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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(20)

 1900年、山東省で、義和団(Boxers)が中国に滞在する外国人に対して内乱をおこし、北京の諸国公使館を包囲した。日本は速やかに、そして密かに(中国の一部を支配しコントロールしようと企んでいる諸強国を刺激しないよう)当地にいた半分の隊で騒ぎを鎮圧し、平常にもどした。  このとき、日本人は自国こそこの地方の安定を保ち、自分たち ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(19)

 もうひとつ臣民が従うべきこと、それは武勇を重んじることだった。 「上級のものは下級のものに向かって、少しも軽んじて侮ったりしてはならない。そして、下級のものは上級の者を畏怖すべきではない」  また、質素であるべきであることも公民に求められた。 「軍人は質素を第一とするべし。武を軽んじ文を重んじるようになれば、人は軽薄になり、贅 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(18)

 この教育制度こそは、それまでの封建的な武士政権にあって、三世紀も世界の発展からとり残され日本に、世界と肩をならべるほどの大きな活力をもたらしたのだ。  教育改革法は1872年に発布されたが、それによると、日本は八つの教育地域に分けられ、各地域には1つの大学、32の高等学校が設立された。また、高校1校につき、210校の小学校が設 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(17)

 明治政府は多種の工業施設を開発し工業からあがる利益を、急速に増加する国民の食料を輸入することにより、国内の農産物不足の危機を乗り越えようと、やっきになっていたのである。  その点、沖縄は不利な状態におかれていた。島の経済は砂糖キビの単一農業で、しかも砂糖価格は常に国際市場に左右される。島の生活はいつも不安定なものであった。   ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(16)

 正輝の父、忠道の怒りは当然だが、鹿児島の支配下にいるのがいいという意見だった。この新しい県の行政を司る人間、それは絶対に優秀な薩摩の旧藩士で、沖縄をよくしる現在の鹿児島県人でなくてはならなかったのだ。それが政治家であれ、軍人であれそしてまたは平民であれ。  1892年、天皇から男爵の称号を受けた尊大な旧薩摩武士、奈良原繁(なら ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(15)

 一方、明国は経済的にも軍事的にも最強で、みんな明国を怖れており、武家政治下にあった日本も中国に対し、これに似たやりかたを踏襲していた。極東全域の小国が中国への服従を示すことで、いざこざを避けようとしたのである。ようするに、中国は平和の守護神という役割だった。  そのうち中国の注意を喚起しないような方法ではあるが、自分たちの欲望 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(14)

 公用語は日本語で話すことが義務づけられていたし、教育も東京の中央政府から日本全土に発せられる教育方針にのっとった指導を受けていた。教理に従い天皇を崇拝した。忠道は沖縄の独自性(アイデンティティー)が失われることによりも、鹿児島県知事に従わなければならないことで「いまさら、なぜ、鹿児島県なのだ?」と嫌悪感をしめした。  とくにサ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(13)

 マサユキは沖縄滞在中、近親の大学卒の者たちが尚巴志王時代までさかのぼって、家族の先祖について調査したことがあるときかされた。尚巴志王は1429年、島を三分していた王国を統一し、琉球王国の最初の王となり、1439年まで統治した。17世紀に70~80年間の空白期間があるのだが、それは保久原の苗字を否定したり調査を無効にする材料には ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(12)

 だが、彼らがまるでいっしょに育ったように感じられる原因がほかにもあった。それは一族の歴史を二人が共有していること。父方の祖父の孫というおなじ血を引く者同士だから当然なことだ。さらに二人を強く結びつけたのはコミュニケーションの容易さだ。沖縄語のウチナーグチで会話ができるという僥倖だった。  さいしょ、空港での昇とマサユキの態度は ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(11)

 船中では足や腕を動かすだけで、隣の人の足や腕にぶつかってしまった。いま、汽車のなかではもうすこしで、牛叔母さんの顔に当るところまで思い切り体を伸ばし、何回もあくびをした。闇がおりて景色が消えた。一本調子にくり返される音、単調な旅、そして、心地よい揺れが彼を眠りにさそっていった。  父母のこと、幼いころのこと、それから帰途につい ...

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