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第23回 日本企業のブラジル撤退はブラジルのせいか? ①

 昨年終盤から今年にかけて、複数の日本企業のブラジル撤退話を聞いた。ブラジルと関係して20年以上、これまでも数多くの日本企業の撤退劇を見て来たが、よく「やっぱりブラジルは難しいですね」「こんなにコロコロと法律や税金が変わったらビジネスになりませんよ」「関税、物価が高すぎてお手上げです」などの言葉を残して去って行った。
 当然、その方たちは本社に帰っても同様のレポートを上げているであろうし、それを読んだ経営陣も「やっぱり」と思っているのではないだろうか。しかし、果たして本当に「ブラジルのせい」だろうか? これを繰り返す限り、日本企業は総人口6億人の巨大ラテンアメリカ経済圏を自社の市場として取り込めず、グローバルな競争に勝てないで終わるのではないか。
 実際、欧米企業の撤退も確かにこの国では日常茶飯事であるが、前々回マクドナルドの回でも書いたように、多くの欧米企業が、巨大な利益を本国にもたらしていることも事実である。経済が悪化しているイタリアのフィアットが生き残っているだけではなく、クライスラーを傘下に収めることが出来たのはなぜか?
 バブルが弾け、金融、不動産会社が次々と行き詰まっているスペインで、サンタンデール銀行はなぜ平気なのだろうか。それはともに、ブラジルでとてつもなく稼いでいるからだ。では、撤退組と成功組でどこが違うのであろうか?
 第一にまず、このコラムでも何度も書いているが、日本企業の事前調査不足、戦略不足がある。これも3つぐらいのケースに分かれる。意外と多いのが、ブラジル市場は重要だから、他国で子会社をつくる際の前例を踏まえた投資額でとりあえず進出しました、というパターン。
 担当者が2、3回ブラジルに来て、関係者を回って話を聞き、それで進出を決めてしまう。そういう会社は実際に来てもすべて自分でやろうとして、ブラジルに慣れるのに1年、市場を知るのに1年、やっと少し売上も上がり始めた頃に資金が底をついて撤退というパターンだ。
 2つ目は大企業の場合だが、外資などの大手コンサルティングファームにかなりのフィー(手数料)を払い、あらゆる資料をかき集めた分厚い辞書のような報告書をもらい進出。しかし、それには現地・現場事情に基づいたリアルな戦略・戦術はないので、現地に送り込まれた担当者は、現場を知って愕然となる。
 税制、労働法が日本とまったく違い、性格も日本人と正反対の生身のブラジル人と相対する現場で日々起こる問題の対処法はその報告書には書かれていない。ブラジルの法律も税金も慣習も極めて複雑である。知らないために犯したミスにより多大な罰金を課せられて撤退するケースも多い。
 3つ目は、お金も十分にある大きな企業が、フィージビリティスタディ(事業化可能性調査)の予算を叩いて、ブラジルを知らない日本の会社にわずかな調査費で上っ面をなめたような調査だけして、進出するケース。
 本当は最初から進出すべきではなかったと思える会社もあり、日本企業は重要なソフトにお金を払わないために大きなお金を失っている。要するに撤退の一つ目の原因は、進出前にあったと言える。(つづく)

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。  2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。

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