ホーム | コラム | 樹海 | 「ヴァザジャット」で腑に落ちたモロの本当の評判

「ヴァザジャット」で腑に落ちたモロの本当の評判

モロ法相(Daniel Isaia/Agencia Brasil)

モロ法相(Daniel Isaia/Agencia Brasil)

 9日の夜から、ブラジルは、通称「ヴァザジャット」と呼ばれるスキャンダルで揺れている。ラヴァ・ジャット作戦を指揮していた二人のリーダー、セルジオ・モロ法相とデウタン・ダラグノル捜査官が、違憲とされている「判事と検察の協力」を行なっていたことや、ダラグノル氏に関しては、実はルーラ元大統領を実刑に追い込んだ論旨に自身も疑問を抱いていたことなどが明らかにされたからだ▼本人たちは「誤解だ」と主張するも内容はハッキングによる本物であるゆえ否定できず、加えて、この件をめぐり司法や議会が大荒れ。国民の反応もツイッター上ではかなり不利なものとなっている▼「英雄だと信じていたのに」。そうした失望の声も目にする。だが、その一方で、「なんだ。疑っていたことが証明されただけじゃないか」とする、主に左派側の意見も同時に目に付く。本コラムで度々モロ氏に疑問を呈していたコラム子も、実はそれと同じ感想だ▼コラム子はかねてからモロ氏について「なぜ、判事としての政治的中立性を疑われてまでもボルソナロ政権につくのか」「夫人も司法関係者なのに大統領選挙時からボルソナロ氏を応援していたがいかがなものか」などと書いて疑問を呈してしてはいた。だが、他にも疑問はあった▼それは同氏の「連邦議会での意外なまでの不人気ぶり」だった。モロ法相の傘下にあった、資金洗浄調査などを請け負う金融活動管理審議会(COAF)が、5月に両院委員会、下院全体の2度の投票で破れ経済相に移されたことだ。コラム子はこれに驚いた。「それは不正体質の政治家が嫌っただけのこと」と評する人もいたが、そんな安易なものではないような気がしたからだ。なぜなら、モロ氏は「ブラジル政治の腐敗撲滅のためのヒーロー」と目されている存在で、その人に反旗を翻せば自分が汚職政治家だと疑われかねない。だが、そんなリスクを犯してまで彼らは「モロ氏への権力集中を止めたい」と言い張った▼それだけではない。彼の法相としてのライフワークとも言われている「犯罪防止法」。この評判がすこぶる悪いのだ。ロドリゴ・マイア下院議長からは「こんなのは法案とは言わない。ただのコピーだ」と酷評されたが、議員たちからも「これはない」との批判の声が漏れていた。ただ、その法案に何が書かれていたのかについてはなかなか報道されない。「どういうことなんだろう」と思っていた▼それが今回の「ヴァザジャット」があったことで、だいぶつじつまが合うような感じになってきた。このスクープで「ヒエラルキーを無視して、連邦検察を指図するようにさえなっていた」とされた。よくよく考えたら、この程度のことは、我々などよりはずっと事情通なはずの連邦議員や司法関係者には雰囲気や噂で知られていておかしくないこと。「ああ、道理で〝権力集中〟を嫌ったわけだ」と、コラム子は合点が行った▼そして、「同様のことは司法関係者もしかりなのではないか」とも思っている。ルーラ氏の裁判で1審を担当したモロ氏の判決にはいまだに反対者が多い。それに異を唱えると「腐敗した悪の味方」かのようなレッテルを最高裁判事などに貼る世論もあったが、本当にそうなのか。中には、ただ単純に、ルーラ氏が実際にどうかより、裁判の基準に違和感を感じた人もいたのでは。コラム子も、証拠を見つけてもない状態で裁判時期を早め、刑期を延ばした不自然な2審目に関しては本コラムでもその違和感を書いている。これは後に減刑されている▽それら腑に落ちなかった点が、今回のダラグノル氏への報道で「道理で違和感を唱えた人が多かったわけだ」と思った次第でもある。(陽)