特別寄稿=ボケ予防手段としての金融投資=じっくり楽しもうマネーゲーム=サンパウロ市在住 元週刊 FAXニュース代表 永井 忍=高インフレと利上げで先行き悪化=(10)

 さてブラジルは今、政治面では大統領が選挙戦向けに財政的ポピュリズム路線を明白に押し出して政治的不安定性が一段と悪化して、経済金融面では財政リスク悪化とともに経済観測がますます悪化して相場の不安定性と悲観が強い事態になっている。
 ブラジルで世界より大きく不平等性を拡大させたパンデミックもワクチン接種が進んで、なお高い水準とは言え、政府が経済活動正常化を進めることを反転するような勢いはないようだ。
 それでも、すでに発生した甚大な被害は目をみはるばかりだ。国内の死亡者数だけでなく、貧民街が10年間に倍増、約2千万人が飢えに苦しむ事態に悪化してしまった。
 政府コロナ対策の調査に上院に設置され、政界が注目していたCPI(議会審問委員会)は、大統領を含む79人の罪状を指摘する意見書を採択して10月26日に閉会した。
 市場がそれ以上に注意を寄せる案件は、支出上限をめぐる攻防だ。政府が最終審議で敗退して法的に支払い義務が確定した弁償金支払い規則を改定する改憲案に、下院特別委員会が政府の指導の下に支出上限規則の改定を組み込んで、上限を大幅に増加する道を追加した。
 国外でも、ブラジル経済を後押しするより足を引っ張る方向に悪化している。最大の輸出先、中国の経済成長が減速している。それに連れて鉄鉱石など国際商品相場が下落し、ブラジルの輸出を阻害する観測だ。さらに米国が量的緩和減少を皮切りに金融緩和措置を年内に是正開始を決定した。

(1)国内の主要なリスク
 政治面で選挙モードが一段と鮮明に、早くも一挙に選挙戦になだれ込む形成となるなど、リスク改善に程遠い状況だ。経済金融面では、財政リスク悪化を主因にしてインフレと金利の観測上昇、景気観測の悪化など、前月に比較して明らかなリスク悪化だ。唯一の改善は電力消費規制に関するものだ。
 財政リスク悪化からブラジル・リスク(5年物CDS)が10月中旬に今年に計24%高を記録し、投資家に情勢悪化の評価を増強した。企業投資が先送りされていく指標でもある。
 リスク悪化を前に、中銀(Copom)が10月27日に基本金利を年7・75%に前回の1ポイントから1・5ポイントに拡大して引き上げた。
 景気観測の悪化は金利引上げ幅予測の拡大や企業投資先送りの他に、新記録に増加した個人債務は世帯所得の約60%を拘束することも寄与している。
 さらに貧困層の購買を支えている社会保証制度Auxílio Brasil(旧呼称Bolsa Família)は、政府が支出上限規則改定の政治手段に、再選を目指す大統領が選挙手段に使っても、価額と対象(規模)でも必要には程遠く、ましては景気下支えに足るものではない。
 中央南部の貯水池は10月に良い降雨で見込み以上に貯水量を増加し、11月にも改善を継続との気象予報だ。
 だが、なお低く不十分な状況を脱するには遠い。それでも先行き不安の主役の座を財政リスクに譲るには十分だった。
 他方、生産財不足、例えば半導体不足が特に自動車工業の生産を阻害する事態が継続して、生産拡大の足を引っ張っている。

(2)国外の主要なリスク
 世界経済の回復が特に中国から発してより鈍くなり、世界中でインフレ懸念が強まるなど、米国の財政リスクはひとまず軽減したものの、リスクは悪化を止めても改善に至らなかった。IMF(国際通貨基金)が世界経済の成長予測を2021年に6・0%から5・9%に減少した。
 中国で電力危機が経済活動を阻害し、インフレと経済回復の懸念を強めている。他方、懸念の中心だった大手不動産会社エバーグランデの破綻は、利払いが期限に行われて倒産とは未だなっていない。それでも弊害は避けられず、電力不足や感染の局所的再発とともに中国経済の減速継続の主因になっている。
 米国で、消費者物価が9月に前月比0・4%、前年同月比5・4%上昇した。国会が債務上限増加を最終的に可決し、債務踏倒しを回避した。
 コロナ禍で寸断されていたロジスティック網は、米国で急速な経済活動再開とともに港湾渋滞となっている。
 それでも財政リスクが軽減された今、最大の関心は金融緩和是正の時期と速度だ。中銀に当たるFRB(連邦準備制度)が11月3日に金利据え置き、量的緩和減少を決定発表した。FRB理事の発言によれば利上げの開始にはなお手間取る。
 原油相場は84・38ドル、前月比7・46%、年計64・1%の上昇だ。さらに供給やロジスティックの問題は世界中で燃料や食料などの価格を押し上げて、インフレが危惧される水準になっている。経済活動は今一つでも利上げに迫られる国が多くなり、景気回復の勢いを抑えそうだ。

(3)悪化一途の2022年マクロ経済観測(10月29日付Focus)
 インフレ(IPCA)が前回(10月1日付)の4・14%から4・55%に、GDP(国内総生産)成長が1・57%から1・20%に悪化した。インフレの上方修正が続くため、当然にSelic金利予測も8・50%から一挙に10・25%に引き上げた。そして、ドルはR$5・25からR$5・50に増加した。
 2021年マクロ経済観測はGDPが5・04%から4・94%に下方修正し、IPCAは逆に8・51%から9・17%にさらに上方修正した。
 Selic金利は8・25%から9・25%にさらに上昇し、ドルはR$5・20からR$5・50に増加した。なおSelic金利は中銀Copomが10月に7・75%に引き上げたため、今年最後の会合でも1・5ポイント引上げを見込む計算だ。中銀は、Selic引上げ幅拡大も評価し、1・5ポイントで2022年に目標にインフレ収束と判断した。
 支出上限の空洞化を前に、財政リスクが明らかに悪化したため、ブラジルが長期間に高金利と2022年に、おそらく2023年にも悪い成長を持つとの観測が支配的となってしまった。
 進行中の利上げサイクルはいつまで、どこまで続くか、2022年に新たな利上げサイクルが必要になるか。市場の一部が2022年に13%の金利を見る。
 財政リスク悪化は、2022年公共財政初期収支の赤字予測(GDP比)に現出し、前回の1・0%から1・2%に増加した。名目総合赤字予測(GDP比)は6・36%から6・50%に増加した。

(4)財政リスクと利上げ幅に揺れる今後のドル相場
 ドル相場は9月の前月比5・76%高から、10月にも政治財政リスク悪化が進んでR$5・643(Ptax)に同3・74%上昇した。
 レアルは世界的にも、トルコの通貨などとともに価値下落が最も大きなものの一つになっているが、国際商品相場の軟調よりも財政リスク悪化が主因だ。市場では年末年始にかけてR$6の壁を試すドル相場をすでに観測するものもある。
 中銀Focus(10月29日付Focus)は12月に平均R$5・50の観測だったが、中銀の動きに基づいた見方を反映する。為替相場に売り介入するだけでなく、利上げ幅を拡大してインフレ目標の履行に努める姿勢を増強した。それは通常なら投機的外資流入につながる。
 なお外為収支は10月(22日現在)、輸出為替が大きく減少して貿易為替が9月までとは逆に赤字13・42億ドルを記録した。金融為替は11・31億ドルの黒字だったが貿易為替赤字に足らず、総合収支は2・11億ドルの赤字だった。

(5)今年最悪の月だった10月の株式投資
 平均株価指数(Ibovespa)が10月に103.501点で終了し、連続3カ月の下落の後にさらに今年最悪の6・74%下落を記録した。10月29日(103.501点)は今年最低を更新し、年計も13・04%安に落ち込んだ。
 金利はインターバンクを特徴的に、19日にAuxílio Brasil(社会保障制度)の新支給額発表前に強く上昇した。追加の増額と対象の拡大に、支出上限に抜け道を設けることを前提とする新支給額だ。下落の主因は財政リスクでも、さらに政府介入の危惧でペトロブラスと鉄鉱石下落でヴァーレの株価下落も今年最低の更新に寄与した。
 そして金相場は1,782.95ドルに前月比1・46%上昇したが、年計でなお5・26%の下落だ。ビットコインが10月20日に66千ドル、再び史上最高を6カ月後に更新するなど好調だった。10月に前月比45%、年計110%の値上げを蓄積した。
 サンパウロ証券取引所(B3)で外国投資家の運用収支は10月に、9月の出超R$48・4億から入超R$124・4億に強く逆転した。大きな入超だけでなく、買いでの取引シェアを25・1%から26・5%に強く拡大した。殊に個人が売りに出て、外国投資家が買い取る構図だ。
 10月は9月と同じ形でも、もっと悪化した形で起きた。金融投資はドル高ヘッジ手段を除いて、そろってマイナスだった。確定利はDI(インターバンク預金)リンクを例外に、先決め金利だけでなくインフレ・ヘッジのものまでインフレ観測悪化で再び下落した。
 私の運用先は、株式に比重を置く投資ファンドが主力だったため、悲しいことに、9月よりも強く目減りする結果だった。不透明なビットコインに手を出しかねるため、唯一、プラスの投資先はDIリンク(公債と投信)とポウパンサ預金か、しかも、それも名目のことで実質ではインフレに負けてしまう。投資家に苦しい時期がいつまで続くか。