9月23日(木)
「ブラジルの醤油は日本の分類ではソースに入る」と森教授は言う。ブラジルと日本では醤油のように、同じ名前の食材でも品質が全く異なることもある。
日本と同じ味を再現しようとしても、日本のレシピのままでは上手くいかない。ブラジル産の醤油五種類を使い分けている日本料理店もある。
同様に小麦粉・蕎麦粉も日伯で事情が異なるようだ.。
◆蕎麦粉
「ポルケ・シン」の前田茂生さん(45)は東京で六年間、蕎麦屋を開いていた蕎麦職人だった。
「ブラジルにはかなりいい蕎麦粉がある。もしかしたら日本のものよりもいいかもしれない」と前田さんは話す。
蕎麦粉だけでは生地がまとまらないため、日本では普通強力粉、山芋などをつなぎに使う。ブラジルの蕎麦粉は粘り気が強いため、つなぎが少なくてすむという。
一九七〇年代から八〇年代にかけてブラジルから日本へ(日本需要の)約二〇%の蕎麦粉が輸出されていたほどだ。
しかし、いくら上質の蕎麦粉が取れても蕎麦を食べる人自体減ってきている。「蕎麦は一世の食べもの。二、三世は食べないよ。一世がいなくなれば蕎麦はなくなるんじゃない?」。日本でも蕎麦の需要は減ってきているという。ブラジルで広めるのはなおさら難しい。
◆小麦粉
蕎麦粉とは対照的に、うどんに適した小麦粉をブラジルで探しだすのは難しい。「ブラジルは粉に関して非常に大雑把」と前田さん。
日本には白玉粉からメリケン粉まで百三十八種類の粉があるが、ブラジルには強力粉と薄力粉の中間のものがあるのみという。「コシがあり、ツルツルッとしたうどんを現地の粉を調達して作るのは難しい」。
地方の日系団体の婦人会などでは、今でも行事の際に手作りうどんを出すが、前田さんに言わせれば「あれはうどんじゃない」。小売店に並んでいるような小麦粉を使っても、日本と同じような食感の麺はできない。
「ブラジル産の小麦粉ではコシが出ない」。グローリア街「中村うどん」の店主・小林ネルソンさん(50)もいう。
一九五四年、伯父の中村ウイチさんが始めた店を小林さんが引き継いだ。現在は焼きそば、天ぷら、鉄板焼きなども出しているが、二〇〇〇年までうどん専門店として奮闘してきた。
小林さんは、納得のいく麺を作るため小麦粉選びにはこだわった。予算の関係から日本産の小麦粉は使うことができない。国産の小麦粉十数種類で麺を試作。
見つけたのは、カナダで刈り取った麦をブラジルで製粉した「nita」。コシの強さが決め手だ。
「nita」はそれほど一般に普及していないため、安定して手に入れることが難しい。輸入自由化をきっかけに「ようやくここ五年間は安定して仕入れることが可能になった」という。つづく。 (大国美加記者)