ホーム | 連載 | 2015年 | 静岡県菊川市=外国人児童の教育現場は今=人格形成と社会適応の現実 | 静岡県菊川市=外国人児童の教育現場は今=人格形成と社会適応の現実=(10、最終回)=幸せに生きられる居場所

静岡県菊川市=外国人児童の教育現場は今=人格形成と社会適応の現実=(10、最終回)=幸せに生きられる居場所

同窓会の様子(レスリルさん右から2人目、姉妹と一緒に学んだ友人、講師)

同窓会の様子(レスリルさん右から2人目、姉妹と一緒に学んだ友人、講師)

 焼津市の賛同を得られず、同教室が閉められる知らせは、子供たちにとっても講師たちにとっても、非常に残念な知らせとなった。
 「どうにかしてくれるでしょ、と周りに言われるが、さすがに厳しい」と山下さん。「私のプロジェクトじゃない、子供たちのプロジェクトなんだということが理解されてないんじゃないか」と訴える。
 ようやく実体となって現れつつある、国と国を結ぶ「架け橋」を途中で外すとは、なんとも皮肉である。
   ☆  ☆  
 移民大国ブラジルでは、多種多様な移民子孫が学校に混在し、最初から「国家建設の一員」と認められている部分があった。
 日本でここまで来てまだ本格的な移民政策が始まらないのは、「働き手が必要なときは受け入れるが、将来的には帰ってもらいたい。できれば日本人だけで日本を支えていくのが好ましい」という考えが根底にあるのではないか。だから問題が起きたら仕方なく対応するが、能動的に取り組んでいこうとはしない。
 そのような中で、子どもの文化センターやNPO法人インターネットスクール協会の虹の架け橋教室、そしてそれを支援する菊川市の姿勢は有難いものだ。困った人に手を差し伸べる人、団体、そしてその地域や現場の声を迅速かつ丁寧にくみ取る地方自治体の動きの良さは数年のうちに地域の発展として顕著に現れるだろう。
 これから予想されている人口減で、多数の地方自治体が消滅する可能性があるとも言われている。ブラジルは国を発展させるために移民を受け入れたが、日本の地方自治体は存続のためには、呼び寄せてでも移民を受け入れ、教育に力を入れてもいいのではないか。
 横浜市は2017年から、閉校した中学校を利用して外国籍児童・生徒向けのプレスクールを開設することを発表した。
 小中学校に籍を置きながら、プレスクールで生活様式や日本語を学び、スムーズに学校生活に入っていけるようにという目的は虹の架け橋教室と同じものだ。
 しかし、このように外国人が多い地域は必要にも迫られ、対策や支援が比較的とりやすいが、外国人が偏在している場合はどうだろうか。また、特定の国籍者の集住地域と、多国籍の場合はどうだろうか。さまざまなケースを調査し、外国から来た子供に対する経験を、日本は積みあげていくべきだろう。
 その先にこそ、日本政府が望む「多文化共生型社会」や「国際的な人材育成」が見えてくるのではないか。能力のある外国人成人を連れてきて永住させるのではなく、すでに永住しつつある外国人児童・生徒が日本の必要とする能力を持てるように育てる発想もあっていい。
 忘れてはならないのは、子供が教育を受けるのは、「親の面倒を見るため」でも「国を発展させるためでもない」ということ。その子自身が教育を受ける権利を持っているからだ。
 「最初は大変だったけど今は日本に慣れた」話や、高校進学、将来の夢を持つ子供の成功例は嬉しいが、その裏には、帰国や転居でまたもや環境を揺さぶられた子、中卒で仕事がなかなか見つからない子、いじめにあって日本が嫌いだという子、そして存在すら把握されていない子もたくさんいる。
 誰もがバイリンガルに育ち通訳になったり、母国と日本を繋ぐ仕事で活躍したりしなくていい。彼らがいま生きている場所で、将来も人並みに幸せな生活していくために、まずは学べる居場所を作っていかなければならない。(終わり、秋山郁美通信員)