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連載小説

連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第17回

ニッケイ新聞 2013年2月20日  体を回転させたはずみで彼女と視線が合った。彼女の踊りは児玉を挑発するように激しく腰をくねらせ、踊りながら四つ目のボタンを外す仕草をしてみせた。そして踊りながら児玉の目の前までやって来た。香水と彼女の体臭が混ざった匂いが漂ってくる。しかし、雰囲気がそうさせるのか、決して不快な匂いではなかった。 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第16回

ニッケイ新聞 2013年2月19日  児玉はその日の原稿を書き終えると、毎晩サンパウロ市内のバーを飲み歩いていた。バーは大きく三つにわかれている。一つは東洋人街と呼ばれるリベルダーデ区に集中している日系人経営のバーだ。東洋人街のメインストリートでも呼ぶべきカルボン・ブエノ街周辺に長良、柳、エメラルドなどのバーはもとより日の出、で ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第15回

ニッケイ新聞 2013年2月16日  二世がポルトガル語でブラジル人に児玉の言ったことを通訳してくれた。事情がわかると、彼らは値段を紙に書いたり、ゆっくりと発音してくれた。児玉も最初は挨拶ぐらいだったものが、数ヶ月もすると簡単な会話くらいなら通じるようになってきた。 「ブラジルは気に入ったか」 「ああ、好きになった」 「それはよ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第14回

ニッケイ新聞 2013年2月15日  昼休みにペンソンに戻り、蚤を殺してやろうと毛布をそっと剥ぐと、五、六匹が白いシーツの上で飛び跳ねていた。しかも日本の蚤とは比べ物にならないくらいに大きく、黒い米粒が跳ねているように見えた。その場で荷物をトランクに詰め込んでペンソンから逃げ出した。  知人の紹介でキッチネッチと呼ばれるバスとキ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第13回

ニッケイ新聞 2013年2月14日  在日朝鮮人・韓国人一世の多くは結婚における血の純潔を守ろうとしていた。外国人の血が混じれば、その家系の血は薄れ、生活の秩序も風習も習慣も、朝鮮人、韓国人としての家の堅い絆が破壊されてしまう。生まれた子供は混血児として、将来、悩み苦しむことになり、悲劇を生む。  日本人は朝鮮半島を支配し、侵略 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第12回

ニッケイ新聞 2013年2月12日  美子は何度も自殺を試みていた。その方法をいやというほど児玉は聞かされていた。 「愛している」児玉がその話を打ち切ろうとして言った。 「そんなかったるいもの、私は要らない」 「愛も家庭も何も要らないというわけか」 「そう」 「それで寂しくないのか」 「私の気持ちは日本人のあなたにはわからないわ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第11回

ニッケイ新聞 2013年2月9日  韓国全土に多くの日本人妻と呼ばれる人々がいた。一九一〇年から一九四五年まで朝鮮半島は日本の支配下に置かれ、その支配政策の一つに内鮮結婚があった。朝鮮人と日本人の結婚奨励である。  朝鮮人も天皇の下に「平等」であり、日本人、朝鮮人、「差別」することなく結婚すべきだ——これが朝鮮人の差別に対する怒 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第10回

ニッケイ新聞 2013年2月8日  中学一年生の時、児玉は横浜市長津田で暮らしていた。卒業式を目前に控えた頃、神奈川県の作文大会である女子生徒が受賞し、朝礼でその作文が本人によって朗読された。金という姓の在日朝鮮人だった。彼女は中学を卒業すると高校には進学せず、就職することになっていた。就職試験を受けるには履歴書を提出しなければ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第9回

ニッケイ新聞 2013年2月7日 「いや、わからんね」 「ブラジルは出生地主義を取っているんです。観光客であろうと、移民の子であろうと、あるいは密入国者の子供であっても、ブラジルで生まれた子供はすべてブラジルの国籍を取得することができます。ましてブラジル人女性の子供です。ロナルド・ビッグズの子供もブラジル人なります」 「それで」 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第8回

ニッケイ新聞 2013年2月6日  児玉もブラジル人の賑やかさに閉口した。しかし、二人ともホテルで十分に睡眠を取ったせいか、それほど気にはならなかった。ブラジル人の席は、どこの席もよく食べ、よく飲んで、話し、笑い声が響き渡っていた。児玉も小宮も、楽しそうにしているブラジル人の輪の中に加わりたい衝動にかられた。  そんな二人に気づ ...

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