繁田一家の残党=ハナブサ アキラ=(3)

 話題は、もっぱら女の話で「おま××」と言う言葉が何回とび出すことやら。
 女子社員が聞いたら、おやじも我々寮生も馬鹿にはされなくても信頼されへんのんは明白や。
 ネクタイはじめ靴下や下着まで共有となり、同じ釜の飯を食う仲間の連帯感は高まったが、いんきんが寮中に蔓延し大騒ぎとなった。
 2階の個室でパーコレーターでコーヒを嗜む潔癖な永岡は、「肌着や靴下の共用だけは勘弁してください」と辞退しよった。
 こんな型破りの寮生活ゆえ、未成年の高校新卒者は独身でも入寮できない。
 工業学校を出て入社してきた船津は、会社では会議中に頬を肘立てて、ぽか~んとしてた。おやじに出身校を訊かれて返事は「デンパッ」、そのような質問には「福岡電波高校です」と答えるのが普通の男や。
「ありゃ、いかれぽんちやで」と、おやじに「ポンチ」と云う渾名をつけられよった。ポンチのやつ、女子社員に「その渾名を逆さまに読んで呼んでくれ」といわっしゃる。ほんに、まあ並みの男ではありまへんな。
 ポンチの同期の万善は「でんすけ」、高倉は「ジェットの鷹」何しろ手が早い、バーの女でも街で知り合った女でも、その日のうちにセックスしてしまう千人斬りが人生の目標。
「さわりの仁科」おさわり専門の色魔ではない、ラグビー試合でボールに触りに行くだけのプレー振り。
 仁科と同期入社の稲積は、運転中に前の車に衝突したので「おかま」。
 はんこを押すだけで仕事は何もせん支店長付の市村は「座頭市」、営業課長の石井は「はったりの石」、サービス課長の南川は「とらふぐ」、釘本は「達磨」、宮森は「もっともの宮」、ワイは「おとぼけのハナさん」。
 超ど級の一物を持つ大津は「巻き寿司」、風呂の長い室園は「ふんどしの川流れ」風呂の中でマスかくこと三こすり半。新入社員で遠慮勝ちに何時も茶の間の端に座る伊藤は「定位置」、運転手の関さんは「夜這いの正ちゃん」。
 くりっとした眼の可愛い島田幾代嬢は「はじき豆」、後でポンチの妻になる小柄の入江は「じゃこ」、女子高を出たばかり将来の美人・内野は「横綱」、助平の田中は「赤鼻」、チキンラーメンのコマーシャルそっくりの福富は「ラーメン」。
 四国でもサービス課長の井上さんは「蛍光灯」。いきなり笑い出すので、何かと思ったら「昨日のしゃれが今解りました」と、一人納得しとったらしい。

 おやじが一人静かに飲む西中洲の老舗バー「梟」のホステスの亭主が、長唄の師匠で寮生は毎週一回長唄を習わされ、ゆかた会で松の緑や小鍛冶の、おさらいをした。
 このバーのマスターは関取の後援をしており九州場所では、おやじが砂被りで観戦中テレビに映し出された。みんなで「おやじがテレビに映ってましたよ」と云ったら「なんじゃい、おまえらも仕事さぼってテレビ観てたんか」。
 親分さぼれば子分もさぼる、やぶ蛇どころかそれを隠さんのが繁田一家や。
 内勤の連中も、結びの一番だけは観戦してたらしい。少々のことは大目にみるところは、さすがおやじや。器が大きい。