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繁田一家の残党=ハナブサ アキラ=(13)

 広島までの3時間ばかり、おやじから習ったとおり、念入りに愛撫しつくしたら、車がエンストしたような動きがあり、彼女のからだが硬直したが、さすがに声はひそめていた。
 宇野から高松までの宇高連絡船では、彼女は最高に上機嫌で人生最高の旅と言い、それでなくても明るくて愛嬌の良い島ちゃん、大はしゃぎやった。
 後で知ったのだが、彼女はワイが好きで好きでたまらないのに、何の反応も示さなかったワイが思いがけなく、道中3時間も愛撫したので嬉しさで舞い揚がったんやろな。
 こうして、はじき豆こと島ちゃんは、はたちの夏に開花し、豆がはじけた。
 腹心を連れて来なかったおやじが、赴任2年目になり初めて人事異動をした。福岡で田中聡子に失恋したワイにとって居辛い福岡を離れさせる親心で台湾営業所開設に行けるように指名してくれたが、営業より修理サービスの出来る「もっともの宮さん」が行くことになり、その後任としてワイは独身で10歳若返りの所長として長崎へ行くことになった。
 業務引継ぎの際、宮さんからアシスタントの女子社員は夜学に通ってるので、残業は出来ないと念を押された。まさか、芳紀19歳になったばかりの富永昭子と深い関係になろうとは、なんという巡りあわせなのか。
 すらりとしたプロポーションとその美しい容姿に見とれることはあっても、愛や恋の対象、ましてや将来の契りを交わす仲になろうとは、その時ワイは若い娘の心の中までは測れなかった。
 ひと月も経っただろうか社宅に置手紙があり,まだ成人式も迎えてない乙女の未熟な情熱のこもった文面に、夢のような嬉しいショックを受けた。その置手紙には「ハナさんが大好きな人と云ったら、叱られるかしら?」と書かれていた。
 シーボルトの記念碑の建つ蛍茶屋に彼女が見つけてくれた社宅を、退社後授業前の時間を割いて毎日掃除してくれていたことにワイは気付いていなかった。
 挨拶回りと社宅視察に来ていたおやじに、この手紙を見せたら「子供が出来んように、うまくやれよ」と、来た。話のわかるおやじではある、とめるどころか、けしかけた。
 佐田啓二と岸恵子の「君の名は」のロケにも使われた美しい館は、シンガポールから引き揚げた老歯科医師夫妻が暮らしており離れの、あずまやの2階を会社に貸してくれた。
 階下には他の間借り人の夫婦子供の3人家族が住んでおり、ワイは2階の8畳と6畳で暮らした。
 休日のある日、昼間に帰ると、なんと彼女が日当たりの良い畳の上に寝そべって、ワイのポルノ雑誌(佐世保・米海軍基地の水兵から貰った)を読んでいた。
 休日の土日にも留守中の部屋を念入りに掃除してくれてたのだ。
 ワイが突然帰ってきたので、一瞬さっと顔色が変わった。
 恥ずかしさに慌てて雑誌を隠そうするのが、あまりにも可憐で、いとしくなり彼女を抱き上げ、そっと頬に口付けしようとしたところ彼女が腕を肩に回し抱き締めてきたので、いきなりデイープキッスになってしまった。
「恥ずかしいわ、でも夫婦の交わりは夫婦になってからにしましょう」と祈るように、か細い声でささやいたので同意して安心させ、おやじから伝授された極意を試してみた。

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