ニッケイ新聞 2008年12月16日付け
リオの日本移民100年史が刊行されたというので取り寄せて拾い読みして見る。このような本はサンパウロでは汗牛充棟するほどに多いのだけれども、筆者の知る限りーリオで移民を扱ったものでこれほどの大冊が世に出たのは初めてではあるまいか。リオには山縣勇三郎や隈部三郎を始め安田良一など笠戸丸組よりも前にブラジルに渡った人が多い▼船乗りだったのに下船した白戸貫治という名物男もいたし、どこか一匹狼的な移民がいっぱいだったのかー移民の歴史を編纂しようというような状況が生まれにくかったのではないか。そのような意味合いでも、この上梓は評価されていい。ブラ拓の宮坂国人が陣頭指揮をとったダムと発電所建設の苦闘は、とりわけ優れている▼驚いたのは、ダムの水を流す巨大な鉄管や機械類が日本製であり、日立製作所の発電機は現在も立派に働いているとし写真まで掲載している。戦前から戦後にかけての仕事であり、関係者の苦衷は今の想像を超える。松岡利治さんの「山縣建設」も素晴らしい。勿論、1946年の「日本移民禁止」を論じた憲法審議は、もっと重く見たい。もしあれが可決されていたら戦後移住はなく、移民史の分岐点でもあったのだからー▼それと、これはコロニア出版物につきものなのだが、誤植と校正ミスがかなり目立つ。もう1つ。暴風で帆柱が折られた「若宮丸」が出港したのは宮城県の石巻であり、「陸奥(現在の岩手県)花巻」からーは間違いです。これは鈴木南樹の著書や「日系移民史」の年表にも記してあり早急に正誤表を出すべきかと存じます。 (遯)