みずひき)」から着想を得て、日本人移住者が昔から、桜の花によく似たブラジル国花イペーの花を見て、故郷に想いを馳せたことにちなみ、桜の花びらの模様を描いている。