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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(237)

 総領事館に経済的援助を申しでたり、暴力沙汰を起こすものもでた。多くの会員が日本からきたとき泊った移民収容所に収容された。そして、1年少しで解散した。  その出来事は正輝に自分がいまだに裁判の判決を受けていないことを思いださせた。子どもたちの出生届を役所に提出したことで国外追放から完全に解放されたと考えていたが、その後どうなって ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(236)

 日本人から「桜組」と呼ばれたこのグループはすぐ見分けられた。カーキ色の制服を着、同じ色の軍帽を被って、グループをくんで歩くからだ。彼らの目的は「日本に引き上げる」ことだから、敵国から日本に帰るという意味で「引き上げ論者」ともよばれた。  規則正しい彼らは、短期間のうちに町に住む同胞たちの協賛を得るようになった。まずはじめに参加 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(234)

 しかし、正輝にとっては意味がある。これまでの生活を打切り、新しい生活を踏みだす機会になるような気がした。  正輝には未だに実感がなかった。8年か10年ほどまえ、それまでの習慣を打ち切った。子どもたちがブラジル社会に溶けこむために、家での日本語の会話を辞めさせ、よりよい教育環境をもとめて、アララクァーラより大きい都市の郊外に移る ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(233)

 たしかに、近づいてくる人たちのなかに、見違えるほど整った服装のネナがいた。だから、ツーコはネナだと気づかなかったのだ。三人は懐かしさのあまりネナのほうに走った。ネナはきれいに着飾り、パーマまでかけていた。両親に合わせようとわざわざ連れてきてくれたのだ。  ツーコはこんなにおしゃべりなネナを見たことがない。姉は話しつづけた。   ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(232)

 すでにラジオはそれほ入手困難ではなかったが、一家にとっては困難だった。中心地には店がたくさんあり、月賦払いでも買える。  正輝は現在サンパウロの「トコロビイ」とかいうところに住んでいる旧友津波元一の親戚が、蓄音機付きラジオを手放したがっていることを聞き知った。まだ十分使えるとのことだった。今はこのラジオ以外に興味はないのだが、 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(231)

 ネナは料理やその他の家事をしっかりと、文句も言わずにこなしていた。それを房子がひき継ぐわけにはいかないと正輝は考え、ほかの娘にその役をさせた。結局、10歳になったヨシコに料理を、ツーコに家事をさせることにした。そして、たまに夕食を作っていた正輝が、今度は毎日作ることになった。  前から肺の調子がよくなかったヨシコはますますひど ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(230)

 親戚や友だちの家族に対してもブラジル人との結婚を絶対にゆるさなかった。子どもたちが恋愛や結婚の相手に日系人以外を選ぶなど、彼には考えられないことだった。また、日系人以外のだれかが子どもと交際したいといっても許さなかった。隣に自転車で通勤するシッコという働き者の青年が住んでいた。背広を着て、ネクタイをしめ、自転車のチェーンの汚れ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(229)

 そこで、正輝が参加している頼母子に入りたいと謙虚に申しでた。頼母子はそのころ多くの日本の人間で行われていた。沖縄人の間でも「ユレー」とよばれ、最初の日にはヒジャー・ヌ・シル(ヤギ汁)をみんなで食べる。正輝も胴元として、自分の家でやっていた。  大城は高江洲正吉という沖縄人といっしょにきた。高江洲は1934年ブラジルにきた移民で ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(228)

 家にはネナと下の三人の子どもしかいなかった。銅像広場のオリヴェイラ先生の中学予備校に通っているツーコ、小学校3年生のヨシコと1年生のジュンジだ。四人は母といっしょに恐ろしいシーンを眺めた。息子を叩きつけながら正輝はうなり声を上げていた。家にマンガを置くことは絶対に許さないと正輝はいつもいっていたのにい、ミーチはそれに従わなかっ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(227)

 こういって、初めの一本をすすめた。そのことを知ったとき、いつもだったら、叱りつけるのに、アキミツを罰することはできなかった。彼自身、そのころのはやり言葉で「煙突の煙」とよばれるぐらいのヘビースモーカーだったからだ。  安くて「胸がやられる」といわれるほどニコチンが多いマセドニアというタバコだった。そのころ「マセドニアこそ、純粋 ...

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