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連載小説

連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第84回

ニッケイ新聞 2013年5月29日 「持ち帰りが一匹、二匹くらいなら、その被爆者は簡単に死なないんだ。でもごっそり付いている時は、翌日訪ねていくとほとんど死んでいたよ。シラミは死んだ人間の血でも吸うと言うけど、違うんだ。もうすぐ死ぬ人間から離れて生きのいい人間の方へ移動する。うわ言のように広島、広島って言いながら死んでいった被爆 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第83回

ニッケイ新聞 2013年5月28日 「父も母も韓国人なの。私の中に流れているのはまぎれもなく韓国人の血なの」  「韓国人の血」、「民族の血」という言葉を美子はしばしば口にした。その強い口調とは対照的に、美子はいつも自分の中にある不確かさに脅えていた。地図も持たずに不慣れな山に登るようなおぼつかなさを彼女は常に抱えていた。  児玉 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第82回

ニッケイ新聞 2013年5月25日  祖父の言った言葉にジョゼは素早く反応した。 「それは日本の俳句とは違うさ」  ブラジルで流行している俳句とはいったいどんなものなのか。季語を詠み込まなければならない俳句に、四季のない国で季語はどうなっているのだろうか。 「日本の四季を知らなくても、一世から聞いた日本の姿を想像することはできる ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第81回

ニッケイ新聞 2013年5月24日 「今から思えばかわいそうなことをしたと思うが、あの頃は日本に帰ることしか念頭になかった。自分の娘をブラジルに置き去りにすることもできないし、肌の黒い孫を日本に連れ帰るなんて、想像しただけでも恐ろしくなった」  野村の本音なのだろう。  野村だけではなくすべての移民の意識を変えたのは、日本の敗戦 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第80回

ニッケイ新聞 2013年5月23日 「日本に帰国する時に、黒人の嫁や混血児を連れて帰るなんてできるはずがない。それに子供がガイジンと結婚すれば、孫に流れる日本人の血は二分の一になる。孫がガイジンと結婚すれば三代目の血は四分の一になってしまう。血の純血が守れないということは民族的自殺に等しい。混血結婚を繰り返せば、大和民族の血がい ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第79回

ニッケイ新聞 2013年5月22日 「二、三日姿が見えないと、他の移民が訪ねていくと、両親はすでに死んでいて、遺体に湧いたウジで子供が遊んでいた。遺体は腐乱が激しくどうすることもできず、子供を引きはなして、家ごと燃やしたケースもあったくらいだ」 「野村さんも日本人移住地に入られたのですか」 「わしらはコーヒー栽培にすぐに見切りを ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第78回

ニッケイ新聞 2013年5月21日  サンパウロ近郊なら、その日の夕方までには着いたが、遠距離になると二、三日後に店頭に並ぶことになる。野村は農業を離れると、雑貨店を経営しその店で新聞を売っていた。  外は日が高くなるに連れて、気温は急激に上昇した。児玉はマリーナと一緒に野村の家で朝食を摂ることになった。近くのパダリア(パン屋) ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第77回

ニッケイ新聞 2013年5月18日  三時間ほど走り、ドライブインに入り休憩した。昼間の熱気がまだ残り、車を降りた瞬間汗が噴き出してくる。次々に長距離バスも入ってくる。ドライブインは二十四時間営業で、ボリュームをいっぱいに上げたスピーカーからサンバが流れていた。 「もうすぐカーニバルよ」マリーナが言った。  毎年二月末にカーニバ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第76回

ニッケイ新聞 2013年5月17日  そのアミノ布団店の入口横にある螺旋階段を上がった二階に受付があった。学校の名前はエスコーラ(学校)・デ・ソロバンで、フロアをいくつかに区切り教室として使っているのか、講義する声が聞こえてきた。昼間は算盤を習いにくる二世、三世の子供たちで教室は埋まるが、夜間は日本語を学ぶ日系人や児玉のような新 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第75回

ニッケイ新聞 2013年5月16日  マリーナも現在の日本の様子を日本語で質問してきた。 「広島までバスで何時間くらいかかりますか」 「天草はきれいな島ですか」  マリーナの関心は東京よりも祖父の故郷広島、祖母の生まれた天草にあった。児玉は広島には二度ほど訪れたことはあったが、天草どころか九州にさえ行ったことはなかった。サンパウ ...

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