6月30日午後5時、南大河州ポルト・アレグレで開催されたドイツ対アルジェリア戦で、ドイツの選手と共に入場した9歳のジェツリオ・フェリッペ君。彼と家族にとり、その瞬間は勝利の印そのものだ▼早産で生まれたフェリッペ君は、脳性まひを患い、医師からは歩く事も出来ないだろうと言われていた。立つ事もトイレに行く事もままならない息子の姿を見て、サッカーが好きになってくれればと考えた両親が家の中にボールを持ち込んだ時も、ボールが怖く、転倒する事を恐れていた▼だが、今は体育館が大好きで、歩き方はやや拙くとも、館内を走り、シュートまでする。所属校のチームではゴールキーパーも務めるサッカー少年だ。「全てを怖がっていた少年」が「学校や学友、ドイツ人と自分の家族を代表して入場」、場内で試合を観る特権に与った事実は、本人や両親、周囲の人々にとり、勝利以外の何ものでもない。何事も「必ず出来る」と考え、諦めずに取り組む姿勢は、困難が少年と家族をより強くした証でもある▼誰もが米国が勝つと思っていたのに、最後の最後で引き分けに持ち込んだポルトガル。最後の数分で2点を決めてメキシコを突き離したオランダ。後半半ばからは1人を欠き、同点に追いつかれたが、延長戦も持ちこたえ、ペナルティで初の8強入りを果たしたコスタリカ、4年前の敗戦で苦杯をなめた、今大会で英雄と化したブラジル正キーパーのジューリオ・セーザルなども、最後まで諦めない姿の一例だろう▼華々しさが目立つW杯の背後には涙を呑んで戦場を去る選手達がいる一方、新たな目標に向かって歩み出す人達もいる事等を改めて思うこの頃だ。(み)