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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(57)

 正輝はたまに近所のヨーロッパ系移民の家によばれると、日本人移民のあまりにも質素で、文化度の低い家を思い、やりきれなかった。家の外観はほとんど同じだ。天井はたいていむき出しの屋根瓦、土間の床、レンガの壁の家だった。  しかし、ガイジン(当時、日系以外の者に対して使われた言葉)の家の応接間のテーブルはきちんとしていた。粗末だがテー ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(56)

 その年はまだ日が出ない暗いうちから、夜、闇に包まれ何も見えなくなるまで、みんな懸命に働いた。雨が棉の大敵だから急いで摘まなければならず、昼食の時間もなかった。そんなに懸命に働かねばならなかったのかというと、雨との競争だったからだ。収穫物の全部を失うことになりかねない。  次の収穫期には経済状態が少し楽になり、その時期に日雇い労 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(55)

 こうして、グアタパラ耕地で知りあった者たちが、チエテ川から少し北にいったタバチンガで再び生活を共にすることになった。  当時、その地帯では主に棉が栽培されており、彼らも棉栽培にとり組んだ。パウケイマダ耕地の土地を借りた。稲嶺盛一が選んだ土地は森林を伐採し、切り株を堀りだし、そのあと、ラバが引くスキで耕さなければならなかった。痩 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(54)

 こうして、彼らは別の道を歩むことになった。  正輝は父親と同年輩の移民のやさしい家族に迎えられた。名前を稲嶺盛一といい、妻は沖縄でよく使われるウマニーという愛称でよばれていた。彼女は正輝を自分の息子のようにあつかった。稲嶺盛一は新城村出身でも、具志頭郡出 身でもなかった。彼は沖縄の南、島尻からきていたが、方言はほとんど同じなの ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(53)

 生活費を稼ぐために、請負人はコーヒー栽培の合間に米とフェイジョン豆の間作がゆるされ、収穫物は彼らのものになるのだった。また、最初に収穫されたコーヒーも彼らがうけとった。請負期間がすむと、契約金をうけとり、そこを去った。この金でコーヒー栽培者になった者もいる。 「1927年当時、3700の日本人家族がノロエステ地方一帯に住んでい ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(52)

 サン・マルチニョ耕地から脱走したいきさつもあり、それだけの金を貯めることなどできなかったのだ。樽の家族は経済や財政に関してはまるで無能な遺伝子が受け継がれているようにみえる。1910年後半から1930年までつづいた日本移民の土地購入の熱をただ指をくわえて眺めているだけだったのだ。  コーヒー園で働いていたときでも、移民たちは条 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(51)

 樽、ウシ、正輝が沖縄をあとにしてから、忠道は生きる意欲をすっかり失ったとのことだった。借金の返済もできず、競馬にうつつをぬかしたことで家が破綻し、結婚したばかりの弟、その妻、そして自分の次男を遠いブラジルにやり、家族を離散させた自責の念にさいなまされていた。新城に残った長男の哲夫さえも、賭け金の不支払いで、捕縛される危険にあっ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(50)

 糸巻きにする木は、ねじりに強い木でなくてはならず、そのような特殊な木は容易にみつからない。沖縄人はブラジルにある木で最もその性質のあるのはコショウボクだと気付いた。正輝がブラジルではじめて目にした三線にはこの駒が使われていた。出っ張りにヤスリがかけられた四角い底辺のピラミッド形で、胴体にはめこまれるところだけが丸くされていた。 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(49)

 正輝が興味を示したのは、哲学、歴史、政治、特に最近の日本の政治に関する記事だった。みんなが読み終わった本は彼が保管できるように願いでて、自分自身のために図書箱をつくろうとした。家の食堂と居間に本をおく場所をつくった。本の数は少なかったがそれは宝物だった。本を所有することが誇りだった。だから、みんなの見えるところに置かなくてはな ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(48)

「仕事中、ふつうの休み時間より長く休むことで、この先も働きつづけられる。これは竹がしなって、強風をしのぎ、そのあと、すぐに、もとどおり真っすぐ立ち直る。それと同じことじゃないか?」  習慣、目的、文化、価値観のちがいなどから日本人が農園の他の労働者の日常生活に影響をあたえることもあった。正輝の家族はほかの日本人と同様に日曜日、教 ...

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