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コラム 樹海

 「日系人がどれだけ大変な思いをしたか、日本ではまったく語られていない」。今月はじめ、サンパウロ国際映画祭に招待された今泉光司監督がそう残念そうに語った顔が忘れられない。独自の視点でフィリピン日系人の歴史を描いた劇映画『アボン・小さい家、地球で生きるために』を制作し、日本国内で百五十回以上も上映した▼日本と移住先国が戦争した場合、日系人の立場は実に微妙なものになる。「今でこそ普段フィリピン人は日本人と見るとニコニコしてますが、仲良くなってからよく聞いてみると、十人に二人は日本兵におじいちゃんとかを殺されてるんです」。経済大国ニッポンを見る現地の人の視線は複雑だ▼「日本の学校教育でも、旧日本軍がアジアでやってきたことは完全に封印してしまった。だからフィリピン国民と一般日本人との戦争に対する知識のギャップはどうしようもない。日本がお金をあげつづける間はニコニコしているけど、辞めたらガラッと態度を変えるかもしれませんね」▼ブラジルより少し早い、約百年前から移住は始まったが、戦後は日本人父親だけが引揚げた。「戦争中に日系人は日本、アメリカの両側からスパイ扱いされ、戦後は現地人からも虐められた。現地人の母親が迫害を恐れて子どもを連れて山の中に隠れた。そして乞食のような生活を三十年間もしてきたんです」。祖国と養国の狭間で戦乱に巻き込まれた日系子孫たち▼今泉監督には、さらなる日系人の歴史掘り起こしに期待したい。  (深)

05/11/24