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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=10

 その夜は思わぬご馳走に、皆満腹で早くも眠くなったらしく、ゆっくり話の続きを聞きたい母は、急いで湯を沸かすと子供たちを行水させ寝付かせた。「文しゃん、1カ月ぶりに家に帰って来たが、もう立派になった様だね」と言って母は褒めて呉れた。
 自分もやはり色々と考えさせられて、心が広くなったと感じた事は確かだ。人間としては成長したのでは、と自分でも思うようになっていた。広々とした棉畑で、のびのびと働きながら考え付いた健康の大切さや栄養の取り方、その働き振りの中で考え付いた事などを話し、健康で働く事の大切さ、それには今の食べ物では今後が続かないので鶏を飼って卵を食べて体力を付けたい。
 そうするには、耕主三坂さんに前借りしてでも鶏を飼い、卵を食べられる様にすれば、両方に良い結果が出る事などを考えていたが、大塚さんはすでにそう察しておられたのか、5羽もの鶏を下さったなどと、母を相手に話をしていたら、おやじも兄貴も汗を流し、さっぱりした感じで話しの相手に加わってきた。
 おやじが来たので、小遣にと大塚さんから頂いた封筒を思い出し、取り出して父に渡した。おやじは表書に何も書いていないので手紙だろうと思い、開封して見たら50ミルレイスの札が出て来た。同封の手紙には、コロノしていたら食べるのがやっとなので、2年の義務農年が済んだら先輩として何とか力になるから、その為には体力を付けることの大切さや、おせっかいの様だが5羽の鶏を元手とし、少しずつ増やしていって、くれぐれも体を大事にしてくれと細々と書いてあり、同封の金は手伝ってもらった礼のしるしなので、文しゃんにやってくれとの事。おやじは渡してくれたが、万一の時の金として取っておいて貰う様に、おやじに納めてもらった。
 やはり棉は景気が良いのだろう。耕地では大人に劣らぬ位に働き、日給は1ミル500レース足らずだ。1カ月丸々働いても45ミルレースなのに、それに比べせいぜい20日位の棉摘は本当に大したものだった。その上に沢山のお土産。同郷の先輩様様だ。また、将来の独立の日には、力になろうと力強い手を差し延べてくれている。何と有り難い事か。将来が開けて見えて来た。
 次の日は朝早くから大騒ぎ。鶏達は足に紐が付いているので歩き回るのが不自由そうだ。先日拾って来てあった唐黍を持ってきて食べさせ、拾ってきた餌を撒いてあげたが、間に合わないほど食べ漁っている。すぐになくなった餌の補充に、川辺に行って青草を刈って食べさせてやり、皆畑に出て行った。朝食の用意に残った母親も、鶏のことが気になるようだったが、昨日の皆の喜び様に安心したのか元気そうに見えた。

第三節    コーヒー収穫

 5月の第2月曜日からコーヒーの収穫が始まり、今までの様に日給ではなく請負で一俵毎の計算になるそうで、家族総出で働ける仕組みになっており、子供にまで仕事が出来る。まだ相当に青い実がある。6月頃になるとほとんど黒くなって直ぐ落ちるが、赤い実青い実のある頃から始めないと9月になったら雨季になり花が咲く。熟れきるまでは待って居れず多少青いのがあっても始めるのだそうで、今日は梯子作りに森林に入り材料になる木を切りに行く予定らしい。

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