なぜ三世は日本就労できないのか=白紙の労働手帳が足かせに(4)=「ブラジルの方が外国」と感じる日常

ブラジルの労働手帳

ブラジルの労働手帳

ブラジルでの就職を不利にさせた労働手帳

 日本での就労経験しかなかったカワイさんが、ブラジルでの就職活動で困難に直面したのには、労働手帳の問題もあった。
 「私だけに限らず、大人になってからブラジルに戻った人や外国からの移民は、ブラジルの労働手帳に記される職歴が白紙です。一般にブラジルの採用担当者は、労働手帳の職歴を見て、その人のキャリアを判断します。そのため、ブラジルでのキャリアが白紙であれば、就職が不利となります。『労働者を守る』手帳が、私のような立場の人間には足かせとなっています」と続ける。
 仕事を必要としているブラジルの30代前後が就職難に遭っているのも、この労働手帳に記されるキャリアで判断されることが一因となっているという。よりキャリアが多く記された40代、50代の方が仕事を見つけやすい状況をカワイさんは見てきた。15歳で両親の就労のために来日した日系三世のレイナさんも、日本の職歴しかなく、同じ状況に遭遇し、今日まで就職できていない。
 「日本では選ばなければ様々な仕事がありましたが、ブラジルでは内職すら得られません」と、レイナさんはうつむく。
 現在、カワイさんは10月下旬に就職できたモジ・ダス・クルーゼス市内のペットショップで働く。「最低賃金の給料であっても、仕事があるのは本当にありがたいです」と胸をなでおろす。

日本の人間関係が懐かしい

 カワイさんは7歳の時、母親が病気で他界した。周囲の日本人が寂しくないようにと温かく接してくれたことに、今も感謝の念が堪えない。
 「日本では就業後も会社の仲間と一緒に遊び、和気あいあいと過ごしていました。それに比べ、ブラジルでの人間関係は希薄です。今、ブラジルでは、他州に暮らす日本にいた時の友人とばかり連絡を取っています」と話す。
 ブラジルでは治安の悪さに恐怖を感じ、寿司の味も違えば、作り方も日本で修行した時とのギャップに驚いた。ブラジル国籍しかないカワイさんだが、この5年間、家族ともども「ブラジルの方が外国だ」と感じながら生活している。
 「日本ではブラジル人と言われ、ブラジルでも外国人と同じ気持ちなのに、モジ・ダス・クルーゼスで年配の日本人に『お前は日本人じゃない』と冷たく突き放されたこともあります」と、やるせない気持ちだ。
 「日系二世はパンデミックに入ってからも査証申請ができるのに、三世はできなくなった理由が分かりません。物心ついた頃から日本で育ち、日本が好きでずっと暮らしたいと思っているのに」
 カワイさんは次に日本に行った時は、日本国籍を取得しようと考えている。

キャリアが白紙の労働手帳

キャリアが白紙の労働手帳

法務省が定める「特段の事情」の場合に査証発給

 在サンパウロ総領事館によると、コロナ禍で全ての国からの外国人の新規入国を一時停止していた中、法務省が定める「特段の事情」と認められたケースでは、査証が発給される者もあった。
 具体的には、日本に入国する外国人であって、再入国許可を持って入国する者、日本人・永住者の配偶者等または子(日系二世を含む)、家族離散状態で家族統合の必然性が認められる者、2021年11月5日の「水際対策強化に係る新たな措置(19)」に基づき新規入国する者、また、特に人道上配慮すべき者や公益性のある者等は、個別の事情を踏まえ、「特段の事情」による入国を認めてきた。
 現在は、国籍に関わらず、家族離散が認められる日系三世(「定住者」の在留資格認定証明書を有する)には、「特段の事情」による入国が認められ、査証申請が可能となっている、とされている。(大浦智子記者、続く)