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ノルデステ移民の故郷の味=ペキで飢餓を乗り切る

健康広場

2006年5月31日(水)

 サンパウロはこれまで、移民受け入れ都市だった。二〇〇四年に初めて〃収支〃が逆転。北東部(ノルデステ)に人口が移動しているという。フォーリャ・デ・サンパウロ紙が先ごろ報じていた。国内移民の逆流現象ともいえそうだ。
 建設現場での仕事が減ったというのが、大方の見方だろう。出身地でのインフレも進展。運良く貧困撲滅プログラムに、浴せるかもしれない。
 都会の周辺にしがみついて生きるより、住み慣れた故郷に戻ったほうが落ち着く。カネやモノより、生活の質を大切にしたい。
 ノルデステといって、すぐに想起するのはバイーアやセアラーだ。地理学的区分で、「東南部」(ミナス、リオなど)の北部や「中央西部」(ゴイアス、マット・グロッソ)の東部も含まれる。
 戦後まもなく輸入代替工業化がさかんだったころ、ミナスのセルトンはバイーアと並んで移民送出が目立つ地域だった。五〇年代初めに、年間に三、四万人が「パウ・デ・アララ」(移民を押し詰めて運ぶトラック)で、南米の商都を目指した。
 これらの国内移民の中で、チャンスをつかんだ人間は、いくらもいないだろう。多くは社会の底辺に置かれ、故郷を恋しがったにちがいない。
 セルトンにありふれた、樹木といえばペキ(pequi、高さ十二m~十五m)だ。日本人にとっての桜と同じ意味を持つと書けば、少々大げさすぎるだろうか。
 果実の皮はひょうたんのように硬くてするどい刺がある。白い蜜が詰まっていて甘く、種子を一緒に食べると、口の中が爽やかになるそうだ。種子を米ととも炊いた「アホイス・コン・ペキ」(俗にペキ飯)の知名度が高い。
 旱魃と飢餓に悩む土地では、貴重な栄養源だ。地方の人には、好き嫌いが分かれる食物でもある。
 ブラジリア(DF)に住む、尼崎道雄さんは「健康によいと思いますよ。ペキを食べると、翌日に体が軽くなったような気がする」という。
 百グラム当たり七・五ミリのビタミンAが含まれ、骨格形成や肌の保護によい。視力回復にもつながり、ペキを二十グラム口にすれば、一日に必要なビタミンAを補給できる。
 橋本梧郎氏(博研顧問)のレポートによれば、果肉には油脂が豊富。豚油の代用になるほか、肺気管支の治療薬に利用されている。先日、薬局で石鹸やシャンプーの成分にはいっているのもみかけた。
 今年はセルトンの放浪と戦闘を描いた、『大いなる大地』(Grande Sertao:Veredas)の出版五十周年。作家ジョアン・ギマラエンス・ローザ(一九〇八─一九六七)にスポットを当てた企画が目白押しだ。
 「ポルトガル語博物館」のこけら落としにもなり、文学史上に果たした役割の大きさがうかがえる。コルディスブルゴ(ベロ・オリゾンテから百十三キロ)出身。キャリア外交官で、日本語を含めて十カ国以上の外国語を学んだ。
 セルトンの生活にこだわった。奥地の地誌をつぶさに調査。住民の聞き取りも欠かさなかった。作品中には、風物の描写が散りばめられている。
 方言や古語を駆使。造語も織り交ぜて、ブラジル人ですら文章を読みこなすのは難しい。〃言語革命〃を起こした、二十世紀最大の作家と評される所以だ。出版半世紀が、地域の文化・伝統を見直す機会になるかもしれない。

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