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連載小説

連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第36回

ニッケイ新聞 2013年3月20日  フスキンニャはアチバイアで高速道路を下りた。車は大きく楕円を描くインターチェンジから市内に向かって走り続けた。サンパウロに来てから取材先と言えば、在サンパウロ日本総領事館、移民の送り出し機関でもある国際協力事業団サンパウロ支部、それに日系社会最大の組織である日伯文化協会、日系人の医療、福祉を ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第35回

ニッケイ新聞 2013年3月19日  アントニオはサンバのテープを慣れた手つきでカセットデッキに差し込むと、ボリュームをいっぱいにしてかけた。安物のスピーカーのためか音が割れたが、それでもボリュームを下げる様子もなく、後ろに乗っている児玉に気を遣う気配もまったくない。  たとえ注意をしたところで、ブラジル人が素直に音量を下げない ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第34回

ニッケイ新聞 2013年3月16日  こんなやりとりをしたのもわずか一年前のことだった。例の事件があってから初めて会っているのだ。喘ぐような息遣いで佐織が聞いた。「お話ってなんでしょうか」 「もちろん俺たち二人のことだ。今のままでは俺の気持ちも整理がつかないし、それは君も同じだと思うけど」  佐織は何も答えなかった。俯いたままカ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第33回

ニッケイ新聞 2013年3月15日  その数日後、応募用紙をもらいに小宮は国際協力事業団本部に行った。応募用紙は窓口ですぐにもらうことができたが、小宮はそこで移民募集のポスターを見たのだ。係りの者が差し出す応募用紙を受けとると聞いた。 「移民の応募用紙もいただけますか」 「移住関係はセクションが違うので、そちらの方へ回ってくれま ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第32回

ニッケイ新聞 2013年3月14日  小宮は単刀直入に訪問の理由を両親に告げた。 「何故、結婚を許してくれないのですか。私が被差別部落の出身だからですか。部落だと何故、いけないのですか」  小宮は冷静に感情を抑制した声で聞いた。だが視線は武政太一を鋭く睨みすえたままで、目は怒りに燃えていた。  武政もまた小宮の視線に身動ぎもせず ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第31回

ニッケイ新聞 2013年3月12日 「それでどうする気なんだ」 「説得します」佐織が今にも泣き出しそうな顔で答えた。 「自信はあるのか」 「説得してみないとわかりません」 「説得できなかった時はどうするんだ」  再び佐織は沈黙してしまった。こうしたカップルのほとんどが結婚には至らず別れてしまうケースを、小宮はどれほど見たり聞いた ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第30回

ニッケイ新聞 2013年3月9日  佐織の方も甘い言葉を期待していたわけでもなくそれで納得してくれた。二人で暮らすのが自然だと小宮も佐織もそう思えるようになったから結婚する。それだけのことだった。  水上温泉を旅行した後、アパート探しをするのが二人のデートになった。結婚に備えて新居を探し始めたのだ。  小宮は佐織を両親に紹介した ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第29回

ニッケイ新聞 2013年3月8日  部落出身であるという理由で結婚が破談になる事実を、小宮は最も身近なところで体験した。この事件以来、姉は見合いも恋愛もせずに、今も独身だ。そんな姉の姿を見ているので、佐織と出会った時は、早い時期に部落出身であることを告げようと思った。結婚という段階になってその事実を明かし、破談になったのではあま ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第28回

ニッケイ新聞 2013年3月7日  しかし、それが幻想でしかないことを小宮は高校三年の時に思い知らされた。小宮には四歳年が離れた勝ち気な性格の姉真弓がいた。真弓の結婚は式直前に破談になったのだ。表向きには相手の男性の心変わりが原因で、弁護士を介して婚約破棄を正式に伝えてきた。相当の慰謝料を支払うから、婚約を解消したいというものだ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第27回

ニッケイ新聞 2013年3月6日  何度も同じ経験をするうちに、用事があるとか、勉強、宿題というのは嘘で、引き離される原因は小宮の住む地区にあることが、子供ながらわかってくる。  そうした大人の陰湿さとは対照的に子供の世界は特別な配慮はなかった。小宮が放課後、遊ぼうとしたり、仲間に加わったりしようとすると、拒否されるようになった ...

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