出産の時以外入院した事がなく、大きな病気やケガはした事がないのがある意味で自慢だったのに入院・手術となり、会社も休んでから1年過ぎた。3年一巡りで使っている情報記録用の手帳には、昨年1月12日の骨折後、13日入院、14日手術、15日退院と左手で書き込まれている▼いつも身近にある手帳を見て、退院後は無事に過ぎたと改めて感謝すると共に、コロニアでも知られる名曲「ふるさと」の中の「恙無しや友がき」という歌詞に思いが至った▼「恙」は病気や災難を意味し、「友達も皆元気だろうか」と思いをめぐらす箇所だ。自分自身はこの1年「恙無く」過ぎたが、恩師や知人、同僚の訃報にも接した。反対に、近しい人達の間での新しい命の誕生や成長という喜ばしい知らせもあったし、流産を経験した女性が再び命を宿し、伴侶が気遣っているとの話も聞いた▼大正3年に文語体で書かれた「ふるさと」には、「兎追いし」の箇所を「兎がおいしい」の意味だと思っていたという笑い話のような話もある。昔覚えた曲の中には、意味もわからず歌っていたが今になってその意味や情景がわかり、改めて歌詞が心に沁みるものも多い。言葉の美しさやその重さを思うと共に、何十年も離れていた祖国に帰り、「ふるさとは遠くにありて思ふもの」という室生犀星の詩の言葉を実感したと話していた人の事も思い出す▼昔を偲び「あの頃はよかった」を連発する人もいるが、美しい思い出や人間関係を大切にする事と、過去に囚われ現状に目をつぶる事は違うはず。手帳を閉じながら、過去の傷や痛みがあっても前を向き、「今」を生きなければとも思わされたひと時だった。(み)