先週末からのPCCによる暴動を、筒井康隆の小説のようだと言ったら失礼だろうか▼麻薬密売組織側の要求として、ボスの入っている刑務所でサッカーW杯が見られるようにテレビを設置しろと要求している旨の記事が伯字紙にあった。暴動を起こす理由にW杯観戦を挙げる国がどれだけあるか。だいたい首謀者がすでにムショ暮しなのに。ボスは檻の中から携帯電話で塀の外に指令を送り、警察署を襲撃させた▼最初こそ麻薬団の攻撃で軍警らが次々と三十人以上殺されたが、次の晩には警察によって、それ以上に犯人らが撃ち殺された。もちろん裁判している時間はなかっただろう。最終的には全部あわせて百人を越える死者がでた▼先日の谷口潔軍警中佐の退職パーティでにこやかに記念写真をとっていた司令官が、鬼のような形相で「これは戦争だ!」と宣言している姿が何度もテレビに映し出された。百台近いバスが焼き討ちされ、銀行が襲われ、メトロも運行を一時停止し、繁華街は砂漠のように静かになった。世界で五本指に入る大都市で、だ▼朝のニュースではアナウンサーが自慢げな顔で昨晩の死者数を報じる。警官何人、賊何人と。まるでサッカーの試合結果のように。ボスは塀の中でテレビを見て、自らの大物ぶりを再確認して喜んでいるのかも。そんな場面が映画『シダージ・デ・デウス』にあったのを思い出した。自分も含めて一般市民はいたって平静だったが・・・▼ちなみに筒井は日本を代表するSF作家で、タブーに挑戦しながらブラックユーモアに満ちた前衛小説を多数執筆中。(深)
06/05/18