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連載小説

花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=65

 訪日をしたときに「二世ですか」とよく言われる。いつのまにか、多少変った日本人になってしまったと言える。性格にもよるが大陸に四十一年住めば、人生観が太くなるのは当然に違いない。 小南ミヨ子女史の送り出した花嫁達も、「ききょう会」に参加したとき感じたように、現在の安定した生活になるまで、ほとんどが明子と同じような辛苦に耐えてその生 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=64

 「それで、しばらく落ち着いていたんだけれど、また姑と喧嘩。また家を出て、また戻ってと彼女は大きく笑い、またお金を使うために土地を買って」 「で、その度に土地を増やしたの?」 「そうなのよ」と彼女は大笑いをし、 「でも今は、おばあちゃんには隠居してもらってね、離れて暮らすようになってからは楽になったの」一息いれてから、ふと思い出 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=63

 サンパウロの街で、一人でも多くの美顔術のお客が欲しいと歩きつづけている頃、彼女はパラグアイの耕地で、孤軍奮戦していたことが、移住して八~九年してから分かった。彼女が、 「サンパウロ見物に来たわよ」と訪ねてきたからである。 西本願寺や東本願寺の他に、ブラジルに進出してきた新興宗教は十指に余る。その中の一つとして、我が家の裏通りに ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=62

 一九六〇年~七〇年代の元、花の駐在員夫人に、 「蚤だったのかしら、サンパウロからニューヨーク間でモドモドして困ったわ」と言えば絶句してしまった。一九六・七〇年代に飛行機に乗りブラジルと日本を往復できるのは、大方はこうした駐在員やコロニアでも富裕の人達ばかりだったからである。 だが庶民用とでもいうか、十回払いの月賦のチケットもあ ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=61

 それゆえジョアキン・ゲーデスの看板を揚げて工事が始まったのだが、大家ジョアキン氏は大邸宅ばかり造っていたから、 「こんな小さな家は始めてだ」と言ったらしい。しかも、その時の持ち金では、家の玄関と裏口のドアをつけるしか出来ないことがわかっており、後の工事は稼ぎながらぼつぼつ仕上げていくという、ブラジルの超庶民の建て方で工事するこ ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=60

 その友人たちも、画家仲間や安定した生活をしているコロニアの家庭人が多く、この頃の男たちの唯一の娯楽であるマージャンのメンバーとして呼んでもらい、家庭料理もたびたび口にしたそうだ。独身であることを楽しんでいたこの時期に、私の美顔術のお客さまと同じ客だった三菱商事の駐在員夫人達から私との結婚を勧められたことで、花嫁移民を迎えた他の ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=59

(三)は、武田さんに勧められて半年後のこと、武田さんから紹介された三菱商事の奥様方の紹介で、一九六八年五月に結婚することになった。今まで思いもしなかったが、この文章を書きはじめてみたら、すべて武田さんに繋がっていることに気付かされた。 この三つの思い出のある武田さんは、私が知らない間に日本へ引き上げて亡くなっている。武田さんが「 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=58

 コチア青年の花嫁たちのように耐えて夫婦で築きあげようというのではなく、チャタレイ夫人まがいのデッチ上げの不倫を、夫の目に触れるように書き置き、 「あなたは契約移住者としての義務があり、拘束され困っていますが、私には束縛されるものは何もありません。戸籍上の妻ではありますが、これを捨てたところで大きな罪にはならない。はっきり申し上 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=57

 「友達になるなら、弁護士と医者を」ともよく聞いた。その次に勧めたのが経済学科と建築科だったようである。 ウルグアイで嫁入りに失敗して、ブラジルに来たばかりの私には、次々に縁談が持ち込まれたが、花婿となる青年達のことで気になることをひとつ挙げてみたい。これは、四十一年間この地に住んだ今だから、当時の花婿となる青年達について思いあ ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=56

 「村に、も一人花嫁がいたが、こちらは落ち着いて邸宅を建てるまで頑張った。ユリさんも名前ぐらいは聞いたことがあるだろうよ、日本の大きな短歌の賞をもらったこともある人よ」と結んだ。  この夜、奥地へ農機具を販売する日本の進出企業に、勤めたことがある七十四歳の北三男さんに電話をし、取材のため長話をした。 「四十年前、奥地に農機具を売 ...

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